後
その日は四月二日。エイプリルフールも終わったその日、新生私が札幌ホワイトアローズの所有者となった竹中華は全選手・スタッフの前でこう言った。
「皆さんには異世界でラグビーの普及活動をしてもらいます」
俺たちがその言葉の意味を理解しかねて、俺が彼女のほうを向くと予想していたという風な表情をしていた。
「信用できないと思うので、皆さんをお連れしますよ」
そう言って彼女が耳慣れぬ言葉を小声でつぶやくと床に光る魔法陣が描かれ、飛行機に乗っているときのようなキンとする痛みがやってくる。
「着きましたよ」
そこは無機質なオフィスの会議室ではなく石造りの堅牢な地下室だった。床には先程の魔法陣と似たようなものが刻まれており、全員がその状況を受け入れかねているのが分かった。
唯一何の動揺もないのはここに俺たちを連れてきた張本人だけだ。
「ここが異世界というのは信じがたいと思いますけど、もうすぐいい証拠が来ますよ」
ドタバタと数人の男たちが飛び込むようにやってきた。
それと同時に部屋に明かりがついて、彼らの異業さにすぐ気づいた。
彼らはみな髪や瞳がひどくカラフルなのだ。原色の赤や蛍光グリーンにピンクなど、染めたとは思えないような派手な髪色が自然にそこに生えている。
念のため眉毛やまつげも見てみるが同じ色だ。地の髪色と言う事になる。
彼らの服装も豪華な雰囲気は伝わるが見慣れないし、何語ともつかない言葉がより異世界感を出してくる。
「竹中さんは俺たちをここに連れてきてどうするおつもりなんですか」
「ですから、ラグビーを普及させるためですよ」
眉一つ動かさずシレッと言い放った彼女に俺は茫然とするほかなかった。
彼女に与えられた任務はここ・スプリングボクス公国でラグビーを普及させることだった。
スプリングボクス公国は初代公爵が日本人の妻とともに作り上げ、以降3世代に一人は日本から嫁を貰う風習が続く国だった。
しかしここ10年、近隣諸国との小競り合いが続いていて国軍の強化が急務となっていた。
武器や戦術の発明も進めていたが、雪国ゆえに国民は慢性的な運動不足になりがちで体力に大きな問題を抱えていた。
公国の若き主である竹中=スプリングボクス・華は、その解決法をもう一つの祖国である日本に求めた。
チームスポーツで体力と強い心を必要とするスポーツという条件から彼女が選んだのがラグビー、そして俺たちだったという事らしい。
「……なんてこった」
あれよあれよという間に与えられた桜の騎士団長の称号を刻んだネームカードを手に、俺は茫然とするしかないのだった。
どこに行くんだ、俺たち。
異世界でも筋肉はすべてを解決する!!! あかべこ @akabeko_kanaha
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