中
桜色の冬物のコートに身を包んだ彼女は俺に名刺を渡してこう告げた。
「札幌ホワイトアローズ、うちで引き取らせてもらえませんか」
名刺には『社団法人竹中財団総理事長・竹中華』とある。
竹中財団は東北で続く投資家の一族・竹中家の財産管理団体であり、彼女は若き女性投資家としてメディアでもたびたび名前が取り上げられながらもマスコミ嫌いで知られていた。
財団法人に移管というのも気になるが、入れ替え戦で負けたら廃部というのは知られているが動きが早すぎる。
「何故うちを?スポンサードならもっと条件のいいところがあるでしょうに」
「私が皆さんを必要としてるからですよ」
その言い回しには引っ掛かるものを感じながらも、直感的にチーム存続には彼女に頼る他ないという気もしていた。
ラグビー新リーグは開幕したものの三部リーグとなると注目度はいまいち、地元メディアは地元の野球チームびいきでうちが取り上げられるのは稀なため宣伝力に難あり、地域のクラブチームになるにも親会社に見放されたことを思えばより経営基盤が不安定になる方向に行く覚悟もない。
「事情は分かりました、ただあまりにも急すぎて」
「そうですね、後日そちらの社長さん込みで話し合いの場を設けましょう。何よりここは立ち話に向いてないですし」
彼女はそう告げるとふいっと指を小さく振ってから道端に止めてあったジープに乗り「では後日」と言って去っていった。
後ろを向くと駐車場の車の雪が全て溶け、俺の愛車がすぐに見つけられる状態になっていた。
****
それから話し合いはトントン拍子で進んだ。
元々チームを自社最大の無駄と捉えていた社長は買い手がついたことに驚きつつもチームの練習場ごと売却することを受け入れたし、彼女は一年以内にチームの設備をすべて更新する・口も極力出さない・追加で必要な人材も派遣するとまで言い放った。
代わりに企業として独立することにもなったが、株式は竹中華と竹中財団で100%保有となった。
全ての話がまとまったのは3月下旬、ようやく札幌も長い冬の終わりへと向かっている頃であった。
しかし彼女がそこまでして俺たちを手に入れようとしている理由は未だ明かされずにいた。
なんせ秘密保持契約まで全ての選手・スタッフに交わさせた(拒んだ奴は移籍先を紹介してきた)くらいなので相当なものだろうという察しはついており、このチームの購入にはただならぬ意味があることを感じさせていた。
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