第8話 決断と結果
「ったく……まだやるのかよ?」
明らかに面倒くさそうにそういう勇者。しかし、10回目の回復は明らかに今までと違った。
体がとても軽い。剣を持っているはずなのに、重さを感じない。
「……行くぞ」
俺はそう言って勇者に向かっていく。
「なっ……!」
勇者はすんでのところで剣で俺の攻撃を防御した。俺は、攻撃を受け止めた勇者の剣に対して全体重を乗せる。
「うぉぉぉぉぉ!」
思わず叫んでしまった。明らかに勇者の顔が引きつっている。
「お、お前……な、なんだ……それ……?」
「……お前が追放した奴の能力だよ。今の俺は……力だけならお前と同等レベルだ」
そういった瞬間、勇者が剣を弾き、俺と勇者の距離が開く。
「ゆ、勇者様!」
魔法使いが杖を構える。不味い……魔法に関してはまるで対策できていない。そもそも、俺は魔法は使えないし、魔法耐性もそこまでないのだ。
「やめろ!」
と、勇者が怒鳴る。魔法使いが驚いた顔で勇者を見る。
「……俺と戦士の戦いだ。邪魔するな」
「で、でも……」
「いいから、お前は黙って見ていろ!」
勇者に怒鳴られると、魔法使いもそれ以上は何もできなくなってしまった。
俺は今一度剣を構える。
「……いいのか? 魔法を使えば、俺はひとたまりもないことくらい、お前もわかっているだろ?」
「あぁ……。それなりに長い付き合いだからな。だけど……今の感覚、とてもワクワクしたんだよ……!」
と、いきなり笑顔になる勇者。俺は思わずゾッとしてしまう。
「……は? 何を言っている?」
「お前が俺と対等に戦えるようになるなんて……もし、その魔法、俺に使ったら、俺は最強になれるってことじゃねぇか!」
……なるほど。むしろ、勇者にとって、ますますヒーラーの魔法は魅力的になってしまったようだった。
「だが、お前がヒーラーを取り戻すためには……俺を倒せないといけない」
「あぁ、わかっているって。ここでお前に負けたら、俺は大人しくこのまま引き下がる。お前如き、素の状態の俺でも勝てるに決まっているからな」
そう言って、勇者も剣を構える。勝負は一瞬で決まる……俺は確信した。
「……行くぞ」
「来い!」
それと同時に、俺は勇者に向かって突進する。勇者も俺に向かってきた。
そして……本当にそれは一瞬だった。俺と勇者の剣戟が一瞬だけ交差する。
「……フッ。やっぱり……お前は勇者だ……な……」
そう言って、そのまま地面に倒れたのは……俺の方だった。
「そ、そんな……ちょ、ちょっと! 勝てるって言ったじゃない!」
そう言ってヒーラーが泣きながら俺に駆け寄ってくる。
「す……まん……やっぱり、アイツ……強いわ……」
「こ、これじゃ……私、パーティに戻らなきゃ……。って、あ、アンタ、血が……」
どうやら、勇者から斬られた部分から血が出ているらしい。なんとなく意識が遠のいてきた。
「ま、待ってて。今すぐ、治療して……!」
「いや……いい。お前は……パーティに戻れ」
「え……」
俺はヒーラーの方を見る。ヒーラーは驚いた顔で俺を見ている。
「俺は……もうパーティに戻れない。勇者と殺し合いまでしてしまった……。でも、お前は俺に協力しただけ……だから、お前は……パーティに戻れ」
「そ、そんな……じゃあ、アンタは……」
「これでいいんだ……。俺には……何もない。最後に、少しカッコつけれて……良かったよ」
思わず俺は笑ってしまった。そして、こちらを無言で見ている勇者を見る。
「……今まで、世話になったな。俺レベルの戦士なら探せばすぐ見つかる……」
先程までのテンションと打って変わって、勇者は無言だった。
結局、俺はヒーラーに対して何もできなかった、ってことは変わらない結果なのだ……。
段々と意識が遠のいてきた。俺は目をつぶる。
「だ、駄目! アンタもパーティに戻るの! 一人で抜けるなんて許さない!」
ヒーラーの泣き声が聞こえる。なんということだ……。
追放者を探していたはずなのに……最終的に追放されたのは、俺一人だった。
そんな皮肉に思わず笑みを浮かべてしまいながら、俺はそのまま意識を手放したのだった。
追放者を探して 味噌わさび @NNMM
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