うつろいゆく季節の中で、君と僕との境界線は
雪屋 梛木(ゆきやなぎ)
──
夏が、終わる。
首をもたげ、茶色く萎びた一輪のひまわりを見て、そう思った。
このひまわりが土へ還ると、その跡に紅葉の木が現れる。
程なくして紅が空から根元へ移り、真っ赤な絨毯に白いものがぽつぽつと積もりだしたら冬だ。
そして雪が溶け桃色に染まり、新緑の季節を経て黄色いひまわりへと巡り巡る。
ずっとその繰り返し。
この仮想空間での四季には飽き飽きしていたが、これ以外やることもないので延々と映像と垂れ流している。なんと非生産的なのだろう。
現実で浮かばれず、逃げ込んだ先の仮想空間でもひとりきり。
せめて一緒に見てくれる誰かがいてくれたなら──
僕はパチンと指を鳴らしそうになった。
急いで作業に取りかかる。
やがて、枯れかけたひまわりの傍らにひとりの少女が現れた。
なんでこんな簡単なことを思いつかなかったのだろう。
いなければ、作れば良いのだ。
突如として現れた少女は四季折々の花々に触れては頬を緩め、美しさにため息をついた。
まるで作り物だとは感じさせない彼女の一挙一動は、僕に信じられないほどの幸福感をもたらした。
彼女を僕のように飽きさせてなるものか!
半ば使命感にも似た感情に急き立てられ、僕は四季のバージョンアップに勤しんだ。
美しい音色の虫や鳥を増やし、太陽の位置も一律であったのをそれぞれの季節に見合った軌道へと修正した。
どれ程の歳月を費やしたのか考える事すらしなかった。
苦労の甲斐もあり、やがて小さな閉鎖空間は当初とは似ても似つかぬ絶景へと成長した。
季節の装いに身を包んだ少女が桜の絨毯を駆け抜けひまわりの花と背比べをし、紅葉のベッドに寝転がり、かまくらの中から雪景色を眺める。
ころころと鈴の鳴るような声で笑う彼女はなんと可憐で、なんと美しく、なんて尊い存在なのだろう!
もし、もっと素晴らしい絶景を作り出すことができたなら、彼女はどんな顔を見せてくれるのだろうか。
まだ、まだだ。これでは全然足りない!
一本の桜の木を見渡す限りの桜並木に変え、次はひまわりを無限に増やそうとしている最中にそれは突然やってきた。
仮想空間に大音量で警告音が鳴り響く。
容量オーバーか? それともウイルス?
悠長なことを考える時間はなかった。
原因も掴めぬうちにデータが次々と消えていく。
太陽から光が消え、草は枯れ、木々が霧のように立ち消えていく。
僕は焦った。彼女だけはどうにか守らなくては!
しかし一体どこに移せばいい?
安全な場所など、どこにも……いや、あるじゃないか。ここに!
全てのデータが消え去る寸前、幸運にも彼女を僕の脳内へと移送することに成功した。
容量不足により彼女と一緒に救えたのは一輪のひまわりだけ。
何もない空間で、ひまわりが芽吹き花咲き枯れていく。その繰り返しの中、変わらず笑う彼女は今日も──
美しい。
うつろいゆく季節の中で、君と僕との境界線は 雪屋 梛木(ゆきやなぎ) @mikepochi
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