第3話 推しが今日も死んだ

 あれから、どうなったかというと。

 特に変化は訪れなかった。


 今日も誰かの推しが死に、それに悲観したファンが死に、またそれに触発された友人知人が後追い自殺をしたり、しなかったりした。

 推し界隈も、消えるところがあれば、また復活するところもあり、政府に抵抗したり、しなかったりした。


 わたしはというと、また違う漫画のキャラを好きになっていた。

 今度は絶対死にそうにない、不死の吸血鬼「ノス」だ。

 主人公が絶対吸血鬼殺すマンというバンパイアハンターだというのが少し不安だが、好きになってしまったものはしょうがない。


 ルミも、レイカも、ランも、ロコも、それぞれ新しい「推し」を探しはじめているようだった。

 学校は自殺者がこれ以上でないように、屋上に鍵をかけるようになった。


 ネットニュースを見ると、今日も誰かの推しが死んでいる。

 でも、わたしたちは強く生きていかなくてはいけない。

 だって、自分が死んだら、誰が推しを推すというのか。


「リンコ、今度の推しは死なないといいね~」

「ルミ。うん、ありがとう」

「さっすが~。私もリンコのメンタル見習っといたほうがいいな」

「レイカ。うん、見習って、見習って!」

「死んだら、蘇らせるまでよ……何度でもね」

「ラン。クラシック復活の署名、もうそんなに集まったの!?」

「自分もほら、新しい真面目な事務所の芸人見つけたんだ。これがまた最高でさあ」

「良かったじゃん、ロコ」


 今日もわたしたちは生きていく。

 いつ死ぬかわからない「推し」とともに。



 完

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推しがみんな死んだ 津月あおい @tsuzuki_aoi

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