第13話

 俺は夏葉が職員室で教頭と校長の会話を聞いた内容を部員のみんなに伝えた。


 「あの小汚いバーコード野郎ども」


 洋太郎は苛立ち混じりの声で言った。


 「で、どうするんですか」


 机に座って足をブラブラさせている荒川が言った。


 「どうするって後1人探すしかないだろ」


 俺は洋太郎と荒川の間の席に座って部室の前後のドアを挟んであるボードをじっと見て言った。


 「私はまだ転校してきて人脈がないからこの中で1番人脈がある人は?」


 夏葉は全員の顔を見渡して言った。


 「やっぱり、1年の人気者の荒川じゃないの」


 俺はわざと嫌味な言い方で言った、


 「わぁ、腹立つのりだわ相沢」


 「先輩をつけろよ、先輩を、生意気な小娘が」


 「2人とも仲良いな」


 洋太郎は俺と荒川の顔を見てニヤッと微笑んで言った


 「鮎川先輩といい麻生先輩もなんなんですか。嫌味ですか、相沢も言ってくださいよ」


 荒川は机に両手をついて洋太郎の方へ前のめりになったせいか荒川の胸が俺の顔に触れた。


 「何してんのよバカ!」


 荒川は俺の頭を叩く。


 「イタッ、いやなんで俺が……」


 荒川は恥ずかしげな顔で両手で自分の体を抱きしめる。


 「元を辿ると洋太郎が悪いんだぞ」


 「ごめん」


 洋太郎は手の側面を俺と荒川に交互に向けて縦に何度か振ると同時に頭も軽く下げた。


 「いえ、別にたいして気にしてないから大丈夫です」


 「たいして気にしてないんかい、じゃあ殴るなよ」


 「麻生先輩の発言は大丈夫ですけど、相沢は許さない」


 「だから、先輩を……」


 「ちょっといい、健二と鈴音は自発的に喋るのは厳禁ね。あなた達が喋ると話が脱線して話が前に進まないわ」


 夏葉は俺と荒川に辛辣な口調で言ってその場を諫めた。


 俺は口の前に指で×マークを作った。荒川は唇の右端っこから左端にかけて指で口にチャックした。


 「ってことで、本題に入りましょう。鈴音は人脈が広いの?」


 「……」


 荒川は律儀に口にチャックをしたままで喋らなかった。


 「喋っていいわよ」


 夏葉が言ったことを忠実に守っている鈴音をみて夏葉は顔が綻んだ。


 「えーっと、まぁ、自分で言うのも自慢してるみたいで嫌ですけど人脈はかなり広いと思います」


 「じゃあ、部活に入ってなくて映画に少しでも興味ある人はいないかしら?」


 「うーん、あ、いました。でも、彼は現在不登校で学校に来てません」


 「名前は?」


 「日高ひさし君です。彼は確か映画に興味があるって自己紹介の時言ってました。三島君は知ってる?」


 荒川は義弘の顔を見て言った。


 「1年B組の日高くんだよね?」


 「うん」


 「確か、彼は勉学も運動神経もそれなりに良い方なんだけで人付き合いが苦手で不登校になったって聞いたよ」

 

 「そうなの、鈴音?」


 「はい。私は元々接点がなかったんですがあまり人と接するのが得意じゃない様に見えましたね。なので、日高君は周りと距離を取るようになって彼は孤立していきました。それから、クラスのリーダー格の生徒が孤立した日高君の陰口をたたくようになって、その時のクラスの雰囲気は最悪でした。それで、夏休みに入る前の6月の下旬ぐらいから彼は学校に来なくなりました」


 荒川は沈んだ表情をして淡々と日高君が不登校になった経緯を話した。


 「じゃあ、この日高君をこの部に入部してくれるか駆け寄ってみるか」


 「あなた話聞いていた?」


 夏葉は焦燥感のこもった声で言った。


 「あぁ、しっかり聞いてたよ。きっと、日高君は対人恐怖症だよ。日高君は人と接するのを避けたいんじゃなくて避けざるえないんだよ。自分が人に不快感を与えるんじゃないかって考えてしまうんだよ。だから、彼のとこ行って学校に来なくても部活だけでも興味あるか聞いてくる。無理強いはしないよ」


 「なんで、そんなこと知ってるの?それに、家に行くのは逆効果じゃないの?」


 「俺がそうだったから。いや、俺は地獄まで一緒に這いずりまってくれるような友達がいたから克服できたんだ。恐らく、俺は日高君もそんな人を求めていると思う」


 俺は逞しい笑顔で言った。


 表情をなごませている洋太郎と隆一の顔と俺を見て夏葉は溜息をついて顔が緩む。


 「分かったわ。でも、私も協力させて。それに、今回は慎重に物事を進ませたほうが良いわ」


 「りょーかい」


 俺は柔和な顔つきで言った。

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らしく 綾瀬徹 @akikan665

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