祭りが終りゃケの日常

 結局ハワイへはたどり着けなかった。ただ、命だけは助かった。俺はひたすら海上を漂い、意識を失っているところをたまたま救助されたらしい。そこから病院に送られ、気が付いたらベッドの上だった。久しぶりに飲んだ水はとてもおいしかった。あいつらが命がけで水神なんて信仰するわけだ、って思ったりした。

 もちろんそんなことが起きたら事件になりニュースになるわけで、この出来事は日米双方で一大スキャンダルとなった。俺の勤めてた会社はこの風習を知ってて薬の生産のために黙認していたことがすっぱ抜かれ、倒産した。取引先や下請まで含めると数千人が路頭に迷ったと思う。うちの薬を使ってた患者さんたちも今は痛みに苦しんでると思う。他の疼痛治療薬もあるけどさ、合う合わないってのはどうしてもあるし。けど、だからといって俺が犠牲にならなきゃいけないってのはおかしいと思う。誰かを踏みつけにして、それで「お前が黙ってればみんながハッピーなんだ」っていうのは、やっぱり絶対におかしい。どんな理屈があっても、生贄なんてよくない。


「な、お前もそう思うよな」

 窓の外に話しかける。茎が太く、短く、真緑の実をいくつもつけた植物が日本の風に揺れている。

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トロピカル因習アイランドへの長期出張 只野夢窮 @tadano_mukyu

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