誰も代われない唯一の場所が欲しい事はいけないの?【カクヨムコン8短編参加中】

三愛紫月

たった一つ誰にも取られない椅子が欲しいだけ

私達の生きるこの世界は、椅子取りゲームに似ている。


とうとう、43歳になってしまった。私、美浜梨華みはまりか


美浜家の長男である美浜裕樹みはまゆうきと結婚して20年目を迎えていた。


残念ながら、子宝に恵まれる事はなかった。授からないとわかっていたら、私は仕事を手放さなかっただろう。


「まさか、43歳で生理があがっちゃうなんてねー。人生は、わからないものだわ」


私は、昨日産婦人科で生理があがった事を告げられたのだ。


煎餅を食べながら、お茶を飲む。


過去の栄光のように、楽しかった青春時代を過ごした友人は、皆、椅子取りゲームの勝者になったのだ。


SNSを見つめながら、私はたった一つ誰にも取られない椅子を手にする事が出来なかった敗者だと気づかされるのだ。


だから、SNSは大嫌いだった。


皆、その椅子を手にした事を誇らしげに語るのだ。


その椅子を持てないものだけが、人生と言う名の椅子取りゲームの唯一の敗者なのだ。


どれだけいい家に住もうと、どれだけお金を稼いでいようと、どれだけ今が幸せであろうと…。


その椅子を手に出来ないものの人生は、敗者なのだ。


バリバリと煎餅を音を立てながら食べる。


「あー、旅行行きたいなー」


私は、テレビを見つめながらそう言った。


このお菓子のCMって、前は芹澤せりさわののかだった。


あの子も、負けちゃったのか…。


私は、芹澤ののかをスマホで検索する。


アイドルグループe/w《シイラ》とのお泊まり愛が発覚と書かれている。


「シイラって有名なアイドルグループじゃん。そりゃあ、取られちゃうよね」


有名人の椅子取りゲームは、一般社会よりも激しそうだ。


『私の代わりはいないんです』


かつて、私が大好きだった女優の牧瀬優衣まきせゆいは、そう言っていた。


私も、昔はそう信じていた。


しかし、大人になって知ったのは私の代わりなんていくらでもいると言う事だった。


そして、もう一つ知ったのは代わりを取られない椅子ばしょをみんなが望んでいると言う事だった。


 

それは、小学生の時にやった椅子取りゲームに似ている。


あれは、きっと人生を教えてくれていたのだと今になってハッキリとわかる。


私は、その奪われない椅子ばしょを手にする事は出来なかった。


スマホに届いたメッセージを見つめながら、そろそろ夕飯の支度をしなければと立ち上がった。


煎餅の袋を輪ゴムでパチンと閉じて、お茶のコップを流しに置いた。


私は、冷蔵庫を開けて覗き込む。


残念ながら、結婚は奪われない椅子ばしょではない。


私が死ねば誰かが、この椅子ばしょに入り込むのだ。


いや、死ななくても誰かがこの椅子ばしょを奪っていくのだ。


それは、事実だ。


夫を愛してはいるが、夫が不貞をはたらかない人間だと信じているかと言われると答えはNOだ。


愛というのは、見たいものしか見せない。


恋は盲目という言葉があるが、その通りだ。


愛は、私の目を濁らせる。


愛されているという自負が、私に真実を見せようとしないのだ。


だから、私は愛しているけれど信じれるかどうかは別だと思っている。


私と夫には、奪われない椅子が存在しないからだ。


二人で、必死に守る椅子ものが存在しないからだ。


それがあるのとないのとで、夫婦の絆の強さは違うのは、馬鹿な私の脳みそであってもわかるのだ。


「夫婦は、それだけじゃないわ」


「二人でも生きていけるわよ」


「子供がいるだけが人生じゃないわ」


などという言葉は、椅子取りゲームに負けてから言って欲しいものだ。


そう。


人生の椅子取りゲームの勝者は、子供を持った人間なのだ。


だって、その場所は揺るがないのだ。


その椅子は誰にも奪えないのだ。


絶縁されても…。


虐待されても…。


死んだとしても…。


誰にも奪う事が出来ないのだ。


私だってそうだ。


生きてるか死んでるかもわからない父親と結婚してすぐに亡くなった母親との遺伝子がしっかりとこの体には組み込まれているのだ。


残念ながら、遺伝子が組み込まれているという事は…。


父親の酒癖の悪さも、私の潜在的な能力の一つとして眠っているという事だ。


私は、その能力を発掘させない為にお酒を一滴も体内にいれていない。


お酒を飲むと父親の酒癖の悪さが出てくるのがわかっているからだ。


暴力を受けて育てば暴力をしてしまう。


不倫をする親だったなら、不倫をしてしまう。


それは、当たり前のように遺伝子に組み込まれているのだ。


それをわかっていないと過ちをおかすのだ。


だから、私はお酒を飲まない。


何が、引き金になるかを自分できちんと理解しているからだ。


ピー、ピー、ピー


冷蔵庫の音を聞いて、思考はすぐに晩御飯の献立に切り替わった。


「買い物行くの忘れた」


私は、残り物を整理しようと決めた。


昨夜の肉じゃがの残りをカレーにしてやろうと企んだのだ。


鍋に汁ごと肉じゃがをうつしいれて火にかける。


カチカチカチカチ…ボウッ


私は、肉じゃがを温めながらぼんやりと考える。


結局は、子供が欲しかったって事よね。


もっと早くに、子作りをするべきだったのかもしれないと反省していた。


結婚をして子供が産むのが女の価値だと言いたくはないけれど…。


実際問題、そうなのだから仕方ない。


そんな風にいうと、突然何タラ団体というよくわからない団体が抗議し出したりするのだ。


人権だとか、産む産まないは自由だとか今になって突然言い出すのもどうかしている。


私達は、何十年という長きに渡って、女性は結婚し子供を産み育てる事だけが幸せであると思想を植え付けられてきたではないか…。


だったら、私を小学生に戻して皆さん平等です。


男女も関係ありません。


女性は、子供を産むのが全てではありませんと教育しなおしてくれればいいのだ。


やはり、こんな片寄った事を世間で叫ぼうとすると…。


セクハラだ。


パワハラだ。


モラハラだ。


と、何でも間でもハラスメントにされてしまうのがわかる。


それが、今の世の中の仕組みである。


テレビに出ている芸能人達も、コンプライアンスが、コンプライアンスがと言い出してきて、テレビも、もはや面白くなくなった。


「頭の中でも、取り締まられそうだわ」


私は、グツグツと煮たってきた肉じゃがの日を止めてからカレー粉を取り出していれる。


どうして、私がこんな訳のわからない思考を生み出し始めたのかというと…。


あれは、12月10日の出来事だった。


小学校からの友人の春川桜はるかわさくらから、突然SNS宛にDMが届いたのだ。


メッセージを開くと、話したい事があるから連絡をして欲しいと番号まで、ご丁寧に書かれていた。


私は、仕方なく春川桜に連絡をした。


春川桜、あだ名はハル。


同級生に桜が、二人いたのでそう呼ばれていた。


学校の中で、彼女はミニマムサイズだった。


150センチに満たない身長とは対照的な目元はシャープな印象でキリリとしていた。


身長は、小さいけれど…。


彼女は、とても出来る女って顔をしていた。


それは、成人式に会った時も同じ印象だった。


ハルは、小学生の同級生の中で一番最初に結婚した。


19歳で結婚したのだ。


私は、ハルはとっくに子供を授かって、子供も成人しているものだと信じて疑わなかった。


連絡をすると、ハルは開口一番にこう言った。


『梨華は、子供いないのね』


また子供がどんなに素晴らしいかという物語を聞かされるのかと思いながらうんざりする気持ちで「うん」と答えた。


でも、ハルの言葉は意外なものだった。


『私と同じ人が、同級生にいるなんて思わなかった』


私は、ハルの言葉に初めて仲間を見つけた。


それからは、昔話に花が咲いた。


ハルと話す事は、子供が授かれない私にとって救われた日々だった。


同じ気持ちを分け合える事が出来る事が、こんなにも素晴らしい事だと私は初めて知った。


嫌みじゃなくても、嫌みに思える友人達のSNSなんかよりも素晴らしくて幸せだった。


私は、ハルと毎日のように電話をしたし、連絡の出来ない日は、人には見えない鍵アカウントにしているSNSを使って毎日のようにお互いに投稿を見せ合っていた。


そこで交わすハルとのやりとりも大好きだった。


ただ、12月28日を越えた頃からハルからの連絡の頻度が急激に減った。


SNS上の投稿を読みながら、ハルの心が壊れ始めているのが読み取れた。


私は、ハルを励ました。


でも、子供がいる人生が欲しいと言われるとわかるとしか言う事が出来なかった。


そして、1月20日…。


ハルは、自らを殺した。


私は、通夜、告別式に参列をして…


ハルが離婚する予定だった事を知った。


そして、ハルの誕生日の4月2日にお墓参りに行った日にハルの夫がお腹の大きな女の人といるのを見かけた。


あの投稿の意味がわかった。


【誰も代われない唯一の場所が欲しい事はいけないの?】


その意味がわかった。


そして、ハルが最後に私との電話でこう言った。


『梨華は、その椅子を奪われないといいね』


同時に、その言葉の意味も知った。


「ただいまー」


夫の声に引っ張られた思考は、現実に引き寄せられた。


「いい匂いですねー。梨華ちゃん」


ニコニコ笑いながら、私の後ろに立った。


「何で、敬語?」


「あー、先輩と途中まで帰ってきたからだわ、ハハハ」


「裕樹は、私の場所を誰かに渡す?」


「うん?」


小さな声で、呟いた言葉は夫の耳には届かなかった。


「もうすぐ、ハルさんの月命日だね」


夫は、カレンダーを見つめながらそう言っていた。


「うん」


あの日から、私は考えても考えても答えを見つけられない沼の中を泳いでいる。


もがけば、もがくほど、沈んでいく。


底無し沼にいるみたいで


それは、ハルの月命日がやってくる度に起こる。


「俺も一緒に行くよ」


「裕樹は、会った事ないでしょ?」


「関係ない、関係ない。だって、梨華を救ってくれた友達だろ?」


そう言って、夫は私の顔を覗き込んだ。


「ありがとう」


「じゃあ、着替えてくるわ」


「うん」


私は、お皿を取ってご飯をよそってからカレーをよそった。


ダイニングテーブルにカレーのお皿を置いた。


サラダは、昨日の残りのスパゲッティサラダがあった。


私は、冷蔵庫からスパゲッティサラダを取り出した。


「おお!美味しそうだね」


「うん」


「食べようか?」


「うん」


私は、ルイボスティーを冷蔵庫から取り出した。


夫は、お酒を飲めない。


飲まない私とは違うけど同じだ。


『いただきます』


私達は、向かい合ってご飯を食べる。


「あのさ、裕樹、私達って愛される為に何を差し出せばいいんだろうね?」


抜け出せないループの欠片を、私は夫に差し出した。


「金、学、愛、体、後は、何があるっけ?」


そう言って、夫は私を見つめる。


「無償では、愛されないんだよね」


「愛されないね」


夫は、そう言いながらルイボスティーを飲んでいた。


「でもさ、よく愛は無償だって聞くけどね」


「誰がそんな事、言ったの?そんな綺麗事…」


夫は、そう言いながらスパゲッティサラダを食べる。


「やっぱり、綺麗事だよね」


私も、スパゲッティサラダを食べる。


「無償の愛なんか存在しないよ」


「知ってる。そんなの物心ついた時から…」


私は、そう言ってカレーを食べる。


「俺も知ってるよ!物心ついた時から…」


「じゃあ、何で私達は一緒にいるのかな?」


夫は、私の言葉に「なんでだろうね」って言って笑った。


「居心地がいいから?楽だから?」


「かもな」


「男の人の愛してるって、抱きたいって意味だって知ってた?」


「だろうね」


夫は、そう言って笑った。


「女も同じようなもんだよね」


「愛されたかったら、その身を捧げるしか方法はないんだろうな」


夫は、そう言いながらカレーを食べていた。


愛されたかったら、何かを差し出せなければならない。


その通りだ。


私は、夫にご飯を作り、掃除や洗濯をしている。


その見返りとして、養っていただいてる。


まあ、こういうと大抵の人は家政婦じゃないとかって怒るんだよね。


それなら、【離婚】すればいいだけの事…。


私は、専業主婦でいさせてもらう代わりに家事をやっているのだ。


妻として存在する為に家事をやっているのだ。


「ごちそうさまでした」


「うん」


「ゲームしてきてもいいかな?」


「いいよ」


私は、夫にそう言った。


私達は、物心ついた時から何かを捧げなければ愛されないというのを知っている。


「ごちそうさまでした」


私は、お皿をキッチンに下げに行く。


お皿を洗いながら、また考える。


こんな片寄った考え方をわかってくれるのは、ハルだけだった。


ハルは、夫といる為に家事をこなしながら若作りに励んでいると話していた。


私達は、そうやって自分の椅子ばしょを守らなければいけないのだ。


会社という椅子ばしょに座り続ける為には、私達は自分の持つ能力を差し出し続けなければならない。


そのお陰で、私達はお給料をもらっているのだ。


何も差し出さない人間は、その椅子ばしょにずっと居続ける事は出来ない。


だから、私達は誰にも取られない椅子ばしょを欲しがるのだ。


それが……。


子供だ!


どんな事が起きても、揺るがない場所なのだ。


自分専用の椅子ばしょなのだ。


って、こう考えたら椅子と人間を同じように考えるなと言い出す人間ひとが出てくるのも事実だろう。


でも、私はハルに教わったのだ。


人生は、椅子取りゲームだと…。


小学校の時に流行っていた椅子取りゲームに似ていると…。


そういえば…。


「次、座らせるから変わって」


「絶対離さない」


「あっ、そっち」


「私は、いいからどうぞ」


「私の方が座ってた」


椅子取りゲームって、性格も出ていたかも。


私達は、たくさんの人を蹴落としながら生きているわけで…。


優劣をつけるのも、昔から変わっていない。


みんな平等だと今さら言われた所で…。


私達が生きている間には、平等の世の中など来ないのは想像できる。


何故なら、私達は男は女に手を上げてはならないという教育を受けて、女性は守るものだと教えられた。


平等だと言うのならば、男が女を殴ってもいいと言う話しになるのだ。


そんな事を言うと、極論だと言われそうだ。


しかし、平等だというのはそういう事になる。


少なくとも私は、そう思っていた。


「明日、早いから寝ようよ」


夫の声に、私はお皿を拭く手を止めた。


「明日、朝から行くの?」


「うん。朝から行こうよ」


夫は、そう言って私の隣に並んだ。


「裕樹…」


「俺、聞いたことなかったよな!ハルさんってどんな人?」


「ハル?ハルはね…。ほら、あの童謡あったでしょ!昔の…」


「春を愛する人は…何たらってやつ?」


「そうそう。本当にあの歌詞みたいな人だった」


「そっか…。素敵な人だったんだな」


夫は、そう言いながら冷凍庫を開けていた。


「アイスクリーム食べるの?」


「これ、食べたくて半分こしようか?」


「うん」


そう言って、夫は私に半分に割ったアイス最中を差し出した。


「ありがとう」


「うん」


「裕樹は、幸せ?」


「幸せだよ」


「二人で生きてくのって難しいね」


「そうだなー。絶対、いなくならないって安心感ないもんな。子供は親を選んでくれるけどな」


そう言って、夫は頷きながらアイス最中を食べている。


「そうだね。絶対はないよね」


私は、そう言いながらアイス最中を食べた。


いつ、誰に取られるかわからないその椅子ばしょを必死でしがみついても守っていくしかないんだよね。


それが、夫の隣にいれる事なら…。


「美味しかったー。ごちそうさまでした」


「うん。美味しかったね」


私も夫も、アイス最中を食べ終わった。


「子供の頃、俺、最中嫌いだったんだよね」


「わかる。私も嫌いだった」


「味覚はどんどん変わってくのにさ…。苦手なものが増えてくよな」


「わかる」


「食べれるものは、増えたのに…。嫌いな人も増えたよな」


「わかる」


私と夫は、二人で笑い合っていた。


凄く好きとか凄く愛してるって気持ちだったら、私は夫を選ばなかった。


私が夫を選んだ理由は、ここが楽だったからだ。


嫉妬に狂いそうになる事も、焼き餅を妬く事もない。


穏やかなんだよね…。


夫は、小川みたいな人だと思う。


「先に寝るね」


「うん、おやすみ」


夫は、そう言って寝に行った。


こんなに穏やかでいいのかな?って、時々思う。


私達の相性は、きっと普通だ。


私は、夫を姉弟みたいに感じている。


気を遣わなくていい。


話をたくさんして、繋ぎ止める必要もない。


互いに別々の事をしながら、過ごす。


私は、夫がゲームをしてようがプラモデルを作ってようが何も気にならない。


甘えたり、構ってくれとも思わない。


私の人生の中で、初めて出会った不思議な存在が夫だった。


「私も寝ようかな」


私は、お皿を片付け終わってから洗面所で歯を磨く。


パジャマに着替えてから、寝室に行く。


私達は、別々のベッドに寝ている。


愛してるって言わなくていい人って存在するんだね。


私は、目を閉じて眠った。


ピピ、ピピ、ピピー


「ふぁー」


「おはよう、梨華」


「おはよう」


「朝ごはんは、外で食べよう」


「うん」


私は、ベッドで伸びをして毛布を蹴飛ばしながら起き上がる準備をしていた。


「懐かしい夢見た」


ポツリと独り言を話していた。


「梨華。人が愛してるって言うのはね!自己暗示をかけてるんだよ。私は、この人を愛してる。愛してるって…。そうしなきゃ愛せないんだよ」


ハルがそんな話をしていたのを思い出した夢だった。


確かにそうかも、好きだよ、好きだよ、好きだよって言い続けてたら好きな気がしたりするもんね。


起き上がって、もう一度伸びをしてから洗面所に行く。


洗面所に行くと夫が歯を磨いていた。


「何?」


「ううん」


夫には、好きだよ、好きだよって暗示をかけた事ないかも。


愛してるってのも、そんなに言わないかも。


だけど、ふとした瞬間に愛してるや好きが降りてくる不思議な人なんだよね。


「着替えておくよ」


「うん」


私は、頷いてから顔を洗って歯を磨いた。

リビングに行くと、夫はバッチリ準備が整っていた。私は、水を一杯飲んでから服を着替えに行く。


用意をして、薄化粧をすませた。


「行こうか」


「うん」


家を出ると車に乗り込んだ。


夫は、車を走らせる。


しばらく、走って、ドライブスルーで、ハンバーガーを注文した。


「ジャンク、食べれるだろ?」


「そうだね」


もう、子供を望む必要もない私は、ファーストフードを食べれる。


車を走らせながら、食べるハンバーガーの味は格別だった。


「うま」


「もう、最高」


窓を開けると夏の香りが、そこまで近づいてきていた。


「裕樹、ポテト食べる?」


「食べる」


「はい」


私は、ハッシュドポテトを裕樹に食べさせた。


「残りの人生は、好きなもの食べて、好きなように生きような!梨華」


「うん」


お墓近くのお花屋さんに寄って、花を買って行った。

駐車場で、車を停めて降りて歩き出す。


「あれって、ハルさんの旦那さんだよな」


夫は、そう言いながら歩いていく。


私も後ろをついて、歩いていく。


「こんにちは」


私達を見つめて、ハルの旦那さんはそう言った。


「再婚されたんですか?」


「もうすぐです。子供も授かりましてね」


「そうですか、おめでとうございます」


私は、ハルの旦那さんを見つめてそう言った。


「ありがとうございます。では…」


旦那さんは、そう言っていなくなった。


「ハルさんは、ここに入りたかったのかな?」


「えっ?」


「何となくだよ」


そう言いながら、夫はお花をさしてくれている。


「確かに、そうだよね」


「離婚は、決まってたんだろ?さっきの人が妊娠してるのも知らなかったわけないよな?」


「そうだよね」


「ここに入りたかったのかな?」


夫が花をさしおえた。


私達は、ハルのお墓に手を合わせた。


手を合わせながら、私は夫のさっきの言葉を考えていた。


「あのね…」


「うん」


「ハルは、きっとここに入りたかったんだよ」


私達は、お辞儀をして歩き出す。


「それは、どうして?」


「椅子取りゲーム」


私の言葉に、夫は理解した顔をする。


「渡したくなかったんだね。愛していたから…」


「裕樹もしがみつくタイプだったの?」


「俺は、諦めないタイプだったよ」


そう言いながら、私と裕樹は笑った。


社会は、椅子取りゲームに似ている。


よそ見をしていると開いてる席に誰かが座る。


押し合って、蹴落として、僅か一つの椅子を欲しくて私達はどこまでも必死になる。


その椅子の奪い合いに疲れたものから、自分だけの椅子を見つける。


最後は、その椅子を持つものだけが勝者になる。


どれだけのお金があっても


どれだけ大きな家に住んでいても


いくら頭がよくても


いくら容姿がよくても


いくら中身がよくても


その椅子を手に入れる事が出来ない人間は、敗者なのだ。


「コーヒー買いたい」


「フラペチーノ食べる」


「いいね」


だから、私と夫は敗者なのだ。


いつか、誰かに椅子を奪われるかもしれない。


それをわかっていながら、共に生きる事を決めた。


そして、ハルは違う形でその椅子を離さなかったのだ。


私は、これから先も答えを探し続けるだろう。


大好きなハルが置いていった大きな宿題の答えを…。


いつか、答えを見つけたら…


一番最初に、ハルに教えにくるね!


空を見つめてから、私は車に乗り込んだ。


大好きだよ、ハル。















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