七日目(金) そしてその後...
「おはよう。」
「おはよう!」
いつも通り挨拶を交わした。
「今日で最後だから、自転車押して歩かない?」
と彼女が言った。
「うん。そうしようか。」
と言って、自転車から降りた。
「初めて会った日もこれくらいの寒さだったね。雨も降りそうだし。」
「そうだね。」
と彼女が答えた。
話が途切れた。
そんなことを気にする余裕は全くなかった。
心臓がはち切れそうなほど脈打っているのが、自分でも分かった。
「あのさ...」
「どうしたの?」
「好きだよ。初めて会った日から、僕は君のことがずっと好きだったよ。君とは今日でお別れだけど、僕は君の事を一生忘れないと思う。出会ってくれて本当にありがとう。」
僕はいつの間にか涙を流していた。
彼女が口を開いた。
「ありがとう...」
彼女は顔を伏せ、言葉に詰まった。
「私は.....
君のことが大っ嫌い。」
彼女は見たことのないほど不気味な笑顔だった。
「.....え。」
彼女は満面の笑みで話し始めた。
「ふふっ、ははは!だから!!君のことが大っ嫌いだって言ってるの!!!」
僕は状況を理解できずにいた。
「君と私は一年前ちょうどこの場所で会ってるんだよ。事故にあった瞬間、私にはまだ意識があった。なのに君は!振り返るだけで助けようとはしなかった!君しかあの場所にはいなかったのに!あの時君が助けてくれていれば、私は死なずに済んだのに!」
彼女がそう言うと、冷たい雨が降り始めた。
ずっと違和感を持っていた既視感の正体は、彼女とは事故の直前にすれ違っていたことだった。
けど、あの日は...
「あの日は、今みたいに雨も降ってて...時間もぎりぎりで...それに、あの事故に巻き込まれた人がいたことだってニュースで知ったし...。」
「うるさい!!そんなことは関係ない!君がどう思っていたかなんてどうでもいい!私は君のせいで死んだんだ!!その事実は変わらない。」
「...ごめん。」
何とか口から出てきたのは謝罪の言葉だった。
「はぁー、何を言ったって私が生き返るわけではないし、まぁ今日で最期だからもういいよ。
.....バイバイ。」
彼女が口を閉じた瞬間、聞いたことのないような轟音とともにトラックが突っ込んできた。
意識は朦朧としていたが、何とか生きているみたいだ。
しかし目の前は血の海。
何とかトラックの下から這い出ようとするが、足が挟まって抜け出すことが出来ない。
助けて、と声を出すこともできない。
すると彼女が僕の顔を覗き込んで、
「ははは!!!ざまぁねーな!私は神様からこの力を貰った時から、私と同じ方法でお前を殺してやろうと思ってたんだよ!ただ殺すだけだと面白くないから、私に惚れさせてから殺して、余計に絶望させてやろうと思ったらまんまと告白してきやがって!滑稽だよ滑稽。本当に!!!」
彼女の笑顔はもはや人とは思えなかった。
僕に言い返すことは何もない...。
「本当にごめん。こんなことまでさせてしまって。」
「はぁ!?こんな時に偽善かよ。気持ち悪い。もっと命乞いしてみろよ!!なぁ!
おい、あそこで見てるやつがいるぞ。」
彼女が指をさした方を見てみると、そこでは同い年くらいの女の子がこちらを見ていた。
声を出すことはできないので、気づいてもらえるように何とか手を伸ばした。
しかし、彼女は何事もなかったかのように向きを変え自転車で立ち去った。
「因果応報ってこの事か!」
と彼女は笑いながら立ち去って行った。
その瞬間、僕の心を黒いすすのようなものが覆ったような気がした。
そんなことは思っていない、そんなことは思っていないはずなのに...。
「あの女のせいで、あいつのせいで俺は死ぬんだ!!」
僕の口から信じられない言葉が出た。
心では分かっていた。あの女の子のせいでは決してない...それは分かっていたはずなのに...分かっていたのに...心から黒いすすは一向に消えない。
彼女がいなくなってしまったため、僕の思いの吐き捨て場はなかった。
黒いすすは僕の心を完全に覆ってしまった.....。
一日目(木)
風がびゅんびゅんと吹いている中、遅刻ギリギリまで寝ていた自分を後悔しながら、私は立ち漕ぎで橋を上っていく。
橋の上は想像以上に風が吹いていて、信じられないほどの寒さだった。
前を走る男の子もとても寒そうにしているのが見える。寒そうだなと他人事のように思っていると、その男の子が手袋を落とす。
「すいません、手袋落としましたよ。」
「あ!ありがとうございます!」
と前の男の子は自転車から降りる。
そこにいるのは、心に黒いすすを抱えていることなんて決して表に出さないように取り繕った、満面の笑みの男の子だった。
僕と名無し彼女の七日間 片野一 @kabewo
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