最終話.無題・陽
革命軍との戦いが終結してからというもの、大きな争いもなく平和な時が続いた。リュートはネメシスより国王の座を譲られるようになっていた。
「いや、いいんですよ。国王様がそんなことしなくても…」
「いやいや、そんな皆様だけを働かせるわけにはいきません。」
「でも、国王、そんな泥だらけになっちゃって…」
「ハハッ、大丈夫です大丈夫です。むしろこうやって泥だらけになっていると昔を思い出し懐かしい気分になります」
「あら、国王様、畑仕事なんかやったことあるのですか?」
「はい、私は小さい村出身なので子供の頃は常に母に畑仕事を手伝いされていました。だからこうやってやってると、あの頃の思い出が蘇ってとても懐かしい気分になります」
「父様、父様ほら見てこの大根、すっごくおっきい!」
そう言いながら笑顔でライザが大根を持ってくる。その大根を見ながら農婦が笑顔でライザの頭を撫でる
「おお…とても大きい大根だ。ライザはとても大根を抜くのが上手だね?」
「はい!」
リュートは今までの国王と全く違った。ネメシスも今までの国王に比べたらかなり違う国王であったが、リュートは異質であった。国王業務だけではなく、手が空くと王都近くの村にライザと行き、畑仕事を手伝いながら、その村の民と触れ合うことを何よりも大切にしていた。
「ライザいいか?」
「なぁに、父様?」
「国は王が作るものではない。民が作るのだ。だからお前も民のことを第1に考えられる素晴らしい男になりなさい」
「うん。僕も父様みたいに民のことを第1に考えるようになるよ!」
「いい子だ。でも、私なんか大したことない。私は皆に助けられてばかりだ」
「そうなの?」
「エリザに助けられ、父様母様に助けられ、民達に助けられ…そして、お前達にも助けられ」
そう言ってライザの頭を撫でるリュート。ライザはリュートを見ながら、エヘヘっと満面の笑みを浮かべている。
「国王様、少しお時間よろしいでしょうか?」
突然ハリーがリュートに声をかける
「あっ、ハリーさん。大丈夫ですよ。」
ハリー達は今、後方支援隊のメンバー達で電報局なるものを立ち上げ、各村に散っている。伝書鳩や早馬などを使い。日々の生活の便利知識や国の情勢などを伝えられるように大忙しだ。
「もしかして、新たに作った電報局について問題が起きたのですか?」
「いや、そのことなのですが、国王…第1号のことについて考えたのですが、最初はやはり国王のことを書きたいなと思いまして」
「えっ私の事ですか?」
「はい、リュート様はこの国の顔ですからね」
「いやいや、やめてください。ハリーさん。昔みたいにリュートでいいですよ」
「そうはいきません。なんせ今リュート様国王様なのですから…して、少しお話を聞きたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「分かりました。私でお力になれるのであれば」
「でしたら、お聞きしたいのですが、王様にとって自分の人生とは一文字で表すとなんですか?」
「私の人生ですか?…」
リュートはそう聞きながら考える。そして少し時間をおいて
「無ですかね?」
「えっ無って?あの、何も無いの無ですか?」
「はい、その無です」
「いやいやいやいや、私は他の人達と違って小さい頃からあなたを知っています。あなたは大変苦労してきたし、とてつもない功績を出している。その人間が無なんて、あり得ません」
「そんなことないですよハリーさん。私はまだ何も作っていません。全国王が作った道をわたしは歩いただけです」
そう言いながら、リュートは語り始めた。自分の今までの功績は、自分ひとりではできなかった事、それを教えてくれたのは周りにいた仲間たちだという事、大切だと思える人達がいたから、自分は頑張ることができたと、様々な事をハリーに聞かせた。
「だから私は何もまだ作っていません。だから、無なのです」
「んん~…そうですか?…でしたら、せめてもう一文字いただいてもいいですか?」
「もう一文字ですか?う~ん…」
リュートはそう言いながらまた考え始める。先程と違いなかなか答えが出てこないようで、うんうん、うんうん唸りながら考え込んでいる。
「陽ですかね?」
「陽ですか?!失礼ですけど、国王。私の目から見てもあなたはかなり苦労している。とても陽とは思いません。」
「そんなことないですよ。確かに私は1度闇に落ちました。でも、私には皆さんがいました。そのおかげで私の道は明るく照らされ闇から這い上がることができました。それからの私の道はとても明るかった」
リュートは優しくそう答える。その答えを聞きながら、ハリーもどこか嬉しそうな顔をし始める
「そうですか…無、無。陽…」
ハリーがリュートの答えを聞き、無と陽を交互につぶやき始める。どれ位経ったであろう、急にハリーがひらめいたかのように言葉を発する
「無題・陽!これで行きましょう!!」
「無題・陽?」
「はい、国王様のこれまでの功績を考えると、少し不思議な感じではありますが、それもまた、民の心をひきつけるでしょう。それに国王様の経歴を見て、国王の心を皆が知れば、今後の国のまとまりも大きくなることでしょう」
「そうですかね?…」
「そうですとも、あなたはかなり苦労しているのに、自分のことより他人のことを第一に考える。その人間が自分たちの国の王である。これ以上の喜びなどありません」
「そうですか、ハリーさんにそう言っていただけるのであれば、私はこのままの王でいられるよう努力しましょう」
「はい、お願いします。権力を持ちながらも、その権力に飲まれない事はとても大変なことだと思います。でも、国王。その誘惑に負けずに、今のままの国王でい続けてください」
「号外、号外!!電報局第1号の電報のタイトルは、無題・陽だよ。みんな見てってね!!」
無題・陽は無事発行することができ、各村の国民たちの手に渡った。国民たちはリュートの生きざまに共感し、リュートが国王になったことを心から喜んだ。
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