反射鏡に映る私
藍詠ニア
形に残る思い出
「パパはなんで何時もカシャカシャ持ってるの?」
今日で6歳の誕生日を迎え、ひろーい遊園地に連れてきてもらったあたしはクルクル回る変なカップに乗りながらパパの方を向きながらコテンと首を傾げてお返事を待つ。
「んー、このカメラかな?これはね、パパの大事な優奈を何時までも忘れないようにしておく為なんだ。」
だからパパと一緒にたくさんカシャカシャ撮ってね。
あたまをわしゃわしゃっと撫でられ、幸せな気分になる。
生まれて初めて来たパパとの遊園地。
クルクル回る変なカップに、ビュンビュンはしる電車みたいなヤツ! お姫様みたいなお城だって行ったの!
たくさんあたしをカメラでカシャカシャと写真を撮って幸せそうな顔をするパパを見るだけであたしも幸せになってくる。
「パパと一緒にも撮りたい!」
パパの腰に抱きついて、はいチーズ! と掛け声をかけ写真をパシャリ。
ほら、優奈変な顔になってるよ。
むにーっとほっぺを摘まれて、一緒にニマニマと笑い合う。
とっても幸せでとっても大事なパパとの時間――
「お父さん、カメラなんていいから早く早く!」
手をこまねきながら父を急かす私に、ごめんごめん! すぐ行くよ!
とカメラを片手に急ぐ父。
私の母は、私が生まれてまもなく亡くなったらしい。
顔も声も覚えてないけど、お父さんは、優奈に似て綺麗な人だったよ、なんておどけてみせる。
そのカメラも結婚記念日にお母さんがプレゼントしてくれたらしい。
そう言ってもう15年近くも昔のカメラを未だに使ってる。
「ほら! 優奈、こっち向いて! 」
カシャ、と音が鳴る。
もう、いきなり撮られるの恥ずかしいのに。
「ちょっと! いきなりやめてってば。嫌いになるよ!」
少し強い言葉言いすぎたかな。
お父さん悲しそうな顔してる、こんな言葉言いたかったわけじゃないのに、最近なんか私おかしいのかな――
成人おめでとう。
本当は直接言いたかったけど、この手紙を見てるってことはきっと言えなかったんだろうなぁ。
お父さん、自分のことだから分かるよ。
優奈が成人するまでの半年がお父さんにはとても長く感じて、身体がもう持たないって。
優奈には沢山苦労かけたなぁ。
授業参観にもほとんど行けなかったし、いっつもカメラばっか持ってた記憶しかないよ。
ほんとだめな父親だったね。
ごめん。
でも、優奈のことを心から大事に思っていたしお父さんが居なくなっても、大学の費用や一人で生きていくために必要なお金は工面できるように貯金してきたんだ。
これからはお父さんがそばにいてあげれないから、成人してたくさん分からない事があって不安になったりすることがあるかもしれない。
でも忘れないで、お父さんはずっと優奈のそばに居るから。
悲しいことがあっても、辛いことがあっても、お父さんのカメラでも見返して笑って生きて欲しいんだ。
いつか天国で会う時は、お婆さんになった姿で、子供や孫の話、幸せたくさんのお話を聞かせてくれるのを楽しみに待ってるからね。
たった一人の大事な娘へ
涙が止まらなかった。
入院してまだ半年しか経ってない、私のたった一人の父を失って。
税金も、仕事も、大学も何もかも分からなくて。
死んだ方が楽だなんて心が追い詰められたとき、父のカメラを思い出す。
「お父さんの写真あんまりなかったよね……会いたいよ……おとうさん……」
涙で何も見えない中、カメラのフォルダを開いて見返す。
遊園地でコーヒーカップに乗って楽しそうにしてる私。
お父さんの腰に抱きついてる。
幸せそうな笑顔だな……
中学の入学式で不機嫌そうな私。
たくさんの思い出が。
お父さんが残してくれた2人の記憶。
大切な色々が溢れ出して、涙を幾ら流しても足らなくて、嗚咽で過呼吸になりながらカメラロールをめくっていく。
お父さん……私どうしたらいいの、生きるのが不安で、怖くて、頼れる人が居なくて。
どれだけお父さんに守られてきたかやっとわかった。
ありがとうの言葉をもっと伝えたかった。
大好きだよなんて最後に言ったのは何時だろうか。
後悔が、過ちが、心を包み込んで淀ませる。
最後のカメラロールには、証明写真のように緊張したお父さんが写ってて。
きっとお父さんの写真が無いって文句言ってた私の言葉を覚えててくれたんだな。
強ばった顔に変に背筋のいい直立不動な体勢が少し滑稽で。
ほんのわずか前の鬱屈とした考えすら消し飛んで。
人前で見せれないくらいぐちゃぐちゃになった涙まみれの私の顔は、きっと今少し笑顔になっているのかな。
私頑張るね。
この思い出を胸に抱いて。
定まらない未来に恐怖を抱きながら歩く覚悟を決める――
次会うときは、お父さんよりもお年寄りになってからだけど、自分の娘の顔くらい分かってくれるよね?
お父さん。
反射鏡に映る私 藍詠ニア @Lene_tia
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