第20話

目を覚ますと私は電車で揺られていた。

立ち上がろうとするも体に力が入らない。

(金縛り...?)

頼れるのは目だけか。

ここが現実かどうか確認したい。

そう思い、車内に貼ってあるポスターに目を向ける。

電車内のポスターの文字は反転していない。

どうやら私は現実世界に戻ってきたみたいだ。

しかし、なにか忘れている気がする。

(誰かと一緒にいたような...)

考えても分からない。

そんな仲のいい人いたっけ?

ポクポク考えていると次第に力が入るようになってきた。

(手は動かせる、足もそろそろ...)

よし、痺れがとれた。

帰る。

だん!と勢いよく立ち上がるとポケットから何かが落ちた。

(カメラ?)

こんなの持ってたっけ?

落ちたカメラに触れた途端、"あのせかい"での記憶が一瞬にして戻った。


あの時、"かがみのせかい"をめちゃくちゃにしたときだ。

私と望さんは光に包まれたんだ。

そして、花だけがあの世界に残された。

気づくべきだった。

いや、気づいてて見て見ぬふりをしてた。

花が楽しそうにしていたことに。

あのせかいを心底嫌わないといけないのに"楽しんで"しまっていた。

それがどういう意味なのか分かってたはずなのに。


「なんで忘れてたんだろ...」

そう呟いた聖の目からは大粒の涙が流れていた。

「あ!やっと見つけた!」

声の方へ目をやると息を切らした望が立っていた。

「はぁ...はぁ...こんな端っこにいたの...」

そう言いながら近寄ろうとした聖は私の状態を見て一瞬立ち止まった。

でも彼女は大人だった。

全てを理解、把握した上で私を抱きしめてくれた。

私は甘えることにした。

全身で泣いたと思う。

涙と鼻水でぐっちゃぐちゃだった。

5分は泣き続けたかな。

「落ち着いた?」

「....ん」

「立てる?」

「.......うん」

「探すよね」

「....」

「聞くまでもないか、私も協力するよ

いつまでかかってもね」

当然、絶対に連れ戻す。

私の親友を奪った罪は重い。

それまで待っててね、花。






"かがみのせかい"

ここは満たされた幸せな感情によって作られた世界。

文字は反転し、髪や建物の色は蛍光色。

常識では測れない感覚や倫理観を持った住人たちが暮らしている。

そんな中、真っ黒な髪の少女が1人いた。

高層ビルの看板の上という危険な場所にいるが住人たちは気にもとめない。

「はー、やっぱ私はダメだったか〜

楽しんじゃってたもんな〜」

彼女の名前は花。

少し前までこの世界に染まりつつあったが、片割れが消えたことにより自我を取り戻した。

「"あっち"はどうなってるんだろ...

聖は心配してくれるかな...」

ぽつりと呟く花の目からは涙が流れている。

「よし、でよう」

どれだけ時間をかけても必ずでてやる。

待っててね、聖。

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