トロピカル因習アイランド広報担当

@wasuregai

序章 説明会ブース

定刻になりましたので始めさせていただきます。こんにちは!本日はほかにもたくさんの魅力的なブースがある中、本ブースにお立ち寄りくださり、ありがとうございます。私、移住定住推進課の二江村と申します。これから10分程お時間をいただきまして、私たちの島の概要、いいところ、移住のメリットをお伝えしていきます。それから15分程質疑応答の時間をいただきまして、これで本日午後の部の第2タームは終了、というスケジュールです。その後も私と横におります笹下は残りますので、まだ質問がある、という方はそこでご質問いただければと思います。


では、前置きはこのへんにして。さあ、まず島の所在地ですが、ざっくりこのあたり、となっております。「そこ、海じゃん」と思われました?島が小さすぎるだけなんですね。なんと、国土地理院の地図にも載っておりません。正確な場所というのは、まあ、村長にもわからないんじゃないかな。ま、こちらでご用意する船がございまして、東京湾までならお迎えに伺えますので、そちらにお乗りいただければ約10時間で到着します。島に船を持っている方は多いですし、気軽に乗せてくれるので定期便の本数などは心配ご無用かと存じます。


次に、インフラですとか、島民の雰囲気ですとか、そのあたりのことをお伝えしていきます。これは気になる方も多いんじゃないかな。はっきり申します。何の心配もいりません。大丈夫です。みんなウェルカムですし、隣の家の人の顔や名前すらいい加減な始末で、ちょっと中身が入れ替わったり、人数が減ったりしたくらいじゃ気づきません。「閉鎖的でよそ者には入りづらいコミュニティ」なんて、うちにはないんです!あと、インフラですね。確かに、電気、ガス、水道、インターネット、一切ございません。ですが、長くとも1週間お過ごしいただければ、そんなの必要ないということがよくお分かりいただけると思います。リモートワークを予定されていた方、いらっしゃいますよね?そういう方もひとまずは土日の旅行で!うちにお越しください。口では説明するのが難しいので、こればっかりは来てもらうしかない!ほんと申し訳ないです。


あとは、あ、メリットをお伝えしていないですね。うちに来ていただけたら、家賃、光熱費、食費他、一切の出費は不要になります。島内が貨幣経済ではなくて、外部とのつながりもないからですね。就労についても、心配ご無用です。定番の漁業・農業のような一次産業から、島内の物々交換や人手の融通などの第三次産業まで、幅広い職種で人材を募集しています。すぐに就労いただかなくても大丈夫です。これについては後述しますね。おうちは、こちらで用意いたします。お手元の資料に見取り図、外観等掲載があると思いますので、ご確認ください。高床式でして、大変過ごしやすいと島内でも好評のスタイルを採用した新築物件です。村きっての霊媒師、トキさんに占ってもらったうえで建設場所は決定していますし、うちの結の威信をかけて作り上げた自信作なので、安心して住んでいただけます。


最後に3点だけ、ご注意がございます。まず、皆様に入島時にどうしてもお支払いいただくことになってしまう対価がございます。これに関しましては、皆さまが身罷られる瞬間まで問題のないことですので、今回は省略いたします。こちらのお代をいただいているので、その他のお支払いは発生しないし、働かなくても大丈夫、ということだけ覚えてお帰りください。


2点目は、うちの島にお試しでもいらしてくださる、という場合についてです。その場合は万一のこともございますので、終活、せめて遺書と財産目録の作成くらいはしておかれると安心ですよ、というアドバイスです。老婆心ながら、やはり船で旅をする、となりますとリスクはゼロにはなりませんので、念には念を、というやつですね。走馬灯を見ながら後悔するような目に皆様をあわせるわけにはまいりませんので忠告です。でも、島民なら字が書ける年の子は皆書いているくらいですので、そう気負わずにさくっと!書いてみてもらえるといいかな、と思います。やっぱり、あると便利です。


もう1点ですね。これがとても大切なのでよく聞いてください。仮にこのままお帰りになる場合には、どうしてもお約束いただかなければいけないことがございます。ご退出の際に、今手首に巻いていただいている藁を外して、この革袋にお入れください。くれぐれも外すときに手元を見てはいけません。袋の中を覗き込むこと、材質に興味を持つことは一切タブーとなっております。逆にこういわれると難しいかもですね。でも、まあ、頑張ってください!そして、こちらのブースを出ましたら、絶対に振り向かず、右折をせずに「今日」を終えてください。24時ちょうどを過ぎれば大丈夫、とは一概には言えないのですが、とりあえず朝ドラが始まるくらいになればセーフです。そうでないと、「うちの島にいらっしゃらない」というご意思を尊重するのが難しいような事態になりかねないのですね。ご帰宅のルートを思い返していただいて、どうしても難しいようでしたら、恐縮ですが、ホテルなどお取りいただくと安心かな、と思います。そんなに身構えなくても何とかなります!こればっかりは仕方がないので、ご不便をおかけしますが、どうかよろしくお願いいたします。


はい。こちらからの説明は以上です。本日は余裕のある構成で船を用意して参りましたので、皆様の中に「今日さっそくそちらの島に行きたいよ」という方がいらっしゃれば、ぜひお声かけください。きっとわが島の主も歓迎しております。この場合は、つい先ほど申し上げた、振り向いてはいけない、あたりのルールは適用されませんので、ご案内するまでのお時間は自由にお手洗いなど行っていただいて大丈夫です。藁も邪魔なら適当に取ってしまって構いません。


では質問タイムに移ります。話を聞いていて疑問に思ったこと、不安に思っていること、「実際どうなの?」というポイント、なんでも構いませんので、遠慮なく聞いちゃってください。たった一人、最後まで残られたあなた!最期に何か聞いておきたいことはございますか?

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