幕間2

 なんで、わたしなんだろう。


『あんたが全部悪いんでしょ』


 わたしだって、奪おうとして奪ったわけじゃない。


『だったら、こんなの要らないでしょ?』


 やめて、それはわたしの


『死ね』


「っ!」


 目が覚めたわたしは、全身汗だくだった。


「夢……」


 自分の後ろ髪に触れて、ほっと息をつく。


 ここ数日、ずっと同じ夢を見る。全てを失ったあの日の夢を。


 汗を拭きながら呼吸を整えて、鼓動が緩やかになっていくのをしばし感じる。


「……夢だったら、よかったのに」


 夢でも過去でもない、非情な現実感に襲われて、また逃げたくなる。昨日の部室での出来事がフラッシュバックして、悪い記憶と結びつき、最悪の未来を構成していた。


 時計を見ると六時を指していた。外の明るさをちらっと確認して、午後であることを知る。


 私、何してるんだろう。


 このままじゃいけない。このままじゃ、またあの日々に逆戻りだ。あの時とは違って髪は残っているけど、心に巣食う喪失感はあの時より大きい気がした。


「風花ちゃん……」


 会いたい。会いたいよ。でも、怖い。会えない。


 もう、あのかわいい笑顔をわたしに向けてくれることはないのかな。


 わたしはカバンに付けていたひよこのストラップを外して、枕元に置いた。そしてまたベッドに入る。


 風花ちゃんから、連絡来てたり……しないかな。


 そう思って置いてあったスマホを手に取るも、いつの間にか充電が切れてしまっていた。画面に表示された空のバッテリーが虚しくて、わたしは充電器を挿さずにそのまま放置した。


 ほんと、どうしようもない。


 結局わたしは自分が一番大事なんだ。

 大好きな風花ちゃんにすら、わたしは手を伸ばせない。傷つくのが怖い。


 風花ちゃんに傷つけられるのが、何よりも怖い。


 逃げるように、わたしはまた本を開いた。本を読んでるあいだだけは、全部忘れられる。逃げられる。


 もうすでにわたしは、二年前と同じ生活に片足が浸かってしまっていた。

 抜け出さないといけないのに、もう外に希望は見いだせない。


 この世界に生まれたことが間違いだった。


 わたしは、違う世界の生き物だ。


 ここにいるべきじゃない。


 誰一人幸せにできない。


 風花ちゃんに出会って希望を抱いたことも、何もかも間違いだったんだ。

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