幕間1

 風花ちゃんのことは先生に任せて、保健室を後にする。

 ほんとはずっと見ていてあげたかったけど、そういうわけにもいかない。


 ……わたしの頭の中は、さっき風花ちゃんが零した言葉でいっぱいだった。


『私、春ちゃんにフラれちゃった。嫌われちゃった……』


 信じられなかった。

 風花ちゃんが想いを伝えたことにもびっくりしたけど、それ以上に、フラれたということが衝撃だった。


 だって、そんなはずない。

 あの春ちゃんが、風花ちゃんを嫌うなんて、ありえないと言っていい。


 ……でも、小山さんに何かあったのは間違いない。昨日の小山さんの様子を思い出す。


 昨日、小山さんのは明らかにおかしかった。

 不安や恐怖に染まっていて、風花ちゃんと話している時は一層その色が強くなっていた。


 普段小山さんは、風花ちゃんといる時だけは安らぎの色を見せるのに、昨日はまるで反対だった。


 と言っても、風花ちゃん自身を恐れていたわけじゃない。

 あれはきっと、風花ちゃんを失うのを怖がっていた。


 どうして突然そんなことになっていたのか、わたしにはわからなくて。小山さんはそういう感謝を表情にほとんど出さないから、声もかけられなかった。


 もしかしたら、風花ちゃんが告白したから、それで小山さんの様子がおかしかった?

 風花ちゃんの体調が悪くなったのも、フラれたというショックによるもの? だとしたら告白は土曜日以前で、小山さんの様子がおかしくなったタイミングと一致する。


 でも、小山さんが風花ちゃんを嫌っているなんてことは全くなかった。あれはむしろ、風花ちゃんが大切すぎる故の不安と恐怖だ。


 どこかで食い違っている。でもそれは、わたしがどれだけ考えても答えが出るものではない。


 ……風花ちゃんに詳しく聞いてみないとわからない。でも風花ちゃんは話したくないかもしれなくて、葛藤する。


 風花ちゃんの心も見えたなら、それぐらいすぐにわかるのに。


「……………………」


 なんてこと、考えてるんだろ。


 見えないことにあんなに助けられてきたのに……見えたなら、なんて。

 見えない方がいいとどれだけ思っても、結局自分はこの力に頼っているんだと実感する。


 はぁとため息を吐いて、少し立ち止まる。


 わたしは風花ちゃんに助けられた。風花ちゃんの存在が、わたしを支えてくれている。

 だから、わたしも風花ちゃんを支えたい。


 何か、わたしに力になれることは……と考えても、何が起きているのか把握しないことには何もできない。


 やっぱり、風花ちゃんに聞くしかないか。

 力になりたいとちゃんと伝えて、話してもらうしかない。かつて風花ちゃんがわたしにしてくれたみたいに。


 そう決意して、わたしは誰もいない廊下を再び歩き始めた。

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