第15話
中間テスト、終――
月火水と三日間に渡る中間テストが終わって、残りの木金曜日にテスト返却がされた。
私の結果は……
「高瀬さん9位!? すごー!」
なんか、すごい点数を取ってしまった。
最後にテストの結果をまとめたプリントがそれぞれ配られ、それに主要七科目の合計点の学年順位も書いてある。それが、9位だった。
なんでこんな点数を取れたかというと、それはひとえに春ちゃんと一緒に勉強したおかげだった。
教えあいっこはしなかったけど、問題を出し合えばいいという天啓を得てから、私の勉強モチベーションは急上昇。苦手な暗記も楽しくできた。
春ちゃんと一緒だったら、ほんとになんでもできそうな気さえしてくる。
「そういう園山さんも12位って、私とあんまり変わらなくない?」
園山さん、明るくてかわいくて社交的で運動も勉強もできるって完璧人間じゃんね。
「そんなことないよ! 10位以内は廊下に張り出されるから、名誉なことなんだよ」
「えっそうなの」
知らなかった。私の点数晒しあげられるの?
「うん。高等部もそうだって聞いたよ」
「えー……だとしたら9位ってめっちゃ微妙じゃない? 逆に恥ずかしいっていうか」
「そう? すごいことだよ? モテモテになっちゃうよ?」
「モテモテになっちゃうの?」
春ちゃん以外にモテても別に嬉しくない……っていうか別にモテモテにはならないと思うけど。
「少なくとも次のテストのときはみんなに頼りにされちゃうね」
「あー、なるほどね……」
次回もできれば春ちゃんと一緒に勉強したいな……
「高瀬さんは新顔だから、結構注目されるんじゃないかな」
「そっかー。私より上に他の外部組の子がいたらいいんだけど」
「注目されるの嫌?」
「あんまり得意じゃない、かな」
たくさんの人と交友関係を持つのは向いていないと、中学の時に学んだ。
園山さんはおもむろに私の手を両手で包み込んで言った。
「わたしも高瀬さんが人気者になっちゃったら、ちょっと嫌かも……」
きゅん、と胸が鳴ったような気がした。かわいい女の子、かわいい。
「園山さん……」
私も園山さんの手を握り返す。あったかくて、安心する温度だ。
「あの、風花ちゃん」
「っ! は、はいっ」
さっきまで他の子と話していた春ちゃんの声がかかって、反射的に手を離してしまった。じゃれあってるのを見られて微妙に恥ずかしい。春ちゃんとはこういうノリしないし。できないし。
「どうだった? テスト」
「あぁ、うん」
なんか口で言うのは恥ずかしくて、テスト結果のプリントを手渡した。
「わぁ……すごいね!」
「えへへ、でしょー」
なぜか園山さんが得意げになっているけど、スルーすることにする。
「春ちゃんのおかげだよ」
「わたしはこんなに高くないから、風花ちゃんがすごいんだよ」
「春ちゃんのも、見ていい?」
「うん。はい」
「わたしも見ていいかな?」
「もちろん」
園山さんと一緒に受け取ったプリントを覗き込む。
春ちゃんは33位だった。一年生は百人ちょっとぐらいいるから、結構上の方だ。
点数はそれぞれのテストが返却された時にも聞いてたけど、日本史が一番高くて、私より高い。
一通り見て春ちゃんに返すと、少し恥ずかしそうに受け取った。可愛い。
「なんかわたしだけ低くて恥ずかしい。次はもっと頑張りたいな」
別に低くはないと思うけど……
「……期末のときも一緒に勉強しようね」
もし私がモテモテになっちゃっても、春ちゃんを最優先するから。
「もちろん。むしろわたしがお願いしたいな」
幸せな未来を確約した。私の勝ち。
また園山さんが私たちを温かい目で見てる気がするけど、気にしないことにする。
「学年9位の人とずっと一緒に勉強してたなんて、今思えばすっごく贅沢だね」
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど。
やっぱり9位って微妙じゃない?
テストも無事終わり、思う存分遊べるぞ! ということで、園山さんのお家に誘われた。
いや私はテスト期間中も結構ゲームとかしてたんだけど、園山さんはちゃんと自制して勉強していたらしい。えらい。
約束の日曜日、私は以前とは違って直接園山さんの家に向かっていた。今日は東さんが来れないらしいので、園山さんと二人だ。
一回通った道は全部覚えちゃうんだよね〜みたいな特技は私にはないので、ぼんやりとした記憶を頼りに歩く。とは言ってもこの辺は分かれ道とか少ないし、問題はなさそうだ。
何より、ある程度歩くと大きな園山邸がその姿を現すので迷いようがなかった。
難なく門の前にたどり着いて、少し緊張しながらインターホンを押す。ちょっと早く着いちゃったけど大丈夫かな。
『はい』
すぐに女性の声がインターホンから返ってきた。多分この前いたお手伝いさんだ。
「光さんの友達の高瀬なんですけど……」
『あぁ高瀬さん。少し待っててくださいね』
「はい」
ふぅーと心の中で一息つく。こういうの妙に苦手なんだよね……
間もなく扉が開いて、園山さんが顔を出した。
「高瀬さーん」
手を振りながら門を開けてくれる園山さんに、私も手を振り返す。
「早いね〜」
「あ、うん。早く着いちゃった」
玄関に入る前に少し園山邸を見上げて、相変わらずの荘厳さに圧倒される。二回程度じゃとても慣れそうになかった。
「おじゃまします」
「いらっしゃい〜。あ、ミミ」
靴を脱いで上がると、廊下の奥から猫のミミちゃんが駆け寄ってきた。そしてそのまま私のすねの辺りを鼻でつんつんし始める。
かわいさとくすぐったさに自然と頬が緩む。
「ミミちゃんこんにちは〜」
しゃがんでミミちゃんの背中を撫でると、もっと撫でてと言わんばかりに伏せて体を伸ばした。かわいすぎる。両手でわしゃわしゃと撫でてやる。
「さっきまで寝てたのに。高瀬さんの匂いに反応したのかな?」
「え、匂い覚えられちゃった?」
「相当気に入ったんだろうね〜」
そう言いながら園山さんも一緒にしゃがんで撫でる。
私そんな特徴的な匂いしてるのかな……猫には感じる何かがあったのかもしれない。懐かれるのは嬉しいのでなんでもいいけど。はあかわいい。
数分間ふわふわを堪能すると、ミミちゃんは立ち上がって廊下の奥に戻って行った。気ままな感じもかわいいね。
少し名残惜しいけど、二階へ上がる。一応主目的はゲームだし。
「じゃあとりあえずこれやろっか」
部屋に入ると、この前来たときもやった対戦ゲーム、スマスタがすでに起動してあった。私が来るまで一人で遊んでいたようだった。
「うん」
断る理由もない。あれからオンラインでも何度かやってるし、一番気軽に、手癖感覚で遊べるゲームだから最初に遊ぶにはちょうどいい。
画面の前に座ってコントローラーを手に持つと、自宅のような安心感に満たされた。この体勢が一番自分に合ってるんだなぁと実感する。
お手伝いさんが持ってきてくれたお茶菓子を食べながら、適当に雑談しながらしばらく遊んだ。
そして、そろそろ別のゲームに行こうかという気分になってきた時だった。
「ねえ、高瀬さん」
いつにない神妙なトーンで、園山さんがコントローラーを置きながらそう声をかけてきた。
ついさっきまでゆるめのお喋りをしていたから、その様子の変化は嫌でも身にのしかかった。
「園山さん……?」
園山さんは目を伏せて、少し悩むような、躊躇うような表情をしていた。
普段話しているときには感じることのない、翳ったような空気があっという間に部屋に満ちる。
「今日ね、実は話したいことがあって、うちに呼んだんだ」
顔を上げた園山さんは笑顔で、けれどいつものような輝きは雲の向こう側にあるように霞んでいた。
話したいこと。それもあまり明るい話ではなさそう。
心当たりは正直、ない。わざわざ私をここに呼んだぐらいだし、相手が私であることに意味はあると思うけど、そう考えると尚更わからなかった。
私はコントローラーを置いて、向き合うように座り直す。すると園山さんは静かに深呼吸して、ゆっくりと口を開いた。
「今から言うこと、別に信じなくてもいいんだけどね」
落ち着いた澄んだ声。これから言うことは真実だと、念を押すように聞こえた。
「わたしね、人の心が読めるの」
「――え?」
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