第6話
『準備できてるよー』
園山さんからのメッセージを見て、胸が高鳴るのを感じる。
土曜日の夜、園山さんとオンラインゲームをする約束の時間だ。
友達と通話しながらオンラインゲームするの、ひそかに夢だったんだよね。SNSで知り合った人と一緒にゲームすることはあっても、通話までは勇気が出なくてしたことがなかったのだ。その相手は大抵男性だったし。
ワクワクという感覚を久しぶりに感じながら、通話ボタンを押す。
『もしもしー』
「あ、もしもし」
『聞こえるよー』
通話越しの園山さんは、普段通り明るい声だ。
「こっちも大丈夫」
『うん、部屋建ってるよ』
「おっけー」
あらかじめフレンド登録を済ませておいたので、開始はスムーズだ。フレンド登録してから何度もフレンド一覧を開いて、わけもなくプロフィールを見に行ってしまうの、わかる人いるかな。
今日やるのは押し寄せるNPCの敵をひたすらしばくモード。対人モードもあるけど、まずはこっち。高難易度になると結構やりごたえがあって、簡単にはクリアできない、というかほぼクリアできないレベルになる。今日はそこまでやるかわからないけど。
『こういうの初めてだから、結構緊張するかも』
「え、そうなの?」
『うん。通話しながらは初めて』
「そうなんだ、結構やってるのかと思ってた」
園山さんは私より社交的だし、インターネットでもその明るさを発揮して人気者になっていそうなものだけど。
『お父さんが厳しくて、顔も知らない人と電話なんてだめだーって。あの頃はなんでだめなのーって思ったけど、今では言うこと聞いといてよかったなーって』
「そうだったんだ。インターネット、怖いもんね」
『ねー』
通話やダイレクトメッセージでもセクハラとかあるらしいしね。私は多分フォロワーに男だと思われてるので大丈夫。
『じゃあ、始めちゃうね』
「うん」
うわ、なんか緊張する。
『なんか緊張してきた』
一瞬心を読まれたのかと思った。
「私も」
園山さんも緊張とかするんだなと思いつつ、同じ思いであることが嬉しく、楽しい。
程なくして、ゲームスタート。
「……………………」
なんだか動きが普段よりぎこちない。操作に緊張ががっつり乗っかっていた。
下手なプレイをしてがっかりさせないようにしないと……
最初の方はかなり簡単だから、ギコギコの動きでも難なくクリアできた。けど、今後に懸念が残る。
『あー、緊張してうまく動けてないかも』
プレイ中は口数が少なかった園山さんが、インターバル中に息継ぎをするように呟いた。
「ふふ、私も」
園山さんも同じだと思うと、少し気が楽になる。
気を張りすぎるのもよくないな。
ずっと昔、友達と一緒にゲームしていた時のことを思い出す。
この時間がどれだけ貴重なものか、私は学んだはずだ。楽しむことを第一に。
マイクに音が入らない程度に深呼吸して、次へ進む。いっそ大活躍して、園山さんを楽しませるぐらいの気持ちで。
どこから敵が来てるとかの報告だけじゃなく、普段頭の中で呟く独り言も声に出しながら。
すると園山さんの口数も増えてくる。楽しい。
「ごめんやられた! 助けてー」
『はい!』
「右見ないとやばいかも、行ってくる」
『拠点見とくね!』
「うわ、めんどくさいの湧いたな〜」
『あいつやばいよね、二人で見た方がいいかな』
園山さんは結構深めの知識も持っていて、ちょっぴり専門的な用語や数値を出しても伝わって感動する。あと私と同じぐらいの実力なので、一緒にやってて距離感を感じない。楽しい。
思う存分遊んで、対人戦に切り替えて、また満足するまで遊んだ。
あらかじめどれぐらいやるか決めてなかったけど、四時間半は流石にやりすぎた。日付も変わってしまっている。週末の夜にブッキングして正解だった。
「疲れたねー」
『ねー』
お互いの声から抑揚と覇気が消えていた。私の声にはもともとあんまりなさそうだけど、園山さんの声は普段からは想像できないほどぺったりとしていた。これはこれで良さも感じる。
「すっごく楽しかった。またやろーね」
『うん、私も。ありがとー』
「じゃあおやすみー」
『おやすみー』
へなへなの挨拶を交わして通話を終える。携帯の充電もなかなか見ないぐらいに減っていた。
ほとんど座りっぱなしだったから体は痛いし、目も思わず閉じてしまうぐらい疲れていた。これが一人でずっとゲームした結果なら後悔するけど、今回はこの疲労が充足の証だった。
「……ふふ」
園山さんとの楽しい会話を反芻して、一人で笑う。とても人には見せられない顔をしていそうだ。
暫し余韻に浸ってから、寝る準備を始めた。
高校生活、なかなか充実してきているんじゃないか。
まだ入学して数日なのに、そんなことを思ってしまうほどいいことづくめだ。
小山さんと一緒の部活に入って、園山さんとゲーム友達になって。幸先がいいなんて言葉じゃ足りないぐらいだ。
ベッドに入って、すぐに電気を消す。疲労感を包み込んで溶かすように布団を被る。目を閉じると入学してからの幸せな日々が瞼の裏に浮かんだ。
園山さんとはかなり仲良くなれた気がするし、小山さんとももっと仲良くなりたいな。
そう思うも、自分が園山さんに求めるものと小山さんに求めるものは違っている気がしてならない。
小山さんと夜中までゲーム。楽しいだろうけど、なんだかしっくりこない。そもそも小山さんはゲームをあまりしないとか、そういう話ではなく。
この違いはなんなのか、考えようにも今日は疲れきっていてダメそうだ。ゲームは頭も使うからね。
頭を回すのを止めると、すぐに意識は眠りに落ちていった。
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