第1話 アビス

827年突如としてここ、ボワの国に大きな穴が開いた。人々は2年前のオーガの出現と同じように絶望し、不安に煽られた。その大きな穴はまるで湖のごとく大きくそこが見えないほどに深い穴だった。たちまち政府は「アビス」と名付けられたその大きく深い穴を立ち入り禁止指定区域とした。なぜならそのアビスを調査するため調査隊を作りアビスに派遣させたがその調査隊が戻ってくることは無かったからだった。


そこから4年後、ボワの国にて


ジリリリリリリ


カチッと言う音とともに目覚まし時計が止まった。また今日もいつも通りの1日が始まるのかと渋々目を開けるとそこには母親であるエマが立っていた。

「もういつまで寝てるのよ、朝ごはんできてるわよ!早く起きて顔洗ってきなさい!」

「はーい」

と気の抜けたような声で返事を返し洗面台に向かっている時リビングの方からあるニュースが聞こえてきた。

何やら4年前に突如現れたアビスに7回目となる調査隊を派遣する。との事だった。

「またアビスを調査するらしいわね」

「どうせまた失敗に終わるでしょ」

という興味の持たないような返事を返しながら準備を終わらせて朝食を取るためにテーブルに座った。

するとエマが「レオもアビスには絶対に近ずかないようにね」と言う。

レオというのは俺の名前、レオナルドからとってつけられたあだ名みたいなもので小さい頃からずっと母親にはそう呼ばれている。

「もうそろそろガキじゃないんだしそんなあだ名で呼ぶなよな」と俺が口にするとエマはムッとした表情を浮かべながら「いーじゃない、レオは私にとってはいつまでも可愛い息子なんだからさ」とムッとした表情とは合わないようなか細い声でそう言った。

エマの話を聞き流すように朝食を済ませ学校に行くために玄関に向かうことにした。

「いってきまーす」と言うといつものようにエマが「いってらっしゃい、気をつけて行ってきてね」と玄関まで見送りに来てくれていた。

学校の方向に歩いていると後ろから声が聞こえた。「おーっす。お前は今日もいつも通りねむたそーな顔してんなぁ」友人のマルコだった。

「眠いもんは眠いんだから仕方ないだろ」

そんな風に返し、いつもどうりに2人で学校に行くと何やら玄関前には溢れんばかりの人混みがあった。

「そっか今日検査の結果発表か」検査とは先日ここ、ネクロマンシー学園で先日行われた基礎エレメント適性試験のことだ。

基礎エレメントとは魔術を扱う上で最も重要な火・空気・水・土の四大元素のことで俺は火だった。

「お前適性なんだった?」

「火だな」そういうとマルコは「羨ましいなぁ、、、俺なんて土だぜ、地味だ!!地味すぎる!!!」と嫌味のようなことを言ってきたが気にせず玄関に行き靴を履き替えた。

教室に行き、ホームルームが始まった。

「今朝玄関前に基礎エレメントの適性結果が貼ってあったと思うけど今日から同じ適性同士でペアを組んでもらって基本能力を上げてもらう」先生がそう話すとマルコは絶望した表情を浮かべながら俺の方を見てきた。

ホームルームが終わるとマルコが近づいてきて「聞いたかよ!俺たちペア組めないじゃん!」

と言ってくるので俺は「いや、そもそも適性が同じだったとしてもお前とだけは組むつもりは無い」とハッキリといってやった。今にも泣きそうな表情をマルコがしてたらふと1人から声が掛けられた。

「もし良かったら私とペア、組んでくれないかな?」

「ごめんね、もうペア組む人決まっちゃってるんだ」微笑しながらそう返すとみんなしょんぼりしながら自分の席に戻って言った。

その後授業を受けあっという間に学校が終わり放課後になったとき、帰ろうと思ったその時「一緒に帰ろ〜」とマルコと俺の幼馴染であるマリアの声が聞こえてきた。ちなみにマリアの適性が火であることは朝のうちに確認済みである。俺たちは小さい頃から一緒にいるから自分たちの中ではもはや兄弟と言えるほど中が良い。「あぁ、帰ろう」そう返す。

「そうだマリア」「んー?どうしたの?」

「エレメント適性のやつ。適性火だったよな?良かったらペア組まないか?」

そう、朝のお誘いを断る時に言った「もうペアは決まっている」という言葉、あれは嘘だ。

ただマリアが火の適性だったからあとから誘ってみようとは思っていたが決まっていた訳では無い。

「うん!いいよ!」マリアは快くペアを引き受けてくれた。

「なんだよ、俺だけ仲間外れじゃんか...」

マルコがそう言うので俺たちふたりは「ははは」と笑って聞き流すことにした。

「そんなことよりさ、お前らこの後暇?暇ならアビスの方に行ってみないか?」

「お前は馬鹿なのか?法で禁じられてるだろ」

マルコがいつも通り馬鹿なことを言い出したのだ。いつもだったら俺とマリアで「馬鹿だなお前は」といって終わるのだが今回に関しては違った。

「え、私も気になってたんだよ。」

なんとマリアがその話に乗っかっていったのだ。おいおい嘘だろと思いながら「俺はやめた方がいいと思うぞ」というふうに自分の意見を言うと「え?何言ってんの?多数決で行きたい派の方が多いんだから強制に決まってんだろ」と訳の分からないことをマルコが言ってきた。

「はぁ、お前そんなんだからいつまで経っても友達が俺たちだけなんだぞ」といいながら渋々ついて行くことになった。

「言っておくけど近くに行くだけで中には入らんからな」「分かってるって!」そんな会話をしながら駅に行き電車で30分ほど揺られていると「アビス」といわれる大穴が見えてきた。

「あれがアビスか」とマルコが声を出して言ってきた。そう、マルコを含め俺たちはアビスに行くのは初めての事だった。

最寄りの駅をおりてしばらく歩くとそこには有刺鉄線が張り巡らされていた。

「これじゃ近づくことも出来んな、帰るぞ」俺がそう言うとマリアは「こんなのちょっと痛いの我慢したら隙間くぐれるって!」おいおい嘘だろ、マリアがこんなこと言うなんて初めてだった。「だよな!何ビビってんだよレオは!」と腹立つくらいに息ぴったりな2人を見ているとマルコは有刺鉄線の隙間に足を入れてくぐり抜けようとしていた。

その時だった。

「おい!何をしている!!」

後ろの方から声が聞こえてきた。やばい、バレた。

そう思いながら俺は後ろを振り返るとそこには一般人にしては少し重装備で腰には剣を下ろしている大柄な男が立っていた。兵にバレたのだ。「お前らそこで何をやっている!アビスに近づいていけないことは知っているだろう!」

辺りが静かな中、怒号だけが響き渡る。

その中で空を切るように聞こえてきた。

「イ”ダイ”ッッッ!!」 マリアが叫んだ。

後ろをふりかえってみるともう1人の兵がマリアを拘束し始めた。それに続きマルコも、もちろん俺も拘束をされた。

「今からお前たちはスローンまで着いてきてもらう。」スローンとは国王がいる場所、いわば玉座だ。

そのまま俺たちは何も言えぬままスローンまで連れて行かれることになった。

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