ママの化粧台
野山ネコ
ママの化粧台は魔法の化粧台
ママの化粧台は魔法の化粧台。
可愛くなるための可愛い小瓶やコンパクトたちがたくさんあの白く曲線の多い引き出しの中に沢山入っている。
雑然と置かれているわけじゃなく、どれが何なのか、どこから化粧していくのかが明確にわかりやすく整列されて並んでいる。
そんな綺麗に大切に使われている化粧台の猫足椅子に座り、ママの真似事を始める。
初めは下の段、化粧水と乳液でお肌を整える。次は下地でお肌を守って、お化粧のノリを良くする。次はコンシーラー。お肌の見たくないところを隠してくれるの。お粉を叩いて下の段の引き出しを閉めた。
下から2段目の段には四角いカラフルなパレットが広がってるの。茶色にピンクに紫色、キラキラ輝くゴールドなんてものもある。カラフルなパレットは押し型が施されていていろんなモチーフが描かれているのが可愛い。その中から自分の可愛いと思うものを選ぶ。うーん、どうしようかな、ピンクにしよう。あと、ブラウンも混ぜたら可愛いかな?そのカラフルなパレットの色たちを指に乗せて瞼に乗せる。ふんわりと色づく瞼がまっさらなキャンバスに見えてまるでお絵描きしているみたいだ。二重ラインにブラウンを乗せると、可愛さが増した気がする。よし、可愛い。
コンパクトなペン立てには様々な色の細いペンが入ってる。これで目のきわを塗ってキュッと締める。人生もお化粧も甘さばかりでは美しくないわ、はママの言葉。ちょっとまつ毛の生え際に引くのが怖かったけど、丁寧に綺麗に引けるように心がける。うん、綺麗に引けたかな?
目の下と瞼の真ん中にキラキラのゴールドを引いて、うるうるキラキラなお目目の完成。2段目の引き出しを閉める。
下から3段目、1番上の引き出しには顎やおでこ、鼻に使うシェーディングと唇を美しく見せるためのリップ、頬の上や鼻の上にちゃんと乗せるハイライトが入っている。
ママはシェーディングを鬼のように入れているのが私には分からない。お化粧したママはどんなママでも綺麗で可愛いのに。
私はシェーディングを鼻のサイドに薄く入れてぼかすとTゾーンと鼻の先、頬の高いところにハイライトをポンポンポンと乗せた。コンパクトの中では真っ白のハイライトが肌に馴染んでキラキラ光に反射するのが美しい。ママもこうやって楽しくしてるのかな?
眉毛は眉尻を少し下がり気味にして、助けたくなるような、守りたくなるようなか弱さを演出する。こんな感じかな?
最後にピンクブラウンのリップをちょっとオーバーに塗って、ピンクのチークをつけて完成。ママ見たいとは行かないけど、可愛くできたと思える顔になったと思う。
「ただいまー帰ってるう?」
「ママ!お帰りなさーい!」
ハスキーでかっこいいママの声が玄関で聞こえて、飛び上がる。机の上に丁寧に置いた化粧品が揺れて倒れた。
いけないいけないと片付けて、1番上の引き出しを閉じる。ママに勝手に使ったのがバレたら怒られちゃう!
「今日の夕飯はハンバーグよお!」
「わーい!私ママのハンバーグ大好き!」
ママにそう言って抱きつく。ふわりといい女の香りが服から出てきて、ママが帰ってきたことに安堵する。あ、お化粧が服に着いちゃったかもしれない、どうしよう。
「あらアンタ、また勝手にアタシの化粧台でお化粧したでしょ!」
「し、してないもん!」
「嘘おっしゃい!もう、使うなら一言言いなさいっていつも言ってるのに!」
ぷりぷりと怒るママの骨ばった太い指に顔を掴まれて、そう言われた。なんでいつもママにはすぐバレるんだろう、私にはいつもそれがわからなかった。
「……ママ嘘ついてごめんなさい」
「いいのよ。アンタ、メイクの才能あるんじゃない?お母さんみたいに」
「お母さんみたいに?」
「ええ、アンタのお母さんは立派なメイクアップアーティストだったんだから!」
にっと笑うママを見て幼い頃に亡くなった母を思い出そうとした。もうぼんやりとしか思い出せないその女性は、とても美しい人だったと記憶している。でももうそれは遠い記憶のことで、私には他人事のようにしか捉えられなかった。だって、私にはパパとママ両方をこなしてくれる最高の人がいるから。
その最高の人の太く逞しい腕にギュッと抱きつく。
ママは驚いたような顔をして私を見た後、優しく笑ってくれた。
「今日もかわいいわ。アタシの娘」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれるママに、私は自信を持ってこう答えた。
「だって私はママとお母さんの娘だもん!」
ママの化粧台 野山ネコ @pis_utachio
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