残る謎
そっか、とメーラが口を開きます。
「目録を調べたっていってたわよね、彼女」
目録は、神殿が所在を確認している遺物の一覧です。
保管しているのなら、どこで誰が。
処分したのなら、どこでどのように。
そういう情報がひとまとめにされています。
数年に一度作り直されて、各地の大神殿に収められるきまりです。
「目録には、遺物の記載がなかったのよね」
「回収されてないからな」
「となると、目録で名前を知ったわけじゃないんだ」
「そう」
エストレアは眉間にしわをよせています。
「そもそも遺物の名前は、神殿がつける。だいたいは大神殿に専門の部署があって、そこがつける。基本的には文献を遡って、発見されたものと一致する遺物の記録を探す。その上で、既に文献上で名前がついていればそれを採用する。ない場合は神殿でつける」
「ノイエの遺物は公式には未発見なんだから、神殿がつけたんじゃないわよね。元々遺物についての文献があって、アリエラはそれを見て存在を知った……?」
「そうだとしても、やっぱりおかしい。村の人間は遺物についてほとんど知らされていなかった。どういうものなのか、どんな見た目なのか。全く知らなかったはずだ。俺もそうだし、ノイエだってそうだったはずだ」
視線を受けて、ノイエは無言で頷きます。
「アリエラが何らかの文献で遺物の存在を知ったとして、それが村の遺物と同一のものだと判断できるやつはいない。村の遺物のことは、誰も正確には知らないんだから」
「じゃあ逆に、遺物のことを先に知ってから、文献で調べて名前を知ったって事?」
「その場合、アリエラはその目で遺物を見たことになる。村の人間は遺物についてなにも知らないんだから、たとえ伝聞であっても『遺物がある』以上の情報を渡せない。見た目も機能もわからん状態で文献を当たって、これだと判断は出来ないだろ」
「アリエラが村を訪ねていた可能性は?」
「ほぼない。全員が顔見知りのあの村で、よそ者はそれだけで目立つ。その上、あの容姿だ。ツノビトなんて珍しいものが来たら、あっという間に噂になるよ」
「こっそり来たとか」
エストレアはうーんと唸りました。
「……可能性は、否定しない。だが仮に村にこっそり来たとして、遺物を見つけ出すのは相当に難しかったと思うぞ。なんせ、騎士団の調査を免れたくらい巧妙に隠されてたんだから。それを人目につかないようにやるってのは、相当に難しい」
「姿を隠す魔法とか、ないの?」
「なくはない。だが、難易度がべらぼうに高い」
「なんで?」
「静止した物体を一面から隠すならともかく、動き回るものを全方位から隠すのは、かなりの数の精霊に協力してもらわないといけない。それには莫大な対価が掛かる。貴重な触媒をいくつも消費して、それでも完全に隠して貰えるかはわからん。そうそう出来ることじゃないよ」
「エストがそう言うなら、相当ね」
メーラは納得しました。
「そうなると、彼女はどこで村の遺物が『ロニアの聖鎧』だって知ったのかしら」
エストレアは難しい顔で黙り込みました。
「まず、アリエラは『ロニアの聖鎧』という名前の遺物がある、という情報をどこかで得た。どこかはわからない。文献で知ったか、人から聞いたか」
「うん」
「それとは別に、あの村に遺物があることも知った。これも、情報の出所はわからない。村の住民の誰かが話したのか、ただの噂を聞いただけか。あとは、何らかの文献かな。無駄に歴史だけはある村だったから、そういうものが残っている可能性は否定できない」
「うん」
「で、アリエラはこの二つを同一のものと判断した。根拠は不明」
「そっか。アリエラがそう思ってるだけで、実は全く違う可能性もあるのね」
「そう。根拠がわからない以上、真に受けて考えるべきではない。『ロニアの聖鎧』という名前の遺物が実在するかも怪しい。なんせ、根拠となるものがなにも明らかにされてないからな」
「それで」
ノイエが面倒そうに言いました。
「それのなにが問題なんだ」
「いや、問題ってほどのことじゃない。ただ、気になるってだけだ」
そういって、それから付け足すように、ぽつりと呟きました
「どういう遺物だと思って探してるんだろうな」
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