38 最終回


 目が覚めるとまだ薄暗い。目の前に手があって後ろを見ると黒髪の男が眠っていた。男の手は菜々美の首と腰に回っていて、それだけで所有権を主張しているようだ。何も着ていない、二人とも素裸のままだ。気を失うようにそのまま眠ってしまったが、エラルドが綺麗にしてくれたようだ。肌がさらっとしている。

 手の大きさを比べていると背後の男が目を覚ました。


「ナナミ……」

 背後から絡みつくエラルドの手が胸を弄って、上の足が膝ぐらいまで上がって、エラルドのモノを太股やらお尻に感じたと思ったら、入り口に来てクイクイとそこをこじ開けて入ろうとする。

「ねえ、この格好でするの?」

「こっちだと両方弄れてよいし、この体位が無理が無いと聞いた」

「そんなこと、本当なの」

「初心者を舐めてもらっては困る」

「うっく、いや、舐めてないし、こっちも初心者だし」


「頑張る。もっと良くなるようにする」

「よくなるってどんな?」

 それよりエラルドの身体に掴まっていたいような。背中に隙間なくべったりくっ付いているけれど。

「ナナミ……」

「う……ん?」

 少し後ろを向くとキスをしてきた。ディープなキス。胸をもみもみして、耳を舐めて息を吹きかけて、後ろから突き上げられて、初心者はすぐ昇天してしまう。

「よし、今度は前から」

「いや、一度で十分……」

「いや、頑張る。とことん幸せにせねば」

 が、頑張られても──。

「あふふん……」

「もうダメ」「いやいや」

「あああ死ぬ……」「まだまだ」


 昨夜は一度で解放されたが、朝はねちこかった。

 ヨレヨレになった菜々美を抱えてやっと待望のお風呂に入った。

 流石、貴族も泊まる部屋とあってお風呂も大理石仕様で広々としている。獅子の口からお湯が出るのも仕様で、丸く段差のある広い湯舟には香りの良い花が浮かべてあった。

 侍女の代わりにエラルドに奉仕されて菜々美はマグロ気分であった。



  * * *



 朝食は部屋に運んでもらってのんびりとった。

 クレータに世話されて化粧をして髪を結い部屋着に着替えた。

「お綺麗でございますよ、奥様」

 ちょっとこそばゆい言葉をかけられる。

「ありがとう」


 エラルドと二人、ベッドルームを出たら広いリビングは賑やかだった。

 何でこいつらが居るんだろう。

 ヤギは言うに及ばず熊にサーペントに狼に、それとラーシュと家令のイェルケルさんとカイも来ているし、銀髪のお兄さんに侍女さんもいるし。部屋が狭い。

「何をやっているんだ」

 さすがのエラルドも機嫌が悪い。


 でも菜々美達は新婚なのだ。誰が何と思おうとべったりしていよう。

 二人の雰囲気が甘くなった。そりゃあもう、一緒にいればすぐくっついて身体を寄せ合って、離れているのが辛いとばかりにベッタリと顔を見れば先にキスをしてしまう。

 手を繋いで指先にキス、頬にキス、額にキス、鼻にキス。唇にキス、唇にキス。


 隣にいる黄金の髪、緑の瞳のイケメンが横目に見て言う。

「飽きぬか」

「飽きませんけど、エラルドさんは飽きましたか?」

「もっとしたい。もっと上手になってお前がすぐ発情するくらい上手くなりたい」

「手に負えぬのう、初心者は」

 呆れたように宣うヨエル様は今日も輝くばかりのイケメンだ。


「まあ、私も新婚の頃はこうでございましたわ」

「クレータは結婚していたの?」

「もう別れましたよ。聞いて下さい、そりゃあもう酷いんでございますよ」

「ふむふむ」

「旦那が、かわいい盛りの子供を殺してしまいましてね。あんまりでしょう? いくら子供がいなかったら、わたくしの発情期が来るといっても酷うございましょう? で、ぶん殴って追い出してやりましたの」

「まあ」

「そういう訳で旦那よりよっぽど強くなりまして、でも女ですしボスになれなくて、あの辺りまで流れて来たんです」

「かなり痩せてみすぼらしくなっておったのう」

「こちらのヨエル様には大層よくして頂いて、あの辺りに住まいしておりましたの」

 なかなかハードな人生、いや、熊生だわ。


 ヨエル様ってタラシじゃないのかしら。跡継ぎはいるって聞いたし、ルイーセ様にクレータに──。

「余はタラシではない」

「えっ、何で考えていることが分かるの?」

「加護を授けておるからのう。そなた一筋じゃ」

 菜々美の手を取って撫でるのをエラルドが手を振って追い払う。

「私はそんな加護なんかいらないわ」

「まあ良いではないか」

 そういう訳で新婚旅行も賑やかだったと言っておこう。



 このお宿には大きな鏡が化粧室にあった。それで菜々美はやっとじっくり自分の姿を見ることが出来た。

 鏡には黒い真っ直ぐの髪、黒い二重の瞳、キリリとした眉の金太郎というよりは普通にすんなりと手足の伸びた美少女(菜々美は十代だ、まだいけるはず)が映っていた。

「ナナミ」

 エラルドが菜々美を探して部屋に入って来る。

「これが私……?」

「そうだ、どうしたんだ」

 そう言いながら抱き寄せる。

 鏡の前でキスをした。鏡をチラと横目で見たエラルドが少し目を細める。

「ん──、なかなか良いな」

「え」


 魔導具商会を率いるエラルドの頭に、様々な鏡の用途が映し出される。

 今建築中のウスリー村の屋敷のベッドルームに、大きな鏡一台が追加された。ついでに菜々美が言った赤いキンタロウも追加で──。



  * * *


 二人は何だかんだでウスリー村に落ち着いてしまった。居座ったともいう。

 時々犬が遊びに来る。背中に誰かを乗せて。この前は辺境伯だった。なかなかのイケオジだった。クレータに言い寄って来てラーシュが邪魔をしている。

「違います。辺境伯に真実をバラしているのです」

「そうなの?」

「ラーシュ、頑張れよ」

「熊でもいいのかなあ。まあ今のクレータはボリュームのある美人だからなあ」

 帝国はまだ揉めているそうな。放置決定。



 ウスリー村に帰ってから菜々美は自分のアイテムボックスに入っている物を全部出してエラルドに見せたのだ。どれかは売れて一個ぐらいはヒットしたらいいなとか思ったのだ。おまけで『程々に祈った聖水』くらい付けてもいいなとも思った。

 きっとその内、異界から持ち込んだ菜々美の道具を改良したモノが出回るかもしれない。




  終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は聖女ではありません。ただの【巻き込まれた異世界人】です。 綾南みか @398Konohana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ