今年の戯言(ほんね)

Mです。

第1話 今年の戯言

 やりたいことと仕事は別だ。

 やりたいことをするために仕事をする……


 少なくとも僕が職に就いた時はそんな考えだ。


 安易に……ただ……

 それなりの名前の知れた場所で働くことで……

 周囲に恥じることは無い。

 親に顔向けができるのだと……


 いつだっただろう……

 毎日ただ……会社に向かい、ただ……適当に働き時間を潰す。

 叱られ……疲れて……

 そして、時を得て……

 叱れず……そしてまた……叱られ……


 そんなある日の帰り道……まるで幽体離脱でもしたかのように……

 自分の帰宅する背中を眺めていて……


 あぁ……僕の人生……このまま終わるのかな?

 そう思った時……



 僕が就職していたころから随分と仕事も仕事への考え方もいつの間にか変わっていて……

 やりたい事を仕事にして成功している人間を見て……


 正解だと思って……そう言い聞かせて生きてきた世界が、全部偽者に見えて……

 憧れて……羨ましくて……憎らしくて……切なくて……美しくて……手に入れたくて……恐ろしくて……自信がなくて……


 それでも変わりたくて……自分も人生も……僕の見る世界も……変えたくて……変わりたくて……


 願ったところで何も変わらない。

 それぐらい、理解するくらいには人生を積み上げた。



 二次元物語の作家だとか実況者だとか……そりゃ傍から見れば今更なに考えてるんだって話なんだけど……


 カッコつけていた自分とか、無駄に庇い続けていたプライドだとか……

 全部捨てて……恥じるべき自分を手に入れたかった……



 知っている世界はそんなに甘くない。

 例えば……何かの偶然で……すっげぇ奇跡で僕の書いた小説が書籍化までいったとしよう。

 それで……僕は今の仕事じんせいを捨てて……その後も生きていけるのか?


 そのくらいの答えも知っている……


 実際に小説を書いてみた。

 元々、小さいころにはゲームクリエイターやシナリオライターというものに興味はあった。

 実際に幾度も脳内で描いていた世界を文章にして投稿するという行為は楽しかった。


 でも……まぁ僕の語彙力……知識……構成力……どれもが低レベルだってのもあるが……結果はまぁ散々なものだ。

 じゃぁ……どんなものが皆から受け入れられるのだろうか?


 自分とは比較にならないPVを稼いでいる小説を読んでみる。

 この際だ……包み隠さず語ってみよう……


 最初に思ったのは……


 これのどこがそんなに面白いんだ?

 そこで自覚させられたのは、自分の作りたいものが、

 周囲の需要とかけ離れているのだということ。


 それと同時に……

 あぁ……逆に周囲の人々はこいつ何が面白いと思って、

 これ書いたんだ?

 そう思われているんだな……と自覚した。


 じゃぁ……懸命にその自分の書きたいものとは別の物語を勉強するのか?

 今まで散々作り上げた偽りの自分を捨てて……

 おまえは結局何を作るつもりなんだ?

 そう考えるとピタリと手が止まってしまった。



 絵心があるわけでもない……

 それでも成人向けの同人ゲームでも作ってみようか……とか……

 そうすれば、少しは需要が上がって見てもらえるかも……?

 でも、それって結局お前の見てもらいものを見てもらってるのか?

 お前のやりたいことはそういうことなのか?

 いろいろと試行錯誤をする……


 憧れたそちら側に行きたくて……

 地獄ここから逃げ出したくて……

 じぶんに認められたくて……


 間違った出口かもしれない……

 

 正直……正解は未だに導き出せない。



 この世界に置いて、何が正解で何が失敗だ?

 僕が産み出した作品は失敗か?


 期待するなよ……

 期待は一方通行だ……

 期待なんて言葉は他力本願だ……


 結果は誰よりも自覚しているのだろう……


 壊れてく……壊れた世界で……


 ただ、僕が笑えるように……


 誰もが笑う、笑える世界で……


 ただ、僕が壊れるように……


 てめぇの痴れ事を証明しろよ。


 


 


 

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