その時、右腕に温かさを感じた。



「大丈夫だよ、マナト」



 フウだった。

 フウが僕の右腕に手を添えて、魔法をかけていた。



「私も戦うから」



 フウは微笑むと、短剣を懐から取り出した。



「だ……だめだ! フウは危ないからみんなのフォローに」


「ごめんね」


「え?」


「もう、魔力も薬草もないの。だからあとは戦うしかないの」


「!」



 僕は周りを見渡した。

 みんなヨロヨロになりながらも戦っている。ワキタも、スズも、みんな必死に。

 そして力の弱いフウまでも。フウは、最後の魔力を僕に使ってくれたんだ。



 いつの間にか僕の右腕の震えはおさまっていた。しかも全身にみなぎるパワーを感じる。



「はよくたばれ、う○こ野郎が!!」



 ワキタの怒号が聞こえてくる。

 どんな状況でも動じない、精神力の強さ。

 僕は少しだけワキタを見直した。



『ヴオオオォォォ!!』



 突然、トロルが雄叫びをあげた。

 その雄叫びで何人かが腰を抜かした。



「マ、マナト……」



 腰が抜けて立てなくなってしまったフウを、僕は安全な場所に連れていった。



「フウはここにいて」


「マナト……」


「ん?」


「お願い、死なないで……」



 フウは目に涙を浮かべて震えていた。



 もう魔力はない。

 自分は助けることができない。

 最悪全滅するかもしれない。

 あの時と、同じ──。



 フウの気持ちを汲み取り、僕はフウを抱きしめた。



「大丈夫、絶対に死なない。みんなで生きて帰ろう」


「……マナトっ……」



 僕はフウを更に強く抱きしめた。

 フウも僕の背中に腕を回し、ぎゅっと力を込めた。お互いの体温を感じ合う。



「ごらぁ、マナトぉ!! こんな時になにをいちゃついてんのや、戦えや!!」


「!」



 僕たちは慌てて離れた。



「ワッキーね、自分はいいから魔力はみんなに使ってくれって言ったの」


「えっ」


「意外と優しい人なのかもしれない」



 ダメージを受けながらも人一倍動いて、声を張り上げて……。



「いや、あいつはただのバカだよ」



 僕は少し嫉妬した。

 負けたくないって思った。



 ──シュン、見ててくれ。

 僕の強さを、力を。



 僕は生きる。

 生きて帰るんだ、フウと一緒に元の世界へ──!



***



「いやぁ、完敗やわ」



 僕らはビールジョッキでそれぞれ乾杯をした。ワキタはずっと不機嫌だ。



「ええやん、トロル倒したんやし、レアアイテムも貰えたし、報酬金だって沢山もらえたやん」



 スズがワキタを慰める。



「よくあらへん! 最後にいいとこもってったの、クロサキやで!!」



 ワキタはビールをグビグビと喉に流し込んだ。そして盛大なゲップをして、スズに頭を叩かれた。



「マナト、大丈夫?」



 フウが声をかけてくれる。

 僕は「大丈夫」と言って微笑んだ。



 あれから限界まで戦った僕たち。

 トロルもかなり弱まっていた。でもそれ以上にみんな体力を消耗していて、誰も動けなかった。

 そこに現れたのが、クロサキだ。

 ダンジョンのパトロールに来たらしくて、あっさりとトロルを倒してしまった。

 そしてクロサキの魔法でみんな全回復し、無事にダンジョンを脱出できることができた。ワキタはそれが気にくわないらしい。



「まあええわ、しばらくは金に困らんし。ちゅうことでパーティーは解散や」


「えっ……」


「当たり前やろ、人数合わせのために誘っただけや、わいは仲間はいらん」



 ワキタの言葉に少し動揺した。

 僕だってこんな自分勝手なやつと仲間になんてなりたかくなかった……最初は。



「スズ、お前もや。今まで振り回して悪かったな」


「えっ!?」



 スズは思いっきり動揺した。

 まさか自分までそう言われるとは思わなかったんだろう。



「わいは人に合わすんが嫌なんや。あ、でもまた人数合わせが必要になった時は頼まなあかんな。ま、そんときはよろしゅう頼むわ」



 ワキタはケラケラ笑いながらビールジョッキをテーブルに置いた。でも誰も笑っていない。



「ふざけないでよ……」


「あ?」



 スズは突然自分のビールジョッキを掴んで、中身をワキタの顔にぶっかけた。



「なっ……なにすんのや!!」


「仲間だと思ってたのはあたしだけなん!? 一人でいたいなら最初からあたしを助けないでよ! 優しくしないでよ!!」


「スズ……」


「もうさっ……あたし、関西人じゃないのに、あんたといたらいつの間にか関西弁うつっちゃってさ……」



 スズの目から涙がこぼれる。



「責任……取ってよね!!」


「……なんやそれ」



 ワキタは垂れてきたビールの雫をペロッと舐めた。そして無言で席を立った。



「え、ちょっ……」



 ワキタはスタスタとどこかへ歩いて行ってしまう。誰もがワキタを本気で怒らせたと思った。

 しかし数分後、ワキタはなに食わぬ顔で戻ってきた。



「ワ……」


「スズ、登録してきたで」


「え?」


「仲間登録すれば仲間ポイントがたまるんや。それでいろんなレアアイテムが手に入る。どうや、一石二鳥やろ?」


「……なんやそれ」



 スズは呆然としたあと、ワキタと同じ言葉を吐いた。



「ふふっ」



 フウが笑った。

 それにつられて僕もスズも笑顔になった。



「あ、マナトとフウも一緒やで。人数が多ければ多いほど早くたまるからな」


「はあ?」


「ま、わいの足だけは引っ張らんといてや」



 胸ぐら掴んで殴りたくなったが、やめておいた。

 悔しいけど、嬉しいから。



「すぐに追い付いてやるよ」



 僕らは本当の仲間になった。



「せや、こんなんあったの知ってるか?」



 ワキタが空中でメニュー画面を開く。そこには『キズナクロニクル』の掲示板があった。



「こんなのがあるんだ」



 そこにはプレイヤーが攻略した情報などが書かれていた。



「ここ、見てみ」



『迷子のランちゃん


 ランを助けてくださぁい!

 迷子になっちゃったよぉ(´;ω;`)

 助けてくれた人には、ランの大切なもの

あ・げ・る♥️』



「これはもう、助けたらなあかんやろ!?」



 スズはかなり怒ってたけど、この掲示板は情報収集として使えると思った。

 このアプリを作ったやつの目的が知りたい。一体誰がなんのために作ったのか。棺桶に入れられた先はどうなってしまうのか。

 僕たちに未来はあるのか……。



「マナト、頑張ろうね」



 でも今は少しだけ、この幸せを感じていたい──。





【完】

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キズナクロニクル~マナトの物語~ 鳴神とむ @kurutom

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