どうしてこうなってしまったんだろう。

 こんなことがしたくて、アプリをインストールしたわけじゃない。

 ただ三人でずっと、楽しみたかった。フウとシュンの笑顔をずっと見たかったんだ。

 そこが僕の、唯一の居場所だったから……。



「なにをさっきからゴチャゴチャ言うとんねん! しっかりせえや、マナト!」



 突然グイッと襟を掴まれて、左頬を叩かれた。



「……ワキタ?」


「あほか、なんで来たんや!!」


「……え……」


「こないな危ないとこ、わい一人で十分やったんに!」


「……はっ……」



 予想通りピンピンしているワキタの姿を見て、なんだか笑いが込み上げてきた。



「ついに頭おかしくなったか」


「……いや、あんた、すごいよ。尊敬する」


「ああん?」



 ワキタは一気に空気を変えてくれた。

 僕を現実に引き戻してくれたんだ。



 シュンはもういない。

 この現実では、いないんだ。



「マナトは足手まといになるからな、そこで見とけ」



 僕はムッとしたが、ワキタの戦い方を見ることにした。

 落ち着けばよくわかる、モンスターは五体いた。それをワキタは次々と倒していく。無駄のない動きだ。三体倒すと霧の効果はなくなり、全体が見渡せるようになった。



「マナト!」



 フウとスズは全く違う場所にいて無事だった。どうやらさっき僕が斬りつけたのはモンスターだったらしい。フウじゃなくて本当に良かった。

 ワキタは全て一撃で倒すと、渋い顔をしながら僕たちの方に歩いてきた。



「ワッキー、無事で良かった!」


「あほか、わいの心配なんて百年早いわ!」


「レアモンスターは倒したの?」


「まだや。ちゅうか、どこにもおらんかった。ガセネタか? 酒場に戻ってねーちゃんに問い詰めなあかんな!」



 とりあえず僕たちはダンジョンから出ることにした。と、その時──。



「うわああああああっ!!」



 どこからか叫び声が聞こえてきた。



「上や!」



 僕たちは二階から一階に上がった。

 きっとさっきの叫び声は、僕たちに忠告してくれた冒険者の人たちだろう。



 角を曲がり少し広い空間に出ると、天井スレスレの巨人が大きなこん棒を振り回し、冒険者たちを次々と投げ飛ばしていた。



「トロルや!」



 ワキタが嬉しそうに巨人トロルに向かって走って行く。



「ちょっ……あれがレアモンスター!?」



 スズが口をあんぐり開けている。

 僕たちが戦うにはレベルが違いすぎる。仕方ないのでトロルはワキタに任せて、僕たちは補助に回ることにした。



 とりあえず薬草で冒険者たちの体力を回復させる。そして回復した者たちからワキタのフォローに回ってもらう。ワキタは「余計なことすなや!」って叫んでたけど、そんなこと言う余裕あるんだと思いながら、僕も剣を握りしめた。



「マナト……無理しないで」



 僕の思惑に気づいたのか、フウが心配そうに声をかけてきた。



「大丈夫、無茶はしない」



 僕は微笑みながら、自然とフウの頭に手を置いた。そんな僕を見てフウは一瞬目を丸くしたけど、フッと柔らかい表情で微笑んだ。



「わかった。フォローは任せて」



 僕はフウに防御力と攻撃力があがる呪文をかけてもらうと、トロルの背後に近づいて行った。



「とぅ!!」



 ワキタがトロルの足を攻撃する。

 巨人だから足を動けなくして転倒させるしかない。幸いトロルの動きは遅い。ならばと、僕もアキレス腱を狙って攻撃を仕掛けてみた。



 ザシュッ



 手応えあり!

 前よりも自分の力がついたような気がする。今のところトロルの体が向きを変える様子はないし、この調子で攻撃していけば……



「マナト、離れろ!」



 次の瞬間、目の前に大きなこん棒が目に飛び込んできた。



「しまっ……」



 ドンッと誰かに背中を押された。

 そのおかげでトロルからの攻撃は免れた、が──。



「ワッキー!!」



 スズの悲痛な叫び声で何があったのか察知した。

 ワキタが僕を庇った。そのせいで、ワキタはもろにトロルの攻撃を受けてしまった。



「……ぐっ……!」



 血を吐くワキタ。

 慌ててワキタに駆け寄ろうとすると、



「わいのことは、構うな!!」


「でもっ……」


「いけ! 戦え! 自分の力を……見せつけたれ!」


「……っ……」



 僕は歯を食いしばって剣を握りしめた。

 再びトロルのアキレス腱めがけて剣を振る。



「うわああああ!!」



 力一杯、剣を振った。

 しかしトロルの足はびくともしない。他の冒険者も頑張っているが、トロルが倒れることはない。



 あと何ポイント、ダメージを与えればいいんだろう。

 画面に向かってゲームをしてる時は余裕だった。攻撃受けても痛くなかったし、体力が減っても疲れなかった。ゲームのキャラクターたちはすごく強くて、特に主人公は勇者だから死ななかった。



 この世界では勇者も、死ぬ?



 そう思ったら、急に怖くなった。

 剣を持つ手が震えて言うことを聞かなくなった。



 死ぬって、どんなふうになるんだろう。

 シュンは棺桶に入れられて、何か見えない力に引っ張られていった。

 死んだらどこへ連れていかれるんだろう。

 もうゲームの中から出られないのか? 亡霊となってこの世をさまようのか?



「……くそっ……」



 考えるな、マナト!

 そう自分を諭そうとするが、体が言うことを聞かない。

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