シュンの声はフウにも聴こえたようで、僕たちはそれだけで安心できた。



「怖くないよ、シュンがいるなら……」



 フウの表情に笑顔が戻る。

 やっぱりフウはシュンのことが好きだったんだ。僕にはそんな顔はさせられなかった。



 ダンジョンに入ると、すぐにスズと合流することができた。やっぱりスズも不安だったようで、目に涙を浮かべていた。




 三人……いや、四人だ。

 大丈夫、シュンが見守ってくれている。

 スズには聴こえないみたいだけど、そのことを話すと空間に向かって手を振りだした。



「シュンってイケメンなん? あたしのこと、見えますか~?」



 クスッとシュンが笑ったような気がした。



「マナト! モンスターだよ!」


「スズは後方から援護、フウは回復を頼む!」



 僕たちはなんとかモンスターを倒した。レベル15では少しきついが、無理をしなければ大丈夫だろう。でも調子に乗ってはいけない、なるべくモンスターに見つからずにワキタを探さなくては。

 僕は聖水を振り撒いた。辺りからモンスターの気配が消えた。



 一階から二階に降りる。僕らより先に入ったパーティーの人たちの姿はなかった。たまに置いてある宝箱の中身が空っぽなのは、彼らが取ったのか、ワキタが取ったのか……。



「ねぇ、フウとマナトは付き合ってるの?」


「えっ……な、なにをいきなり……ゲホゲホッ」



 突拍子もないスズからの質問に、僕は唾で喉を詰まらせ咳き込んだ。



「違うよ、私とマナトとシュンは幼稚園の頃からの幼馴染みなの」



 あっさり否定されて、僕は悲しくなった。



「ふぅ~ん」



 スズが僕を見てニヤニヤしてる。

 やめろよ、人をからかうのは。それに……シュンが気になるだろ。

 シュンはフウのこと、好きだったんだから。だから僕は身を引いた。

 


 だいたい、僕では無理なんだ。勉強もスポーツもなにひとつうまくできない。得意なことと言ったらゲームくらいで、ゲームならなんでもうまくできた。RPGだって、徹夜して二日でクリアした。

 でもそんなの、なんの自慢にもならない。

 ゲームの中でレベルをあげたって、リアルの僕はレベル1のままだ……。



 シュンには敵わない。

 死んでもこうやって、フウを笑顔にさせてしまうんだから。だから……僕が死ねば良かったんだ。



「マナト、助けて!」



 フウの叫びで我に返って、僕は慌てて周りを見渡した。

 気づけばフウもスズも目の前から居なくなっていて、辺りは深い霧が広がっていた。



「しまった……!」



 二人を見失ってしまった。このままだと下手に動くと二人を傷つけてしまう。



 その時、霧の中にぼうっと影が浮かんだ。

 目が光ってる……モンスターか?

 僕はそれに向かって剣で斬りつけた。



「痛いっ! やめて、マナト!」


「!?」



 フウの悲痛な叫び声が聞こえる。

 影の正体はフウだったのかわからない。でもフウとスズの気配の他に、三体のモンスターの気配がした。



「落ち着け、マナト……見極めろ、敵の姿を!」



 僕は自分に強く言い聞かせた。

 大丈夫、シュンがそばに居てくれる。

 シュンがフウとスズを助けてくれるはず。



『助けられるわけがないだろ』


「えっ……」



 シュンが僕の目の前に現れた。



『しっかりしろよ、マナト』


「……シュン?」



 シュンは僕を悲しい瞳で見つめていた。



『俺はもう死んだんだ。この先フウを守るのは、お前しかいないんだよ』


「……」



 シュンの言葉で現実を叩きつけられる。

 僕は信じたくなくて頭を左右に振った。



「死んだって、ゲームの中での出来事だろ!? これは夢なんだ、だから目を覚ませばまたいつものように三人で……!」


『マナト、頼む』



 シュンの姿が消えていく。



「嘘だろっ……こんなの現実じゃない!! フウは……フウはお前がいないとダメなんだよ!!」



 僕は膝から崩れ落ちた。

 全身の力が抜けて、剣を握る気力もなくなった。フウとスズの声が聞こえたような気がしたけど、僕の耳には届かなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る