第2話 塩コショウが一番
「うぅぅまぁぁ!!」
すかさずテーブルに並んだ大きい骨付き肉を掴み取りかぶりつく。また一個、また一個とテーブルにある骨付き肉目掛けて手を伸ばす。いつも気づいた時には皿の白い底があらわになっている。
「やっぱ塩コショウだな!塩コショウしか考えられない!」
「それは良かった。まだまだあるから存分に食べてくれ」
台所から出てくるアマンダの表情が緩む。
「アマンダは食わないのか?」
「わたしはいいよ。あんまり腹が空いてないんだ」
「あんなに動いたのに腹減ってないのかよ。相変わらずだな。どうなってんだか、その身体はよ」
「まあな。そういやあの修理屋のとこ行くのか?その腕直しにさ」
アマンダが骨付き肉をがっしりと掴んだ両腕を見る。大男はアマンダの話のそらし方が少し気になったが、まあ身体のことはあまり聞かれたくないよな、と思い反省する。アマンダと大男はこの半年間で親友とも呼べる仲になったと互いに疑っていない。だが、それでも出会って半年。大男は出会う以前のことを喋りはするが、アマンダの話は聞いたことがなかった。
「ああ。この後行こうと思ってる」
大男の腕は両腕とも金属で出来ている。それは生まれてからの先天的なものではなく、半年前までは確実にしっかりとした腕があった。その腕が壊れているとわかったのはついほんの十分程前のこと.........
約十分前、それは大男とアマンダが拳をぶつけあった後、アマンダが切らした塩コショウを調達しに行き、大男が台所でオシカミの血抜きを始めようとしていた時のこと。
「アマンダが帰ってくる前に終わらせないとな」
大男が右腕を皮を剥がれ横たわったオシカミの前に出す。
「解除」
大男がそう言うと、手のひらの前に黒い円が出現する。大男はオシカミに意識を集中させ、血のみが抜かれるイメージをする。するとオシカミのとどめを刺した傷から赤黒い液体が生きているかのごとく体外へと飛び出し、黒い円の中に吸い込まれていく。血が抜き切るまで集中を切らさない。
「これ結構疲れるんだよなぁ」
やっと一匹が終わりひと呼吸。もう一度集中し直す。これの繰り返し。一匹、二匹と血抜きをしたところまでは問題はなかった。だが、三匹目の血抜きの時、異変に気づいた。三匹目の血抜きをしようとしても上手く血が吸収されない。
「あ、あれ?」
もう一度集中。だが血は全く出てこない。集中力が切れたのかと思った大男は今度はゆっくり深呼吸。鼻で吸い口で吐く。これを三回程行い気持ちを入れ替える。もう一度手を伸ばし集中.........失敗。
「こりゃぁダメだ。後でメルヴィスの野郎に見てもらわないとな」
大男は最後の一匹の血抜きを諦めた。それからアマンダが帰ってきて事情を説明し現在に至る。
現在。
「アマンダも行くか?」
大男は言う。
「わたしはいいよ。どうもあいつとは仲良くなれる気がしない。最後に調整かけたのいつだ?」
「いつだっけなぁ。一ヶ月前とかか?その時も部品取り替えたんだよ。最近調子悪いんだよ、こいつ」
両腕を突き出し強調し、大男が続ける。
「それでメルヴィスのどこが苦手なんだ?」
アマンダが大男を見つめる。
「いや苦手とは言っていない。ただ……ちょっと胡散臭いんだよ、あいつは。だから信用ならん。すまん塩コショウこっちに投げてくれ」
大男が追い塩コショウのために置いておいた瓶をアマンダ目掛けて投げる。
「サンキュ」
アマンダが台所へ戻りジュージューという音が聞こえなくなって数十秒。皿にのった焼きたて骨付き肉を手に持ち大男の元へ。
「追加だ!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
アマンダが皿を二枚運んでくる。
「やっぱ腹減ったか」
「この匂いは腹を空かせる匂いだ」
アマンダが骨付き肉の匂いを嗅ぐ。
「うまそーだな!そういや忘れてたぜ」
大男が手を合わせる。
「アマンダの故郷の文化だったか?忘れないぜぇ」
「いいんだよ、ここはわたしの故郷じゃないからさ」
「良いと思うけどなぁ。食す前に感謝をする、いい文化だ」
「まあいいか」
「手を合わせて〜!!いただきます!!」
「いただきます」
アマンダも手のひらを合わせた。
ハーヴェスト 白井まくら @siroimakura
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