第7話 決闘

 以前も言ったが……今、俺が胸を張って『兵力』として使えるのは、この身ひとつだ。 


 俺は武術の心得は無いし、使える武器も持ち合わせていない、至って平凡なサラリーマンだ。


 ……子供の頃、遠足で見た大仏様くらいの大きさがある作戦参謀と普通に闘ったら、踏み潰されるか跳ね飛ばされて一巻の終わりだろう。


 そんな無力な俺が、奴に勝つ可能性がある『ちから』……それは……


『精神力』!


 作戦参謀は衛鬼兵団やつらの技術力に絶対の自信を持っている。


 その鼻をへし折る為には、俺がどんな脅しや恐怖、そして圧力にも屈しない強靭な『精神力』を見せつけるしか無い!


 何せ、今の俺には野華ひろかさんがいる!


 あの女性ひとを想う時、俺の心からは無尽蔵の力が沸き上がる!


 それこそが俺たち人類に与えられ、衛鬼兵団こいつらが持ち合わせていない『愛』の力だ!


 俺は瞬き一つせず作戦参謀を睨みつけた。


「閣下……やはり正常な精神状態とは思えませぬな。 ……情報参謀! 『獏鬼ばっき』の仕様を臨時総司令閣下に教えて差し上げろ!」


 ヒョロ長い見た目の情報参謀が俺の前に進み出て……


「戦略的思想改変モジュール『獏鬼』……我々が保有する『最終兵器』のひとつデス」


 ……! さ! 最 終 兵 器 ぃ ! ?


「ハイ……。 戦略上、植民地に傀儡民かいらいみんを配置する必要が生じた際、先住民に本モジュールを使用し、その記憶や思想など、全ての思考を完全に抹消し、意のままに動くようにリプログラムしマス。

これが閣下の仰る『洗脳』ですガ、『獏鬼』の効果はこれに留まりませン。 未来永劫、子々孫々まで及びマス。 本攻撃を受けたが最後、その地や生命体は、塵と化すまで、我々の隷属人種となりマス」


『非可逆的』……って『元に戻せない』って事じゃん! しかも、その洗脳効果は遺伝情報にまで及ぶって事か!


「本モジュールのパラメーターは一個体から、惑星全土まで設定可能デス。 ……因みに全人類を完全洗脳するのに要する時間は……チキュウ48分の1回転ぶん……デス!」


 ……?


 24✕60÷48=……30


 三十分で全人類を洗脳できる!?


 情報参謀が顔を近付けて小声で……


「閣下! この決闘、ワタシの試算では、非武装の閣下が勝利する確率は『≒ ゼロ』。 このままではお命が危険デス! ここはお辛いとは存じますガ、土下座してでも作戦参謀に詫びを入れ、ある程度の条件を飲んだ後、交渉ネゴシエートによる和解の道を選ぶべきデス! ワタシも全力でサポート致しマス」


 情報参謀が、俺の命を心配してくれた!?


 ……前にも説明したが、衛鬼兵こいつらは戦う為だけに存在しているので『生命いのちを大切にする』という、生物が当たり前に持ち合わせている感情が欠損している。


 その情報参謀が俺の身を心配してくれている事が、素直に嬉しかった。


 情報参謀の交渉術ネゴシエーションは、以前、戦国時代の『八瀬やせ』の国にタイムトリップした際(※前作『『恋愛は戦争』って言うけど、俺の片思いが本当の戦争に発展するとは思っていなかった!』 第3章『初陣』第8話『永禄十一年』等をご参照下さいませっ!)に見せて貰ったが特筆すべきものだった。


 多分、見事な手腕で和解に導いてくれるだろう。


 だが、それで俺が生き延びたとして、一体何が残るだろう?


 まず俺は、衛鬼兵団やつらに頭が上がらず、一生良いようにこき使われるだろう。


 人類は洗脳され、愛や恋も関係なく『つがい』にさせられ、子供のが生まれたら、その子共々、衛鬼兵団の配下にされ、戦いに明け暮れる日々を送るのは目に見えている!


 当然、夥しい数の大切な命が奪われるだろう!


 そんな未来は断じて阻止しなくてはならない!


 それが出来るのはただひとり……


たいら 盆人はちひと


 そう! この俺だけだ!


 俺は情報参謀の手? 触手? を強く握り……


「貴官の申し出、涙が出るほど嬉しい。 ……しかし俺は、この世界の未来のため、そして衛鬼兵団きみたちに誤った道を進ませないために決闘を申し込んだ。 謝罪で逃げるつもりは全く無い!」……と告げた。


 ……情報参謀は俺の言葉を聞いて腕を握り返してくれた。 そして力強く「ご武運を!」と言ってくれた。


 ありがとう情報参謀! これで……勇気百倍だ!(←語彙力💦)


 俺は改めて作戦参謀と対峙した。


「さあ! 始めろ!」


「ほお、勇ましいものですな! 閣下が這いつくばりって自分にひれ伏す姿が楽しみだ!」


 ……情報参謀は、すっかりヒーロー映画に登場するヴィランそのものに見える。


 総参謀長が、改めてこの決闘のルールを提示した。


・武力同士の決闘では無いので、今回は俺に洗脳波を当てるだけの勝負とする。


・俺が最後まで自我を保てていれば俺の勝利。 完全に洗脳されてしまったら敗北となり、今後、衛鬼兵団参謀本部の決定に絶対服従する。

……というか、洗脳されてしまえば、永久に逆らう事は出来なくなる。


・俺が勝った場合は『獏鬼ばっき』を封印し、今後、俺が反対の作戦は却下とする。


・洗脳波照射時間は、時間換算で10分とする。


・途中、俺の生命に危険が及びそうな時のみ、決闘を中止する。


 ……以上。


 この決定には、俺も、作戦参謀も、そして中立な立場として立会人となる総司令ユイも、全員が同意した。


 もう後には引けない。


 ……ユイと情報参謀が心配そうに俺を見ている。


 情を持てない筈の二人の、その姿を確認できただけで、俺は満足だった……。

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小さな恋を叶える為、リアルな戦争が勃発!? コンロード @com-load

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