第6話 決然

 ……野華ひろかさんと最後に合ったのは先週だ。


 野華さんは、彼女が勤めている大企業『アティロム』のイメージガールで、今は新しいアティロムの紹介動画の撮影中だ。


 あまり邪魔しないように遠慮していたのだが……まさかあれが最後になってしまうなんて事になったら……悲しいな……。


 俺はそんな気持ちを吹き飛ばすべく顔を手のひらで数回叩いた。 そして作戦参謀に向かって……


「俺は貴官に決闘を申し込む!」


……と決然と叫んだ。


 それまで一顧いっこだにしなかった作戦参謀がこちらを向き「ほぉ、面白い事を申される! 閣下が『決闘』を申し込まれるとは……しかもそんな丸腰で『作戦参謀』たる自分に勝負を挑むと!?」と言って、キズだらけの巨大な顔を近付けた。


「作戦参謀! 待て! 今、兄は正常な判断が出来なくなっている! 総参謀長、軍医を呼べ!」


 ユイが慌てた様子で俺と作戦参謀の間に割って入ったが、すかさず作戦参謀が……


司令官は引っ込んでいて貰おう!」……と横柄に言った。


 ユイは「き っ さ ま ぁ 〜 !」と真っ赤になって作戦参謀の巨大な指に掴みかかろうとしている。


 ユイは奴ら衛鬼兵団えいきへいだんの中で彼女だけが持つ特殊能力『細胞配列変換能力』により、俺たち人類と全く同じ身体に変化しているので、俺たちと同じ感情表現が可能だ。


「待てユイ! 俺は冷静だ!」


莫迦ばか者! 正常なら衛鬼兵団われわれに敵う筈が無い事くらいわかるだろう!」


「バカな事を言っているのは充分に理解している! しかし俺は、人間として作戦参謀こいつの考え方を認める事は断じて出来ない!」


 ……ユイは暫く俺の目を見つめていたが、やがて目を潤ませ……


「……兄……死ぬ気か……?」と言った。


 俺はワザと笑顔で「バカ! 死ぬ気なんて全く無いよ! ただ、もし俺が負けたら……」と言って、ユイに耳打ちして、一つだけ願い事を伝えた。


 それを聞いてユイの目からは大粒の涙が溢れ落ちたが、力強く頷いてくれた。


「話し合いは済んだようだな。 して『臨時総司令』殿! 如何なる決闘をお望みか?」……と、作戦参謀が強い圧と殺気を放ちながら憎々しげに言った。


 俺はそれを跳ね返す勢いで作戦参謀やつに言い放った!


「俺を……『洗脳』してみせろっ!」

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