待ちぼうけ

赤羽 倫果

第1話お前たち、今さらなんの用かな?

 初デート、ろくな思い出がないって言うか、悪天候に祟られて、成立した試しがない。


「いつまで降るんだよ」


 歩行者用の信号が切り替わり、オレはライトが乱反射する中、横断歩道を渡った。


 中学校時代の初カレ。『罰ゲーム』に煽てられたオレがバカだったが、台風直撃で閉園した遊園地からの帰り道に、あやうく側溝にハマるとこだった。


 事前になんにも連絡されない、メールも携番もつながらないから、こっちから連絡取りようがなかった。


 ーー本気にするとかダサいな。


 見舞いに、ダチとつるんで人の不運を嘲笑うとか、正直言ってきつかったな。


 2回目は大学ん時で、3回、4回と社会人になった相手だった。


 季節はずれの大雪のせいで、またもや不成立。なんだか気まずくて、自然消滅寸前で、相手の浮気や政略結婚に邪魔とか言われた挙句に捨てられた。


「寒い寒い」


 悪天候に見舞われるたび、嫌なこと思い出す。 


 まぁ、アイツらはオレなんか忘れて、ほかの子とヨロシクやっているんだろうな。


 ビニール袋をさげて、雪中行軍から我が家に戻ったら、電灯の下、人ん家の前にたむろする三人と目があった。


「あの……」


 三人とも、なんとなくアイツらに似ているけど、他人の空似だよね。


「ミツル」

「ミッちゃん」

「加川くん」


 声まで似ているとか、寒さで耳までイカれたのかな?


「ミツル」

「会いたかった」

「もう一度」


 あれ? 幻視でも幻聴でもない。

 な……なんでお前ら、ここにいるんだよ!


「どいて下さい」

「はあ?」


 迷惑なんだけど。それより、コイツらなんでここにオレがいるって気づいた?


「さみィから中入れて!」

「デートリベンジいつがいい?」

「オレともう一度、一緒に暮らそう!」


 ナニナニ? お前らから去って行ったくせに。今さらなんのつもりだよ。


「中に入らないで!」

「え?」


 勝手に入ろうとか、ストーカーよりタチが悪いぞ!


「リベンジないから」

「は?」


 まさか、許してもらえる前提でここに来たの? 勘違いも、程々にしろよ。


「オレは一人で幸せなんですよ」

「そっ……」


 ドアを閉める直前、唖然と立ち尽くす連中に向かって、

「そこで、凍死しろよクズどもッ」

 近所迷惑にならない程度の声で、オレはアイツらに言ってのけた。


「ミツルっ!」


 知るかよバーカ。


 嘘コクの初カレも、浮気バッカの元カレも、政略結婚でオレを捨てた前カレも、みんな凍え死んじまえッ!



 一時間が過ぎて、キッチン脇の窓をそっと開ける。うまく見えないけど、三人がたむろしている気配はない。


 明日の朝、ドアを開けた途端に、凍死体とご対面とか勘弁だからね。


 今晩もカップ麺。


 アイツと同棲していた頃は、オレが3食作っていたんだよ。

 でも、最後の方は、ゴミ箱に捨ててばかりだったからな。


 コンビニメシかカップ麺ばっかだけど、地球に優しく出来る今のオレはエライぞ!


 明日、ゴミの回収車、いつも通り来てくれるかな? 部屋の中、ゴミだらけにしたくないから、それだけが心配だ!



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