第5話

しばらくしてから、坂口から飯に行こうと言う話が合った。

近所の居酒屋だが、酒を交えて話す。

坂口とは久しぶりだ。

坂口が言った。

「それであの男のことなんだが、松木も気になっているだろう」

「そりゃあもちろん、これでもかと言うくらいに気になっているさ」

「名前は貝田という男だ。年齢は四十九歳。顔は見ていないが、服装と体つきが、穴を掘っていた男と同じだと言っていたよな」

「言った。同じだった。それは間違いない」

「それも含めておそらく同じ男なのだろうが。で、いろいろと調べた結果、貝田が自ら穴を掘り、自らの身体に土をかけて埋め、そして死んだと言う結論に達したんだ」

「えっ、貝田は二メートルくらいの穴の底に横たわっていて、その上に穴が埋まるほどの土がかけられていたんだろう。それでどうやって底に横たわったままで、そんな深い穴を埋めたんだ」

「それはわからん」

「わからんって」

「さっきも言ったように、いろいろと調べてそう言う結論になったんだ。自分を埋めた方法は全くわからないままにだ。決定したのは俺じゃない。上の判断だ」

「そうか。自ら土に埋まったと言うことは、自殺と言うことになるのか」

「そう自殺だ。犯罪はそこにはない」

口調からさっするに、坂口自身もまるで納得はしていないようだが、そう上が決めてしまったものを覆すことは、それなりの地位にいる坂口でもできない相談なのだろう。

しかしなにをどう考えて、坂口の上司は自殺と言う判断を下したのかがまるでわからないが、私に負けず劣らず、坂口の方がわかっていないようだ。

最初に話題にのぼったあの男の話は、それで終わった。

あとは久しぶりの積もる話で盛り上がる。

なんでここ数年、坂口と疎遠になっていたんだろうか。

これからはもっと積極的にに会おう。

私はそう思った。

坂口の方もそう考えているようだ。


それから坂口とは頻繁に会うようになった。

坂口はいい男だし、会って話をすると楽しい。

私は思った。

かつての関係に戻ったなと。

あの山で穴を掘っていた男の存在が、結果的にはいい方向にむかったのだ。


ある日、ふと気づいた。

ずいぶんと長い間、山には入っていない。

あの件以来、知らず知らずのうちに山を避けていたのかもしれない。

穴に埋まった死体なんかを見たせいかもしれない。

身内以外の死体を見たことがなかった私なので、そうなっても不思議ではない。

山菜取りは仕事ではないので行かなければならないと言う理由は特にはないのだが、私の数少ない趣味の一つだ。

行った方がいいだろう。

身体は疲れるが、心は確実にリフレッシュされるのだから。

私は一番近い休日に、山に入ることにした。


数日後の休日。私は山菜取りに出かけた。

いつものところに車を停めて、いつものところを歩く。

すると聞こえてきた。

ザッ、ザッ、ザッ。

――ええっ、まさか!

これ以上はないくらい慎重に近づく。

するといたのだ。

死んだ男と同じ服装、同じ体型の男が、同じ場所で穴を掘っていたのだ。

――……!!

固まったまま見ていた。

すると男が振り返り、私を見た。


        終

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山を掘る男 ツヨシ @kunkunkonkon

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