サヨナラ地球

とらまる

サヨナラ地球

21XX年

日本国内である法案が成立した

21世紀から延々続いている子供や大人のいじめ、ハラスメントに対しての重い罰則として1光年離れた惑星Pに加害者を輸送、つまりは島流しの刑に処す、という法律が施行されることになったのである

もはや国内での民事、刑事罰だけでは抑止力が働いていない、という有識者達の声を聞いた現与党政権の判断であった

むろん野党側は人権侵害だ、として法案阻止活動を行ったが、信を問う、としてM総理大臣が解散総選挙に出た結果、法案を提示した与党の圧倒的多数の勝利に終わり、公約通りこの法案が成立したのである


総選挙終了後のマスコミの関心事は、果たして誰が初めての島流しに遭うのか、という予想で盛り上がった

数年前に、保育園で幼児を虐待して死に追いやった保育士か

あるいは過剰な残業を強いて数十人の部下を自殺に追い込んだ元T社社長か

あるいはSNSで著名人への非難中傷を繰り返し、高額な罰金刑を何回も受けても平然とやめようとしないYouTuberのS氏か


スポーツ誌、女性週刊誌、タブロイド紙、ワイドショー等こぞって何人もの名前を挙げていたが、どれも太鼓判を押せる人間はいなかったらしい


そして法律施行約1年後、ついに惑星Pへの島流し第一号が決定した


それはM総理大臣であった


理由は1光年も離れた惑星へ人を送るロケットの建造、それを発射するための設備、操縦するためのアンドロイド宇宙飛行士製造等に莫大な予算が必要となり、M総理大臣はその予算確保のため国民に想定以上の大増税を強いたことが理由である、とのことだった


当然M総理大臣は不服として裁判所に訴えたのだが、最高裁でも即却下され、刑が確定されたわけである


国民への大増税が、国民への「いじめ」と認定されたのである


ロケット発射時、世界各国のマスコミが日本に取材に訪れ、その発射の瞬間は全世界に生中継された

盛大なファンファーレや数千もの風船が空に舞い、花火が打ち上げられる中、M総理大臣の乗るロケットは爆音と共に宇宙へ飛び立って行った


その際、M総理大臣が「サヨナラ地球」と言ったという話は、現在では根拠が無く、薄い都市伝説となって語り継がれている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サヨナラ地球 とらまる @major77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ