ゆめにっきー夢日記ー

福倉 真世

第1話 死体が四体寝かされている部屋に踏み込んではいけない、という夢

死体が四体。


駄洒落かよ、と思われた方もいるかもしれない。でも、実際に見た夢がそうだったのだから仕方ない。


この夢を見たのは昨年の年末だった。すごく気持ちの悪い夢だったので細部まではっきりと覚えている。


夢の中の私はお屋敷に住んでいる。

古い日本家屋で、庭もあるのだが、広いはずの庭には陰鬱な木々の影が満ち、明るくなく、鬱蒼としている。

畳張りの部屋が沢山あり、その部屋一つ一つに、黒光りする立派な箪笥が幾棹も備え付けてある。障子の紙は年季が入っているが破れているところは一つもない。

その薄暗い屋敷で私は母と、父と、そして、死んだはずの祖母と暮らしている、という設定だった。


「こんな立派なお屋敷に暮らせるんだから感謝しないとね」


針仕事をしながら母が言うが、私はこのお屋敷好きじゃないんだよなあ、と内心では思っている。


台所では祖母が食事を作っている。

今ではあまり見ないような古いガスコンロを器用に使いこなす祖母の手。

味噌汁と、ご飯と、焼き魚と、煮つけ。

だが、四人家族の分としてはずいぶん作る量が多い。


「さあ、真世。膳を****様たちの部屋に持って行ってくれるかい?」


夢の中の私は、いやだなあ、と思っているがそれを表に出せず、祖母から朱塗りの膳を受け取る。膳は四つ。いっぺんには運べないので一膳ずつ、私は年季の入った板張りの廊下を軋ませながら、ある部屋の前に運んでいく。


その部屋には注連縄(しめなわ)のようなものがついていて、その奥から得体のしれない気配が漂ってくるのがわかる。

膳を部屋の前に置くために仕方なく障子のそばによると、指先がぴりぴりと痺れた。

静電気をいやらしく薄めたような刺激。


「おあがりください」


と言って私はそこをそそくさと去る。


夢の中の私は知っている。


部屋の中には死体が四体ある。


死体は全て女性で、皆一様に白装束を身にまとい、布団に寝かされている。


かちこちに強張った、青い顔した死体たちはあの部屋にある限り、腐ることはない。

火葬されることも、埋葬されることもなく、ずっと部屋で横たわっている。


ただ、彼女たちの目はかっと見開かれ――その白く濁った目は天井を見つめている。


四体の死体は待っている。待ち焦がれている。


いつか、その部屋に、禁忌を破り、誰かが踏み込むのを。


そうすれば、彼女たちはこの屋敷から解放されるからだ。

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