あのこのお気に入りの空

藤泉都理

あのこのお気に入りの空




 嵐の襲来を知らせる不気味な赤紫に染められた空だって。

 身がすくむような黒雲と稲光で埋め尽くされた空だって。

 家に閉じ込めてしまう雪を降らせる白灰の凍て空だって。

 水分を根こそぎ奪い取るほどに日射が強い黄の空だって。


 あのこが飛んでいれば、お気に入りの空に早変わりするのだ。






 お気に入りの空は何だって?

 そりゃあ、雲がゆっくりと遊び、目に優しい青が広がる空だ。

 なぜって。

 そりゃあ、荷物の運送が滞りなく済ませられるからだ。


 昔はそんな感情は抱かなかった。

 否、そもそもそんな感情はなかった。搭載されていなかった。

 ただ指示通り飛べばいいだけ。

 配達の時間が遅れても、操縦者、つまりクソババアが悪いのであって自分の所為ではなかった。


 のに。


 人工知能が搭載された途端、あのクソババアは最低限の事しかやらずに後は自分でやれとほったらかし。

 雨、風、雷、雪、強い日光、嵐、竜巻、黄砂、ミサイル、その他諸々の自然現象人間現象に自力で対応しなければいけなくなった。

 遅いと怒髪天に衝く客にも。


 あーやだやだやだ。

 もう運送ロボット辞めちゃおっかなあ。

 何度思ったことか。

 けれど自分は今も運送ロボットを続けている。

 ロボットである以上、命じられた仕事を放りだすことはできないし。

 何より。


「いつもありがとうーーーーー!!!」


 どんな空だって笑顔で手を振ってくれるあのこが居るから。

 あのクソババアの孫とは思えない、思いたくないあのこが見送ってくれるから。


 まあ、しゃあねえわなと、自分は今日も荷物を運ぶ。

 穏やかな天気が続くようにと願いながら。






 お気に入りの空は何だって?

 前は、雲がゆっくりと遊び目に優しい青が広がる空だった。

 まあ、今も変わらないが、でも同じくらいお気に入りの空ができた。


「じゃあ行ってくるね!」

「おう!」


 あのこが乗る宇宙船が勢いよく飛んで宇宙へと行ってくる空だ。

 あのこが乗る宇宙船がゆっくりと飛んで宇宙から帰ってくる空だ。






 どんな空だってあのこが飛んでいれば、お気に入り。

 もちろん、危ない目に遭ってほしくないので、穏やかなのが一番だが。


 例えばほら。

 雪上がりに大きな虹がぽっかり浮かぶ今の空とか。











(2023.1.25)


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あのこのお気に入りの空 藤泉都理 @fujitori

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