第29話 圧倒

 商会の娘の撫子なでしことは初日のおっぱい事件の関係であまり近づきたくなかったけど完全に顔バレしてて権威とか権力とかが面倒そうな教会の関係者の巨乳シスターのおねいさんの近くの方がヤバそうだったので顔バレしてなさそうな撫子さんの方のお手伝いを優先した。覚理もそれに気付いたのか教会側の手伝いをすると言っていた。


 とはいえ撫子さんの方にもバレる可能性があるので早く終わって欲しいと思いながら馬車の荷台に木箱を載せていると何やら騒がしかったので荷台から降りてそちらを見てみると一人のシスターが地面に膝を着いて右手で頭を押さえていた。慌てて駆け寄りどうしたのか尋ねると左手でどこかを指差したのでそちらを見ると二人の男が撫子さんが連れ去るところだった。


 彼女は抵抗せず体がぐったりしていたので意識が無いのかもしれない。反射的に追いかけたが初めから距離があり土地勘なんてあるわけもなかったので見失ってしまった。捜索方法を変えるか一度戻るかどちらにすべきか考えていると後ろから声がした。


「お前の方から自発的に集団からはぐれてくれて手間が省けたぜ」


 振り返ると大男が立っていた。そいつを見て一瞬、俺は自分の頭を疑った。


 大きなおっさんを見ておっぱいが頭に浮かぶのはなんでだ!? 俺の脳バグってないかこれ!!??


 次の瞬間には初日に撫子さんのおっぱいを狙ってた奴だと思い出し一安心したが。


「テメェにやられ金を奪われた俺らはスラムで笑い者にされ今では───」

「人違いです!!」


 すぐさま踵を返して走り出す。負け犬チンピラの泣き言を聞いたりリベンジマッチに付き合ったりなんてやってられないっての。


 しかしチンピラは追ってきた。だから追ってくるなら美少女が良いって前にも言ったでしょカミサマよ。てか笑い者にされたって笑ったのは俺じゃねえだろ。そういやお金の件でも怒ってるって事は覚理のせいじゃね? 後で恨み言の一つでも言ってやる!


 路地を利用して追っ手を撒こうとしたが土地勘が無いのが災いして袋小路に入ってしまう。それでも逃げる手段はあったが、ふとここで逃げ切ってもまた追われることになるのでは? と思い直す。どうやら監視されてたみたいだし。


「ようやく観念したか。相変わらず他人ひとを馬鹿にしたやつだな」

「そう思うなら関わらなければ良いじゃん。なのにわざわざ絡んできてなじられたいの? ド変態かよ。そーゆー性癖は個人の自由だけど俺を巻き込むのはやめてくんない? 鞭とか渡されて叩いてくれって言われてもお断りだぞ」

「こ、こいつ。ぶっ殺す」


 こんなんで怒るとか口喧嘩が弱すぎだろ。語彙の貧弱になってるし。


 その間に鑑定で相手の情報を読み取っておくのを忘れない。戦闘中に使うことのリスクを覚理に教えられていたからだ。



──

 名前:マックス


 HP:99%

 MP:72%


 スキル:渾身

──



 初日に会った時とは違い手を防護するための手袋状の防具であるガントレットを着けて頭以外の体全体を覆うマントで隠していた。あの時は生意気な小僧に痛い目を見せてやるくらいの考えだったのだろうけど今は完全装備だ。


 スキルは『渾身』か。ギルドマスターの剛力よりも爆発力は上な気がするな。


 真面目でやるなら減ってるMPがキーだろう。俺に接触する前に何らかの理由で消費してた可能性もあるが監視してたみたいだから低いと思う。そして追ってくることで100%に近い状態からここまで減らしたとすると燃費が悪いのか、あるいはMPの総量が少ないのだろう。そこに付け入る隙がありそうだ。


 だが今のおれにはごり押しが可能なのでそうすることにした。


 距離を詰めてくるチンピラに対し背後に展開したストレージから拳くらいの大きさの石を取り出し大きく体を動かすわけでもなく手前に転がすような動作でそれを投げる。しかしそんな軽い動きに反し石は加速して飛んでいく。これにはストレージを使っている。


 ストレージには物体だけじゃなく物体に作用する『力』も収納することが可能だと検証で判明した。要は投げたボールを収納すると収納した時と同じスピードでストレージから射出できるわけだ。そしてこの力は切り離して付け替えることも可能だった。


 ストレージの色も初めは俺のイメージの黒色が影響してただけで無色で出すのも可能だった。つまり今やってるのは背後のストレージから石を取り出して前方の無色のストレージに収納した瞬間に力を付与して射出してるわけだ。何故こんな回りくどいやり方で攻撃してるのかというと見た目がカッコ良い気がするからだ!


 チンピラは咄嗟に体の前で腕をクロスさせ飛んでくる石をガントレットガードした。それた石が建物に当たらないようにストレージに収納するのを忘れない。隙を埋めるために両手を使い投石を続け、頭に当たらないように細心の注意を払い、あとなるべく足にも当てないようにする。


 相手の息が上がってきたのを見て手を止めると大石を落とす。もちろん避けれるようにだ。そして後ろに下がったのを確認するとすぐさまストレージにしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「一度も攻撃してないのにもう息が上がったのか? さっきまでの威勢はどうした。俺はまだここから一歩も動いてないぞ」


 一度は言ってみたかったセリフでイキり相手を挑発しとく。


 後ろに手を回しストレージから石を取り出そうとするとチンピラが頭をガードしながら一気に距離を詰めようとしてきた。そうだよな、逃げないのならあんたにはそれしか方法が無いよな。でもそれを待っていた!

 

 俺は進路上に膝より少し高いくらいの横長の石をストレージから出して置く。相手に近すぎない確認できる距離に置いたのでチンピラがジャンプしてそれを飛び越えようとして、


 


『んなぁ!?』と声をあげるチンピラに下から追撃の投石をする。それは上手くガードされたが今度は後ろに設置したストレージからも石を射出し背中に当てる。もういいか、とガントレットを収納で奪い頭に当てないように注意しながら四方八方から石を射出していった。


「【へっ! きたねえ花火だ】」


 無重力遊泳してたチンピラをフルボッコにし、ガードする力も無くなったタイミングで重力の収納を止めて空から落とす。地面に衝突する寸前で落下が一瞬止まりそして仰向けで墜落した。


「テメェは…一体、なに もんだ………?」

巨乳せいぎの味方だよ!」


 がら空きの鳩尾に一発拳を打ち込むとチンピラは意識を失った。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 炊き出しの場所に向かっている途中で大樹に遭遇した。


 小さい方がこっちに来てたから大きい方とやりあってるのは予想が着いていた。大樹の性格から一度は逃げただろうから目的地以外の場所で遭ったのもそう不思議ではない。そして以前の実験でストレージの攻撃転用方法が上手くいったので敗けることはないと思っていたから大した怪我もなくここに居るのは順当ではある。しかしなんだそれは。


「あー、我が友よ。ならず者を倒してロープで拘束するのは当然だ、俺もそうする。手を後ろで縛って同じく縛った足と繋げて身動きを取れなくするのも徹底してて良い。そこにリードのためのロープを結ぶのもまぁわかる。しかしなんでその縛った大男が? 遊園地で子どもが持ってる風船のつもりなの? お前今、顔に包帯巻いてるから目撃者がいたら都市伝説になりそうなくらい絵面が酷いよ。それとも風船じゃなくてペット的な何かか? 元の場所に捨ててらっしゃい、うちでは飼えません」

「なら俺も言わせてもらうけど。気絶した小さいおっさんチンピラを運ぶからシールドで台車みたいなのを作るのはわかるけど、なんでその形がベビーカーなの? もっと他にも色々あるのになんでそれをチョイス? 『あら、若いのにしっかりしてるのね』ってほっこりした心で中を覗いたら小さいおっさんが白目剥いてるってトラウマものだぞ。通報されてても文句言えないからな」


 むっ、確かにそう指摘され客観的に考えると大樹の言う通りかも。でもこれだけは言える。


「「絶対お前のが変だから」」


 この議論は平行線のまま終わった。






「そういえば我が友よ。この小さいが襲ってきた理由が大樹おまえの仲間だからみたいなことを言ってたんだが巻き込んだ事について何か弁明はあるかね?」

「友よ、チンピラのリベンジの理由が賞金額に不満があったからっぽいぞ。だから責任の半分はそっちにあるだろ」


 この件は貸し借り無しにしといてやるか。


「ん?  肩の辺りが汚れてるけど攻撃喰らったのか?」

「あぁ、この小さいのすばしっこかったから一発な。もう治したけどな」

「あ、前に言ってた魔力操作の可能性? ホントにできたんだ? ファンタジー拳法スゲェな。でも回復役は美少女にやって欲しかったなぁ」


 贅沢言うな! 同じ気持ちだけど!!


 舐めプしてたことに気づかれなくて良かったと思ってる内に炊き出しの場所まで戻ってきた。


「あ、サトリさんにダイキさん」


 教会に戻ったはずのおねいさんシスターのスイレンが駆け寄ってきた。この人も来てたのか。炊き出しに出資してくれてる商会の娘が拐われたのだからそう不思議でもないか。


 担いでいたならず者を地面に降ろす。


 小走りで駆け寄る姿は絵になってるし可愛いのでここが地球ならテンションが上がりそうだが警戒してる今はそんな気持ちになれない。


 彼らは? とスイレンさんを追いかけてきた男が彼女にそう訊ねた。他にも数名いる男たちと同じ服装なので衛兵や憲兵なのだろう。


「お二人は今回の炊き出しを手伝ってくれた新人冒険者さんです」

「さっき言ってた二人ですね。ところで地面で倒れてる二人は一体…?」


 衛兵(仮)が警戒心をあらわに聞いてきた。何もしかして誘拐してきたとでも思ってるの?  俺ってそんな特殊性癖持ってるように見えるのかな。


「ここに来るときに襲撃してきた奴らです」

「そうですか。なら女性を連れ去った奴らの仲間かもしれないな。こちらに引き渡してもらっても?」


 だから何で引き渡さない選択肢が在るかのように訊くかなぁ。美少女じゃなくおっさんが好きそうな顔してんのかな俺。やべぇ、容姿は普通だと思ってたけど自信が無くなってきた。

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二人のオタクが異世界に転移しました~勇者たちの凶宴~ 三度寝 @3sleep

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