第28話 飛ぶ鳥の如く
俺たちが受けた依頼は炊き出しのお手伝いで依頼主は教会なので誘拐された撫子さんを助けに行く義務は無く義理も無い。
大樹は無事だと思うが確認のために合流するべく炊き出しをしていた場所に戻る事にした。あいつが無事ならば同じ事を考えるだろうからな。
「ん? あれは…」
その途中で道の真ん中で佇む一つの影があった。と、高速でこちらに向かって来たので咄嗟に大盾代わりのシールドをスキルで展開する。
「反応するとはやるじゃねえか」
「どこの誰だか知らないがいきなり何のつもりだ?」
そう言ったが目の前の男には見覚えがあった。
こちらの世界に来てまだ数日しか経ってないし、その間に会っていてトラブルになりそうな相手はほとんどいない。そしておそらく成人してるのに特徴とも言えるほど低い身長の人間は一人しか知らない。そう初日に会った(というと語弊があるが)撫子さんに絡んでいたならず者の一人だ。
大樹には背後から一撃でやられていてろくに顔を見てないが間違いないだろう。勝者側として賞金を貰った(断言)ことに怒ってるのか?
「テメェに恨みは無いがヤツの仲間になったのが運の尽きだ。もし恨むなら仲間を恨むんだな」
賞金の事はバレてなさそうなのでセーフ。ていうか大樹のトラブルのとばっちりかよ。あいつには後で恨み言の一つでも言ってやる!
止まったままだと良い的だしシールドの耐久力を過信していないのでとにかく移動する。心の中では冗談を言ったが現状はあまりよろしくない。
奇襲は反射的にシールドで防げたものの相手は建物を足場に立体的に移動しながら攻撃を仕掛けてくる。言うまでもなく元の世界の常識から外れた動きなので何かのスキルを使ってるのがわかる。それに立地条件も相手に味方していた。
ここスラム街の建物は一軒家が並んでるのではなくアパートが並んでいる。通路の幅も広すぎず狭すぎずといった感じだ。そんな向こうの動きに目が追い付かない。自分の動きを制限しすぎない範囲で自身を基点にシールドを展開してるが、このままではジリ貧なので早急に何か対策を練らなければならない。
頭をフル回転させて自分の使える手札を考える。
まず無刀取りと無拍子は活かせる状況ではない。相手は攻撃に剣の類いは使っていない。ナイフくらいは持っているかもしれないが、戦闘スタイルじゃないのか或いは別の理由か使ってくる素振りは無い。ただ手足にはガントレットなどの防具を着けているので油断はできないが。
無拍子もアウトボクシングのような距離を取って戦う一撃離脱の戦法とは相性が悪い気がする。それにそもそも相手の技量が有効になるくらい高いかは分からないし俺に出来るのは歩くことだけだから効果は無いだろう。
次にスリングショットだが同じくこれも活かせないだろう。魔力で動体視力は上がっているが止まって見えるわけではなく何とか目で追いきれてる状態だからだ。大雑把になら相手の行動を誘導できるだろうが当てるのは至難の業だ。
そうなるとあとはスキル頼みになる。そして俺の持っているスキルは四つ。ブラックボックス・鑑定・魔力操作・シールドⅡ(ノーマル/リフレクションシールド)だ。
ブラックボックスは要はアイテムボックスのことで異空間に物をしまうスキルだ。このスキルは大樹のストレージと違って無茶な使い方はほとんどできない。一応用途とは違う使い方は思い付いてるが今の状況には活かせそうもない。
鑑定は何かしらの突破口を見つけられる可能性は無くはないし動体視力を強化してるから何とか目で追えるので使うことはできるだろう。
しかしこの猛攻の中、相手から目を離すのは危険だし相手の戦闘スタイルは既におおよそ判明してる。奥の手のスキルを持っているかもしれないが相手を追い詰めた状況なら少しは余裕があるだろうからその時に使うべきだろう。
魔力操作を活かすなら戦法はカウンターになる。しかしこれも動体視力が上がっていても動きが速くなっているわけでは無いのでボクシングのようなクロスカウンターを決めるのは難しい。他に手が無くなったときの最後の手段だ。
そうなると残るスキルはシールドだ。このスキルで作った盾は何かを基点に展開しなければならない制約が有るので投げたりする事はできない。自分の体を基点にすれば拳を痛めないようにグローブ代わりにできるし剣もどきも作れなくはなかったりと利点もあるのです制約に関しては良し悪しだ。
自分で振ることで一応攻撃に転用できるシールドスキルだが今回はその必要は無い。ダメージを与えるためのエネルギーは相手に用意してもらえば良い。なので俺がやる事は単純。ただ地面を基点にする固定シールドを複数展開すれば良い。
さらにそこに小細工を一つ。スキルで作れるシールドは意識すれば薄く白く色付けできるが当然逆の実験もした。その結果、より透明度が高くそこに在るのが判りにくいシールドを作ることもできた。冒険者の登録試験(勘違い)の時にギルマス相手に使ったが気づいてる様子はなかった。なのでその効果は期待できるだろう。
つまりやる事はシールドスキルを展開するだけの簡単なお仕事です。
あとはたくさんの固定シールドを不規則に展開するだけで相手は自滅する。そんな簡単な事だと思ってたのだが───
「なんだわざわざ足場を用意してくれたのか?」
相手は自滅することなく不意に展開されたシールドに反応しそれを足場に急速に迫ってくる。動きが読めなかったので咄嗟に後ろに下がり身を隠せるだけの固定シールドを展開した。しかし相手はシールドの上部に両手を着けて一回転するように乗り越えながら蹴りを入れてきた。
「くっ」
反射的に両腕で頭上をガードしたが左の二の腕に相手の蹴りが当たる。
「どうやらテメェとは相性が良いみたいだな!」
シールドを消して反撃しようとしたときには相手は既に距離を取っていた。蹴られた二の腕がじんじんと痛む。
「テメェに教えてやるよ! 俺の名は飛ぶ鳥と書いて飛鳥! 呼んで字の如く動けるんだぜ!!」
相手の言葉にカチンと来た。絶対に泣かせてやる。
俺は
相手は向かって左側の建物の屋上を走っていたので『更に左に移動して視界から消える』なんてことをさせないために大袈裟なくらいに高く長い壁のシールドを展開する。壁は登りにくいように傾かせてある。相手に考える暇を与えず次の行動に移る。
間を置かずに今度はスリングショットで弾を放つ。弾は直接ではなくほぼ真上に放って新しく出したシールドで軌道を変えて向かっていく。けどこれは虚仮威(こけおど)しに過ぎず次からは余裕を持って避けられるかガードされるだろう。しかし最初の一発目は壁のシールドでの移動制限から不意打ちの軌道を変える狙撃で思考の余裕を奪ってある。だから相手は咄嗟に反対側の建物に飛ぶことで弾を避けようとした。
その動きは俺の思惑通りだった。
距離を取っていたのと予想してたのが相まって、余裕で相手の動きを目で追って進行方向に一つのシールドを展開する。しかしこれは行く手を塞ぐものではない。それだとまた足場にされるだけだ。
だからシールドは相手を『基点』に展開した。
だから当然シールドは相手に当たることなく一緒に移動する。そして飛び移ろうとしてた右側の建物の屋上にはそこに入れないように壁のシールドも一緒に展開しといた。
するとどうなるか。
当然基点にされた相手よりも先にシールドが建物や壁のシールドに接触する。そしてそれらが拮抗し止まると同時に
空中で運動エネルギーが無くなったのならあとは重力によって落ちるだけ。全てのシールドを解除して落下地点に走っていた俺は、相手の苦し紛れの右拳を避けて自分の右拳を相手の腹に打ち込む。そして左手で動きが鈍くなった相手の胸ぐらを掴んだ。
「【君がッ泣くまで 殴るのをやめないッ!】」
後はボクシンググローブのように右手を保護してパンチの嵐を顔面に叩き込む。魔力操作だと殺しちゃうかもしれないから使わない。相手も反撃してきたがシールドでノーダメージだ。
相手から反撃が無くなったことには目尻に涙を浮かべていたので殴る手を止めた。
「相性が良いとか気持ち悪いことを言われてつい力が入ってしまったな。俺にそーゆーことを言って良いのは美少女だけだ、憶えとけ!」
鑑定で確認するとHPは70%以上残ってるので死んではいないだろう。というかコイツのスキルって『俊敏Ⅲ』と『跳躍強化Ⅲ』じゃん。これだと鳥じゃなくて蛙とか
とりあえずシールドスキルで身動きを取れないようにして炊き出ししてた場所まで連行することにした。
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