【改良版】茨城県、最高!
久坂裕介
第一話
営業部の自分の席に座ると、上司の
「あー、ちょっと、平山君。話があるんだけど」
そう言われて僕と福田さんは、小会議室に入った。すると
「平山君、先日、
僕は、ニュースを思い出した。
「はい。確か今年も、茨城県が最下位で四十七位だったと思います……」
「そうなんだよ。それで部長が、
「どういうことですか?」
福田さんは、
「うん。部長としては茨城県の
僕も、それは確かにそうだろうなあと思った。そこで何とか最下位を脱出できないかと、部長は福田さんに頼んだ。そして福田さんがチームリーダーに、そして僕が
でも僕は、疑問を聞いてみた。
「でも、そういうのって県のPR課とかが、もうやってるんじゃないですか?」
「うん。でも結果が出ないから、困っているんだ」
なるほどと僕は、
「でもPR課以上のことができるとは、思えませんけど」
すると福田さんは、
「まあね。正直、私もそう思う。だから取りあえず、やってみました、という
僕としては、それはそれで複雑だった。でも仕事なので、答えた。
「分かりました。
そして席に戻って、ノートパソコンを
するとPR課は、動画をユーチューブはもちろん、インスタグラムで
僕はアパートに帰ってカップラーメンとおにぎりを食べると、
高校三年生の時に、同じクラスになった。小学校から一緒だったが、僕は内気で女子と話すのが苦手だったから竹崎とも、あまり話をしなかった。竹崎が元気で、いつもクラスの人気者だったのも話しかけられなかったのも理由の一つだ。だが一番大きな理由は中学校、高校に進学するたびに竹崎が、どんどん
ただ大学に進学できる学力があったのに「私は水戸市が好きだ! だから水戸市役所で働く!」と言い出したのには、
僕はやりたかった仕事も無かったので取りあえず、茨城県にある大学に進学した。そして竹崎とも会っていなかったのだが二十二歳の時の同窓会で再会して、
「二人で地元のために、がんばろう!」と、盛り上がった。
それから今まで月に一、二回、デートみたいなことをするようになった。レンタカーで茨城県の名所に行ったり、軽く食事をしたりした。カラオケにも行った。僕はReolが好きだが女性だからキーが高くて歌いづらいと言うと、竹崎はユーチューブで歌を
でも僕たちは、付き合ってはいない。もちろん僕は竹崎と付き合いたいと思っているが、茨城県庁で働いて二年目の僕はまだ新人だと思っていて、つまり社会人として、更にいうと男としての自信が無かった。
そんな竹崎に僕は、LINEを送ってみた。
『茨城県の魅力って、何?』
すると数分後に、返事がきた。
『え? どうした、突然?』
『うん。また茨城県が都道府県魅力度順位で、最下位になっただろう。だから僕が茨城県の魅力をPRすることになったんだ』
『なるほど、そういうことか。うーん、でも茨城県の魅力って、たくさんあると思うんだけど』
『そうなんだよ。すでにPR課が、名所とか名産品をSNSでPRしてるんだよ』
『あー、なるほどねえ……。じゃあ平山君の目線で、茨城県の魅力をPRしてみたら?』
『え? 僕の目線?』
『そう。まだPR課がPRしていなくて、平山君が良いと思うモノをPRしてみたら?』
『僕の目線か。なるほど……』
すると僕に、
テンションが上がりまくった僕は、竹崎に
『ありがとう! 僕、がんばるよ!』
次の日。僕は早速、PR課に行きビデオカメラなどの
「何? 営業の人間がPRのための機材を借りたい?! 我々の仕事が
僕は取りあえず、
「いえ。僕はPRの仕事を、お手伝いしたいと……」
すると、「何? そうなのか。それじゃあ機材を貸すから、がんばってくれ。わはははは」と
そして昨夜、改めて調べて僕が興味を持った茨城県の名物を、食べられる店に行った。
まずは身はやわらかく
それらを撮影して、茨城県の公式ユーチューブチャンネルにあげた。だが一週間経っても再生回数は、ほとんど伸びなかった。
うーむ。
まあいい。次は茨城県の名所を紹介しよう。まずはやはり、
次に、国営ひたち海浜公園。今の時期はバラやコスモス、紅葉する草コキアが
それらの写真をインスタグラムにあげたが、やはり一週間経っても反応は
それならばと、これからの茨城のイベントをツイートした。宇宙や海の不思議をめぐりながら水族館を楽しめる、海の不思議展。春エリア、夏エリア、秋エリア、冬エリアを四十万球で表現した、かわちイルミネーション。
なので僕は実際にイベントに行って、その感想をツイートすることにした。『海の不思議展では、
一カ月ほどがんばってみたが、やはりSNSでの手ごたえはほとんど無かった。なので横になり、アパートの
『ツイッターも見たよ。すごく、がんばってるじゃん!』
『うん。でもあまり、
『ふーん……。ねえ、ちょっと
『息抜き?』
『そう! 私が茨城県で一番、好きな場所を教えてあげる!』
そして土曜日に僕と竹崎は、
そこに着くと早速、竹崎は、はしゃいだ。グレーのニットにデニムのGジャンを着て、白いミニスカートをはいていた竹崎は、スマホで海の写真を
「うわー。ここにくるのは
そんな竹崎をボーッと見ていると、竹崎は振り向いた。
「ね。いいでしょ、この海岸」
僕は、あいまいな返事をした。
「うん、まあね……」
そして、疑問を聞いた。
「どうして、ここがそんなに好きなの?」
すると竹崎は、笑顔で答えた。
「ここって小学校の時、
「ああ、そうだっけ……」
「うん。友達と砂浜で追いかけっこをしたり、海で海水をかけ合ったりして楽しかったんだ。そんな思い出があるから、ここが私が茨城県で一番、好きな場所なんだ」
「ふうん、そうなんだ……」
そういえば僕にも、かすかな思い出がある。この何もない海岸で、ただひたすら友達と遊んだ記憶が。
すると竹崎は、急に
「ねえ。あんまり気にすること、ないんじゃない」
僕は、何のことか分からずに聞き返した。
「え? 何のこと」
「都道府県魅力度順位のこと」
「どうして?」
竹崎は、やはり真面目な表情で続けた。
「だって今、茨城県には約二百八十万人が住んでいるんだよ! 都道府県人口は、全国で十一位なんだよ!」
僕は、話を聞き続けた。
「学校や仕事で、
「うーん、確かに……」
「この人たちって、『ああ、茨城県は、それなりに良いところだなあ』って思って住んでいると思うの。それに茨城県で生まれ育った人には忘れられない思い出があるから、茨城県を離れられないと思うの。私みたいに」
「なるほど。確かに」
僕は、やっぱり竹崎は
そして竹崎は、言い切った。
「だから、いいじゃん! たとえ都道府県魅力度順位が最下位でも、約二百八十万人が『ああ、茨城県は、それなりに良いところだなあ』って思ってくれてたら、それでいいじゃん!」
僕の心は、少し軽くなった。
「まあ、そうかもな……」
そう考えると僕も、この何もないただの海岸が
●
そして一年経って今年の都道府県魅力度順位は、なぜか茨城県は順位が一つ上がって四十六位になっていた。理由は、よく分からない。都道府県魅力度順位は出版社がインターネットで消費者に答えてもらい、順位をつけるそうだ。僕たちががんばってSNSなどで、茨城県の魅力をアピールしたから、何となく茨城県に興味を持った人が増えたから、なのかもしれない。
もしそうだったらいいな、と思いつつ僕は自信を持った。何はともあれ、茨城県は都道府県魅力度順位の最下位を脱出したからだ。だから僕も、自信を持った。『僕だって、やればできるはずだ』と。
そして、土曜日。僕は、おしゃれな私服に着替えた。鏡を見てみると、短髪で
完結
【改良版】茨城県、最高! 久坂裕介 @cbrate
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