第9話 殺意、一時中断

 一希が帰宅後に菜乃華がレシートを見せ『ここのコーヒーおいしいの?』と聞く。

『学校の近くにあるんだけどおいしいんだよ。朝早くからやってて、学校行く前に買っていくんだ。すごく豆にこだわっている感じで、菜乃華にも飲ませてあげたいんだよなぁ。今、期間限定のコーヒーがあって金曜日に飲んでみたんだけどおいしかったんだ。今度車出すから飲みに行こうよ。ケーキとかもあるんだけど、おいしそうだよ。マスターとも顔なじみだから。』その言葉に菜乃華は何も言えなくなる。

 翌日、珍しく一希が20時前に帰ってきた。『今日は早く仕事終えられたんだ。だから昨日言ってたコーヒー屋さんのコーヒー。少し冷めちゃったけど。あと、閉店前だったからマスターがクロワッサンをサービスしてくれた。』リビングの机の上にクロワッサンとコーヒーが入った紙袋を置き、その横にレシートも置く。

 久しぶりに感じた一希の優しさに菜乃華は嬉しくなり、一希に対する殺意が一瞬なくなった。

 子供達を寝かしつけた後、コーヒーをマグカップに入れ直し、レンジで温め直す。寝る前にコーヒーを飲むのはあまり気が乗らなかったが、せっかくなら今日のうちに飲みたかった。クロワッサンは明日の朝、自己責任で食べることにする。一希がお風呂に入ってる間、コーヒーを飲みなら冷静に考えてやっぱり毎日580円のコーヒーはぜいたくな気がしたが、とりあえず何も言わずにいることにした。机に置いておいたレシートに目を通す。コーヒー600円となっている。お風呂から出た一希が『おいしいでしょ?』と声をかける。後ろを振り返るとバスタオルで髪の毛を拭きながらリビングに入ってくる。『コーヒー580円じゃないの?』思わず聞いてしまった。『いつもマイボトルに入れてもらうから20円引きなんだ。』と得意げに答える。確かに一希は出かける時に保温性の高いボトルを持ってでかけている。そういうことだったのか。と菜乃華は納得した。『俺だって節約意識してるんだよ』と続けて話す一希に'だったら580円のコーヒーは高いよ'と言いたくなったが一希なりの節約と受け止めて、それ以上は何も言わなかった。

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