第2話 色ガラスの窓の向こう

 自分の雇い主が危険に取りつかれてる……。何故そんなことがただの十代の女の子に分かったかって?私も理由は詳しくは分からないんですが、進駐軍、アメリカ人にはヨーロッパにルーツを持っている人が沢山いますよね。だとすると魔女の血でも引いている人が居てもいいんじゃないかと……。そしてそんな人が祖母であるレナの父親だったのではないかと……。僕はそう考えているのですが。


 レナは、孤児院にいた幼い頃にも、危険な行動をする人がすぐに分かったそうです。焼け跡に出来た闇市へ、孤児院の備品を横流ししようとする子を即座に見分けて思いとどまらせたことは何度もあったそうです。孤児院を抜け出せと、危ない仕事をさせるための甘言に騙されている子もすぐに分かったそうです。五、六歳頃には、それが自分独自の能力だと分かったそうです。

 そういう人は体の輪郭線が細かく震えているように一瞬見えるのだそうで。雇い主さんもそうだったのだと。


 レナは気さくで優しい雇い主を何とか助けようと考えました。雇い主さんは戦前までカフェーだったけど、すでに空き家になっていた建物を持っていたんです。どうもそこに何かあるのではないかと思い当たりました。


 子守の仕事の後に探ってみようと思ったレナは、受け持ちのお嬢さんが眠った後、路面電車がライトをつけて進む夜の街を走り抜けました。この辺りは空襲に合わなかったから、路面電車や戦前からの建物が沢山残りました。今でもちらほら見つかりますが、当時は戦前の建物がずっと多かったんです。幽かに紫がかった夏の月夜を運動靴で走り抜けました。家々の窓に明かりがともっていてまるで星が降りてきてるみたいで、その間をレナは流れ星の速さで走り抜けていったそうです。


 カフェーだった建物に着きました。


 レナは背伸びをして、赤と黄色と普通の無色の三種類のガラスで四等分されている小窓からこっそり中を覗き込みました。無色の部分のガラスに琥珀色の目をくっつけるようにして。

 実際、彼女は怖かったそうですよ。想像以上にご主人が悪いことをしていたらどうしようって。


 恐る恐る覗き込んだレナが見たのは、金色を帯びた光の中で花札に興じる男性たちでした。

 レナの雇い主さんは賭博場をこっそり経営していたのです。


 レナはすっかり困ってしまったそうですよ。なぜなら、彼女にその光景が美しく見えてしまったからです。大切に仕舞っておきたい。そう思えてしまった。後々、僕にこの話をした時、祖母はこう言いました。


 「北原白秋の詩を初めて読んだ時と同じ気分だったわ」

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