第10話 アイドルコンテスト開催
何の準備も無いまま私はステージに立たされているのだが、やる気があるのはどう見てもマリンさんだけなのだ。私も他の一般参加者たちも自ら進んでこのステージに立っているわけではないというオーラが出ているのだ。そんな状況でもなぜか審査員をやっているユイさんは楽しそうに一人一人に質問をしているのだが、マリンさん以外は本当に必要以上の事は言わずにサービストークなんていうモノも無かったのだ。
「このままだとマリンさんの一人舞台になってしまうと思うのですが、他の参加者の皆さんはそれでよろしいでしょうか?」
それでよろしいかと言われても、私も他の参加者の人達も別に問題無いと思っている。本来であれば参加する必要もないこのアイドルコンテストのステージに立っているだけでも褒めてもらっていいと思うのだが、私達参加者はとてもテンションも低くやる気も全く見られないし、下着審査もマリンさん以外は棄権してしまうという暴挙に出たのだ。そもそも、人前で肌を晒すつもりなんて誰も無いのだ。一人を除いては。
「もう、このままだったらマリンの優勝になっちゃいますね。みんなマリンのこの美貌に怖気づいて戦意喪失ってところだと思うんですけど、このままだったら見ているお客さん達もつまらないですよね。そこで、観客の皆さんを楽しませるための方法をマリンは考えてきました。これは皆さん気に入って貰えると思いますよ」
マリンさんはやる気のない私達を相手にするよりも美人でスタイルの良いユイさんと戦う方が盛り上がるんじゃないかと思っているようで、無理やりユイさんをステージに立たせると勝手に宣戦布告し始めたのだ。
「他の皆さんはマリンに勝てないとわかって戦意喪失してしまいました。観客席と審査員席をパッと見た感じ、マリンと勝負になりそうなのはユイさんだけなので、ここは一つユイさんとタイマンで勝負って事でどうでしょうか?」
エルエル教が普段どんな活動をしているのかわからないけれど、マリンさんは人を乗せるのが上手いように感じていた。全くやる気のない私達を見て観客の人達もひき気味と言うか完全に冷めていたのだけれど、ユイさんをステージに呼んで一盛り上がりさせることで観客のテンションも少しだけ熱狂寄りになっているように見えたのだ。
私はなぜかユイさんの代わりに審査員席に座ることになったのだけれど、さっきまで一緒のステージに立っていたこの村の人やこの国の他の地域の人からは本当に申し訳ないというのが伝わってくる表情で謝られてしまったのだ。
「さっきまでのメンバーには申し訳ないのですが、ここからはマリンとユイさんが皆さんに大人の色気というやつをお見せしたいと思います。それでよろしければ拍手をお願いします」
マリンさんに煽られた観客は戸惑いながらもまばらに拍手を始めていた。何故かユイさんもマリンさんを見ながら拍手しているのだが、時々私の方を見てお前もこのステージに立てと言わんばかりに目配せをしてきているのだ。私は絶対のその誘いにはもう乗ることは無い。さっきステージに立っていたという事だけでも約束も守ったし義理も果たしたと思っている。
「じゃあ、そろそろアイドルコンテストの第二部を始めましょうか。司会は誰にやってもらうのがいいですかね。ユイさんはさっきまで審査員をやっていたと思うのですが、どなたか視界を頼みたい方っていますか?」
「そうですね。一人頼みたい方がいるんですよ。ちょっとその方に聞いてみますね」
ユイさんは私をじっと見つめてきていた。何も言葉は発していないのだが、その目と表情は早くこのステージに戻って来いとでも言いたげなものに見えていたのだ。私はそんな物に乗ることなんてないのだが、観客のみんなもなぜか私に注目し始めてしまい完全に逃げ場を失ってしまっていた。
「カトリーナちゃん。さっきは私に勝てないからって早々に諦めてしまっていたみたいだけど、今度はカトリーナちゃんの代わりにユイさんが私と勝負してくれるんだって。普通にやっても私は負けないと思うんで、ユイさんに有利になるように司会してくれないかな。それでも私は負けないと思うんだけどね」
「そうなんですよ。私はこのままだとマリンちゃんに負けちゃうと思うんですよ。ウェルティ帝国の代表としてもここは勝つことが求められていると思うのです。なので、ズルや反則をしてもいいので私が勝てるように司会でアシストをしてください。私のちっぽけなプライドなんかよりここはウェルティ帝国が負けないという事を優先して欲しいなって思うんです。なので、カトリーナには私の勝利のために色々とお願いします」
私は司会なんてやるつもりは毛頭ないのだ。それなのに、会場に集まっている観客はずっと私を見つめてきているし、ユイさんとマリンさんは楽しそうに何やら話しているのだ。
「カトリーナに司会なんて頼めるはずもないよね。他に頼めそうな人なんて思い当たらないんだけど、ちょっと考えてみてもいいかな?」
「うーん、時間はあまりないけどユイさんがそう言うんだったら待つことにするよ」
それからどれくらい待つことになるのだろうと思っていたのだが、ユイさんは一分と少し経ったところで恐ろしいことを聞いてしまったのだ。
「じゃあ、カトリーナがダメならアスモに頼んじゃおうかな」
「ねえ、アスモって誰?」
「えっと、今は色欲大魔王って呼ばれている男ね。多くの女を見てきたと思うから審査もちゃんと出来ると思うよ」
「そうなんだ。じゃあ、ちょっと任せてみようかな」
いやいや、そんな事してはいけないでしょ。色欲大魔王がこの村に来てしまうと大変なことになってしまいそうだ。いくらいユイさんが強いからと言っても魔王軍を相手にするのは大変なんだろうな。
私はなるべくみんなの視界から消えるように行動しようとしたのだが、近所のちびっこが私の事をずっと見ていたので逃げることは出来ず、かと言ってどうすることも出来ずにいたのだった。
色欲大魔王に支配された国のお姫様(未経験)ですが美人なメイド(経験豊富)と一緒なので何も問題はありません 釧路太郎 @Kushirotaro
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