第9話 マリン姫(経験豊富)とユイさん(経験豊富)
「カトリーナは体調も悪そうですし、少し外の風に当たってきたらどうでしょう。その間に私とマリンさんでもう少し話を詰めておきますから」
「そうですね。主催者である私とスポンサーでもあるユイさんでもう少し具体的に話を詰めておいた方がいいですよね。開催までまだ少し時間はありますけど、ダラダラしてたらあっという間に時間は過ぎてしまいますもんね。それに、こうして直接お会いする機会は後何度あるかわからないですもんね」
この場にいても私の心が読まれるだけだと思うとちょっと離れておきたいという気も起きていた。それに、ここまで飛んできた時の気持ち悪さが少しずつこみ上げてきていたのだ。ちょっとでも外の風に当たって気を紛らわせておくのも必要かもしれないな。
空を飛んできたのでわからなかったのだが、マリンさんの部屋はかなり高い場所にあるらしく、眼下に広がる広大な土地に無数の建物が規則正しく並んでいるのが見えた。
こんな風に綺麗に建物が並んでいるのは街が出来る前からきちんと計画されていたものなのだろうと思うのだが、全て計画通りになっているというのはどうも好きになれないのだ。今回のアイドルコンテストもそうなのだが、私は誰かの計画に沿って行動するというのはあまり好まない。でも、今の私があるというのはユイさんの計画があってからこそという事もあるので、あまり強く否定することも出来ないんだよな。
「少しは体調も良くなりましたか?」
いつもユイさんは私を気遣ってくれている。本当に体調が悪いわけではなくて何となく居づらい感じで逃げてきたという事も理解しているんだろうな。それをわかった上で私をいつも助けてくれているのだ。
「カトリーナにいい知らせがありますよ。きっとカトリーナも喜んでくれると思いますから、心して聞いてくださいね」
「そうなんだ。私が喜ぶことってなんだろう。ちょっと期待しちゃうかも」
「カトリーナが恥ずかしいからと嫌がっていた下着審査なんですが、私もさすがに下着姿で立っているというのはおかしいのではないかと思ったんですよ。魅力を伝えるためにはそれでもいいかなって思ったんですけど、それはちょっと違うんじゃないかなって思ったんですよね」
「そうよね。やっぱり人前で肌を晒すなんておかしいもんね。ユイさんがわかってくれて本当に嬉しいわ」
「下着姿で人前に出るなんておかしいっていうカトリーナの話をマリンさんにしたところ、マリンさんも下着姿でただ突っ立っているなんてただの見世物でしかないって気付いてくれたんですよ。そこで、私とマリンさんで下着姿でただ立っているだけじゃダメだという結論に至りました」
「うんうん、それでそれで」
「下着姿でダンスをすることになったのです。この世界にはまだない文化ではありますが、男性を誘惑するために下着姿で踊って注目を集めるという事になりました。ただ黙って立っているだけでは恥ずかしいというカトリーナの意見と、せっかく舞台に立つのであれば注目されたいというマリンさんの意見をすり合わせた結果、こういう結論に至ったのです」
「ちょっと待ってもらっても良いかな。私はユイさん達が決めた事に納得も出来ないし、私の意見が汲み取られていないっていう事実にも驚いているんだけど。私は下着審査をやめて欲しいって言ってるのがわからないのかな」
「もちろん理解していますよ。カトリーナは胸も小さくて人前に出るのが恥ずかしいという事くらいわかってますよ。でも、その悩みを解決するためには人前に多く出て自分を晒すことで耐性を付けるしかないんです。他の人と比べて胸が小さいカトリーナではありますが、参加者の資料を見比べても胸の大きさ以外でカトリーナが負ける要素なんて一つもないのですよ。胸が大きいマリンさんよりも若さと張りで勝ってますし、恥ずかしがることなんて何も無いですよ」
「いや、私は別にそんなに胸が小さいとは思ってないし、勝ちたいとも思ってないんだけど。そもそも、私はアイドルコンテストなんてものに出たいなんて一言も言ってないんだよね。むしろ、出たくない方なんだけど」
「それは照れ隠しってやつですね。本当はアイドルコンテストに出てみんなからチヤホヤされたいって思ってるはずなのに、自分からそういう事を発信するのが恥ずかしいって年代ですもんね。カトリーナくらいの時は自分は目立ちたいのにそれが恥ずかしいって思うんでしょうけど、帝国のお姫様としてこれからどんどん人前に出て行くことも増えていくんですからこの機会にその恥ずかしいと思う気持ちを捨てていきましょう。何事も経験ですからね」
「それはちょっとおかしい話だと思うよ。確かに私はこれから人前に多く出ることもあるんだろうけど、その時って絶対に下着姿ではないと思うよ。それも、ユイさんが提案しているような肌の露出の多い下着なんて絶対に身に付けてないです。大体、あんな露出の激しい姿で人前に出るなてエルエル教の教義が許してくれないんじゃないですか?」
「その事なら心配ないですよ。マリンが教義自体を変えちゃいますからね。カトリーナもそんな心配してくれなくて大丈夫ですよ。それにしても、エルエル教の事まで考えてくれてたなんて、カトリーナってユイちゃんの言ってた通りに優しい人だったんですね。マリン嬉しくて泣いちゃうかも」
諦めたくないという気持ちはずっと持っているのだけれど、この人達相手に今の私が何を言っても説得できないという事は分かった。諦めたくはないのだけれど、これ以上抵抗してもっと酷いことになっても嫌だなと思えたのでここいらで妥協するしかないかもな。
下着姿で注目されるなんて嫌だ。その上ダンスをして注目されるなんてもっと嫌だ。
どうにかしてアイドルコンテストを中止することが出来ないかなと思っていたのだが、私の中で悪魔の契約にも似たとんでもない案が生まれてしまったのだ。何とかユイさんにバレないようにこの計画を進めることにしよう。
「あ、そんな事考えても無駄ですよ。色欲大魔王の軍勢をあの村に仕向けてアイドルコンテストを中止させるなんて出来ないですから。だって、そんな事をしても私が色欲大魔王軍を全滅させるだけですからね」
やっぱりユイさんは私の心を読んでしまうんだな。どうすればいいのかさっぱりわからないまま私はユイさんにダンスを教わるのであった。
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