第8話 マリン姫(経験豊富)とカトリーナ姫(未経験)
お茶のおかわりを入れてもらっていたのだが、マリンさん近くで見ても私より少し上にしか見えなかった。
聞いている話によると、エルエル教の最高指導者マリンさんがこの地位についたのは今から二十年以上前にさかのぼるはずだ。歴史の授業で学んだことがあるし、私は授業の中で歴史が一番得意で好きだったので間違いは無いはずなのだが、そうなると目の前にいるマリンさんが私の習ってきたマリンさんと同一人物なのか気になってしまう。気にはなるのだが、それを確かめる手段なんて無いのでどうすることも出来ないのだ。
「あ、カトリーナが思ってるのは半分正解ですよ。半分は不正解ですけど」
「もしかして、マリンの事で気になる事でもあるんですか?」
ユイさんもマリンさんも私の事をからかいがいのある子供みたいに見てくるのだが、そう思われていたとしてもこんな事を聞くわけにはいかないのだ。マリンさんは二十年以上前にエルエル教の最高指導者になってると習ってるんですが、今いくつですかなんて聞けないよな。聞いちゃまずいことだよな。
「その顔はアレですね。マリンがいくつなのか気になってるって顔ですね。わかりますよ。マリンって年齢より若く見えちゃうから何歳なのかわかりにくいですよね。ほら、よくある年齢当てクイズってマリンは一回で正解されたことないんですよ。やっぱりこの見た目からくる若々しさが惑わしちゃうんですかね。マリンってやっぱり罪な女ですね」
今までも何度か年齢当てクイズとやらを出題された事があるのだが、このクイズを出してくる女性は自分が若々しく見られることに誇りを持っているのだ。ここで一番やってはいけないことがある。それは、実際に思った年齢をそのまま答えることだ。答えるのであれば、その思った年齢から五歳から十歳はひいておくことが無難である。私は姫になる前にお父様に連れて行かれた貴族のパーティーで同じクイズを出されて正直に答えてしまい、危なく命を落としてしまうという事があったのだ。
「えっと、マリンさんは私よりも年上に見えるので、十七歳くらいですか?」
二十年以上前から最高指導者であるマリンさんに対してさすがに十七歳は言い過ぎてしまっただろうか。言った後に気付いたのだが、ここまであからさまな答えはかえって火に油を注いでしまうことになるのではないだろうか。私は自分の浅はかな行いを心底悔いていた。
「ええ、そう見えちゃいます。やっぱりマリンって若く見えちゃうんだな。でも、実際の年齢はもう少しだけ上なんだ。カトリーナ姫にはそう見えないかもしれないけど、マリンはカトリーナ姫よりも少し年上なんだぞ」
「えっと、マリン姫は今年で四十歳でしたっけ?」
「おいお前、余計な事言うとぶち殺すぞ。その辺の魔王よりも強いって話だけどな、こっちはお前の力を封じて一方的にボコすことだって出来るんだぞ。考えなしに適当なこと言ってんじゃねえぞ。カスが」
ユイさんが四十歳って言った瞬間にマリンさんが豹変したのだけれど、この迫力はユイさんとも違うあからさまな殺意がにじみ出ていたのだ。その殺意が向けられているのがユイさんだったのでまだ平気だが、私に向けられてしまっていたらこの場でさっきこらえた物をすべて吐き出してしまっていたかもしれない。それくらい迫力があったのだ。
「このクイズはもうやめにしようか。空気が読めない人がいると面白くなくなっちゃうからね。それで、今日はカトリーナ姫を連れてきたのはあっちの方にある村で行われる美少女コンテストにマリンも参加するって話をしに来たんだよね?」
「美少女コンテストでしたっけ?」
「いえ、アイドルコンテストです。美少女コンテストだと少女ではないマリンさんが参加出来ないと思われるのでアイドルコンテストにしてあるはずです」
「ちょっと待って、マリンはアイドルコンテストでも美少女コンテストでも問題無く出れると思うんだけど、ユイさんは何か勘違いしているのかな?」
「いえ、勘違いなんてしてないですよ。美少女というのはカトリーナのように若くて可愛らしい少女のことを言うんです。マリンさんは確かに見た目は可愛らしいですが、少女と呼ぶにはあまりにも年を重ねす」
「それ以上は言葉を選んで喋った方がいいぞ。さっきも言ったけど、余計な事はそれ以上言うなよ」
時々見受けられるマリンさんの殺気は私ではなくユイさんにだけむいているのだが、その殺気を向けられているユイさんは全く動じることも無くお茶をすすっていた。
そのまま何事も無かったかのようにユイさんはアイドルコンテストが行われる会場の設計図を開いて見せたのだが、それを見た瞬間にマリンさんからユイさんに向いていた殺気はどこかへ行ってしまったのではないかと思ってしまうほど完全に消えていたのだ。
「ちょっと、このステージって凄いじゃないですか。これだとどの席からでもマリンの美貌が見放題ですよ。これと同じのを教会にも作ってマリンの事を崇め奉ってもらおうかしら」
「これはあの村の大きさに合わせて作ったやつなので、マリンさんが教会に作りたいって言うんでしたら教会用に手直ししますけど」
「ええ、いいの。もう、ユイさんってマリンを怒らせたいのかと思っていたけど、本当は喜ばせたいって思ってたんだね。そういうツンデレなところ嫌いじゃないよ」
この二人は相性がいいのか悪いのかわからないが、見ていてちょっと面白いなとは感じていた。ユイさんは基本的に誰が相手でも対応を変えることは無いのだけれど、マリンさんが相手だといつもと少し違う感じがしているな。
「あ、マリンさんじゃなくてマリンちゃんで良いからね。私もカトリーナ姫じゃなくてカトリーナって呼んじゃうからさ」
もしかして、この人も人の心を読むことが出来るタイプの人なのか。気を付けなくちゃな。
「そうですよ。カトリーナの心を読めるのは私だけじゃないですからね」
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