第148話 女神さま久々のタイマンです。頑張ります。

 前回までのあらすじ


 ユルゲンとジルベルトを見つけました。リエラ&ジンという見たことないコンビで戦いに挑みます。


 ☆☆☆


 輝くリエラの杖――それが魔法を放つより前に、ジルベルトが指を鳴らせばサクヤを手前に玉座の間全体を結界が覆った。


 その様子に口角を上げたのはリエラだ。


「ありがと。


 リエラが口を開けば、ユルゲンへ向けて降り注ぐ無数の雷――それを躱してリエラに斬りかかるユルゲンは、凡そ初老の男性とは思えない機敏さだ。


 一瞬で間合いを詰め、「死ね――」振り下ろされたその一撃は、リエラの防護壁によって防がれた。


 甲高い音が玉座の間に響き渡り、リエラの目の前でチリチリとサーベルが火花を散らす。


 宙に飛び上がったままのユルゲン。その瞳に映るリエラが笑って指を上げるような仕草を――床が鋭く迫り上がりユルゲンを襲う。


 身を捩るユルゲン。

 その頬を石の棘が掠めて血が滲む。


 切れた間合いの外で、頬を拭うユルゲンが「なるほど。恐ろしい程の魔力だ」と


「お褒めに預かり光栄だわ」


 笑うリエラが床を杖で叩けば、ユルゲンの周囲からが迫り上がる。


 それを飛び上がって躱すユルゲン。

 交差する――が、一つに交わり垂直に伸びる。


 それを宙にいるユルゲンがサーベルで真上から叩き斬った。


 真っ二つに割れた巨大な石槍。

 それを尻目に再び距離を詰めるユルゲン。


 そのユルゲンが片手を振れば宙に浮かぶ無数の炎球と水球。

 それらがリエラに向けて唸りて飛ぶ――が、リエラの丁度眼の前で二つが打つかりリエラの視界を湯気が一瞬で奪う。


 あまり意味のなさそうなその行動に、一瞬眉を寄せたリエラだが、視界に煌めく何かから大きく距離を取るように後ろへ飛び退いた。


 薄く切れたリエラの肩からジワリと

 そこが一瞬淡く輝けば、血が止まり赤に染まった服も真っ更な白に。


「……アンチマジックの魔導具持ちとはね」


 リエラが溜息をつけば「ご名答」とユルゲンが勝ち誇ったように笑う。


 アンチマジック。言葉通り魔法を無効化する魔導具だ。

 何でもかんでも無効化出来る訳では無いが、魔導具を発動しながらを満たせば相手の魔法を消し去る事が出来る。


 防護壁で周囲を守っているリエラには、目隠しの水蒸気など何の意味もない。だが、その防護壁をとなれば話は別だ。


 剣筋を隠し、タイミングを隠す。そして最大の目的は魔導具を発動するを隠す事だろう。


 リエラの視界を奪うことで、防護壁が無くなる瞬間を見えないように、というユルゲンなりの細工というわけだ。


「先程の一撃で死んでいたら楽だったものを」


 リエラを前にユルゲンが再び見せる獰猛な笑み。魔法を無効化する手段がある以上、リエラにとっては非常に分が悪い。


「どうする? 泣いて謝れば楽に殺してやるぞ?」


 笑うユルゲンにリエラが小さく溜息。


「莫迦ね。


 クルクルと杖を回したリエラの周囲に炎球と氷塊が無数に現れた。


「馬鹿げた魔力だ……が、無駄なことを――」


 笑うユルゲンに「そう思ってなさい」笑い返したリエラが杖を突くと、ユルゲン目掛けてそれらが飛び、ユルゲンの眼の前で炎と氷が接触――激しい音と共に弾けた氷が一瞬で水蒸気に。


 急激な体積の膨張は、周囲のものを容赦なく弾き飛ばす――結界の外縁部に沿って舞い上がる湯気。


「魔法は防げても物理法則は無理でしょ?」


 杖を構えたリエラの眼の前で、周囲を白に染め上げた湯気を突き破り、ユルゲンが乱れた髪をそのままに飛び上がった――








 ジルベルトが繰り出した拳をジンは大剣の腹で受け止めた。


 大剣の腹を伝って痺れる腕に、ジンが顔を顰めつつ右の前回し蹴りを繰り出す。


 紙一重のバックステップで躱すジルベルト。

 空を切った蹴りの勢いをそのままに、ジンは左手一本で持った大剣を横に薙ぐ。


 大剣の柄頭ギリギリを持った長射程の横薙ぎは、ジルベルトの上着の一部を切り裂くに留まったが、大きく切れた間合いにジンは大剣を構え直し体中の闘気を練り上げた。


 上半身を包む炎に、ジルベルトが「ほう?」と喉を鳴らせば、その炎を揺らすような爆風が玉座の間を包み込んだ。


 ジンとジルベルトの周りにも白く立ち込める霧のような湯気――どうやらリエラも派手にやっているようだと大剣を脇構えにするジン。


 ジルベルトの向けて一気に間合いを詰めるジン。

 床を滑る大剣の切っ先が摩擦とジンの魔力で炎を舞い上げた。


 炎を纏ったジンの切り上げ。

 まるで竜のブレスのような一撃を、ジルベルトが虚空から取り出した真っ黒な剣で受け止めた。


 交差する二つの剣。

 大剣が紅く炎を揺らめかせれば、黒い剣が靄を立ち昇らせる。


 押し合う二人の視線がかち合えば、お互いが剣に込められた魔力を一気に解放――輝くそれに二人が弾かれるように間合いを切った。


「……どもか……なるほど。長い時を経て私の前に立つか」


 ジルベルトの言葉に、「どういう事だ?」とジンが再び大剣を構える。


 ジン達は確かに女神の眷属である竜を信奉しているが、それを呼ばわりされる事などはジンは知らない。

 異端などと言われる事はあったが、本来の敵である【黒い意思】をして『裏切り者の信奉者』と言わしめるという事は、竜は元々ジルベルトの仲間であったと考えられる。


が何であるか、が何故生まれたか、を何が生み出したか……それも知らないのだな」


 ジルベルトの瞳に映るのは明らかな怒りだ。


 我々と強調して言うあたり、ジンの予想通り竜とジルベルトは元々同じ立場にあったと見ていいだろう。


「知らぬのならばそれで結構……自らの罪を呪いながら死ね――」


 視線の先でジルベルトが黒い剣を振り上げた。太く長くなるそれが、大剣を構えるジンに振り下ろされる。


 それを下から迎え撃つのはジンが振るう炎の大剣。


 打つかり合う力の奔流に空間が震え、周囲に熱気が撒き散らされる。


「悪いがこれでも誠実に生きてきた方でな……罪など身に覚えがない」


 笑いながら吐き捨てたジンが、ジルベルトの一撃を弾き返した。


 剣を振り切ったジンがそのまま直進。

 切り上げで振り切った大剣を振り下ろす。

 バックステップで躱したジルベルト。

 ジンの一撃が床を穿てば、周囲に爆炎が撒き散らされる。


 破裂した床が礫となって飛び散れば、

 ジルベルトが左手を翳して全てを受け止めた。


 再び切れた間合いに、ジンは床に刺さったままの大剣横向きに――掬い上げるようにそれを持ち上げれば、巨大な床石が捲れ上がる。


 床石に姿を隠したジンは、振り上げた大剣の刃筋を戻して思い切り叩きつける。

 振り下ろされるのは炎の大剣。


 床石を溶かし、伸びる炎をジルベルトが黒い剣で受け止めた。


 ジルベルトの脇をすり抜ける炎が全てを溶かし、燃やしていく――


 吹き付ける炎の奔流を受けきったジルベルトが「まあまあだな」と髪の毛を後ろに撫でつければ、


「この程度で死んで貰っては困る」


 とジンも笑いながら大剣を構え直した。


「己の罪も知らぬ痴れ者め……貴様らは……

「例えそうだとしても、お前に裁かれる謂れはない」


 二人の身体を闘気が包み込んでいく――不意にジルベルトが何かに気がついたように、間合いを大きく切った。


「どうした? 怖気づいたか?」


 闘気を纏ったままのジンが眉を寄せれば「いやなに……が来たものでな」とジルベルトが虚空へ向けて腕を翳した。


 特に何の変化もないそれに、ジンが再び眉を寄せる中


「さあは終わりだ……


 勝ち誇った笑みのジルベルトが、一気に間合いを詰めて斬り掛かってくる。

 迎え撃つのはジンの大剣。

 炎を纏ったそれがジルベルトの黒い剣とぶつかると、周囲に熱風が吹きすさんだ――







 弾ける炎の熱気に、リエラは自身の周りを冷風で覆う。


 爽やかな風に包まれ、前髪を揺らすリエラに「解せんな」とユルゲンが溜息をついた。


「戦いの場において、無駄な労力を割く理由はなんだ?」

「そりゃ決まってるわよ。。アイツ……とっても鼻が効くから」


 杖を構えたリエラが、「乙女の嗜みよ」と笑って床を蹴った。


 ホコリを舞い上げるほどの蹴り出しが、リエラの身体を風の用に運ぶ。


 力強い踏み込みとともに突き出される杖。

 それをユルゲンが顔を逸らすだけで躱――したその先に迫る二撃目。


 目を見開いたユルゲンがサーベルで打ち上げれば、

 杖の先端が力なく浮き上がった。


「中々の腕前だ」


 笑うユルゲンが振り上げたサーベルを振り下ろす。

 その先でリエラが口角を上げて、打ち上がった先端に逆らわぬように右手をカチ上げた。

 杖頭が下からユルゲンのサーベルを迎え撃つ。


 刃筋をズラすように斜め下からサーベルを払い

 引き戻す右手と押し出す左手で、杖頭が返す刃の如くユルゲンの側頭部を襲う。


 慌てたようにユルゲンが仰け反れば、

 リエラがその場で右足を踏み鳴らした。


 パン――空間を鳴らすリエラの足踏み。


 それに反応したように、ユルゲンの背後で床が迫り上がる。


 完全に体の死んだ隙だらけのユルゲン。

 その背中に刺さる石槍――は一瞬で霧散し消えていく。


「チッ――」


 悔しげな声を漏らしたのはだ。慌てて指を鳴らせばリエラを襲う無数の風刃。

 それら全てがリエラの防御壁の前に消え去るが、その間にユルゲンが一瞬で距離を取った。


、見ーっけ」


 薄く笑うリエラに、ユルゲンは一瞬だけ苦虫を噛み潰した様な表情を見せたが、それを直ぐに勝ち誇ったようなものに。


「まあ……隠していてもバレても一緒だから問題はないがな」


 ユルゲンの言う通り、リエラが見つけた条件は中々に厳しいものだ。

 なんせ魔導具を起動さえしとけばいい。それが起動中ならユルゲンに当たればオートで効果が発動するのだから。……つまり理論的にユルゲンに魔法は効かないという事になる。


 それなのにリエラが笑っているのには理由がある――


「その魔導具……?」


 ――いかに優れているとはいえ、人が作った道具である以上必ず壊れる。要はキャパがあり、無限に受け止められるという訳ではないからだ。



 笑うリエラが杖を掲げた瞬間、周囲を覆う結界をしても防げないほどの力の奔流が周囲を包んだ。


「これは――」

「来たか!」


 ニヤリと笑ったユルゲンが振り返る先には――光に包まれ宙に浮くサクヤの姿。サクヤを包む光がゆっくりと人型を模していく中、


「サクヤ様ーーーー!」


 ジンの上げた無情な叫びだけが結界の中に木霊していた。

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