第127話 パーティには賢いやつを一人は入れとけ
登場人物
六郎とリエラ:この世界の謎に触れた感想は「ややこしい」という主人公とヒロイン。それで大丈夫か。
クロウとジン:この世界の謎に触れた感想は「この兜スゲー」という仲間二人。
☆☆☆
前回までのあらすじ
この世界の謎に触れました。最初の方の壊れたデータは……いつか語る時が来るかと思います。
☆☆☆
浮かび上がったホログラム。それをボンヤリと見上げ眉を寄せるクロウの耳に聞こえるのは、
「強ぇとエエけどの」
「アンタね。思念体よ? 強いとか強くないとか以前の問題じゃない?」
リエラと六郎の呑気な会話だ。二人共【黒い意思】なるものを叩き潰す気満々だという。
――経緯はどうあれ、ここはアタシの世界。この世界を好き勝手弄って良いのはアタシだけなの。そのアタシを差し置いて、訳の分からない奴がのさばるなんて、許せるわけ無いじゃない――
そう言い切って笑顔を咲かせたリエラは、続く六郎の「おうおう、らしくてエエやねぇか」という言葉通り、彼女らしいと言えば彼女らしい。
正直クロウとしては、良く分からない思念体などと戦うなど御免被りたい所だが、それは許してくれないとクロウの予想が嘲笑っている。
相手が何処にいて、そして何者なのか。ある程度想像出来てしまった事が、クロウに戦いから逃れられないと言う現実を突きつけている。
クロウ個人としては腹をくくるしかない。何故ならそれは避けて通れない道だったから。
だが、目の前の二人はそれを知っているのだろうか。
「盛り上がってる所悪いけどさ……二人はその【黒い意思】とやらに心当たりがあるの?」
とりあえず……とりあえずと思って紡いだ疑問だが――
「知らん」
「さあ? その辺の悪そうな奴らを潰していけばいつか辿り着くんじゃない?」
――予想通りの返答に、「だよねぇ」と苦笑いで頭を掻くしか出来ない。
リエラの回答に至っては、最早歩く災害だ。「悪そう」という主観だけでジャッジを下す女神など、【黒い意思】などより危険極まりない。
とはいえ目の前の二人は正直どうでもいい。恐らく放っておいても勝手についてきて、勝手に暴れて、笑いながら帰っていくのが目に見えているから。
だが、ジンはそうではない。彼にとって、ここから先は全く関係がないのだ。それ故、思いついた黒幕を語るか逡巡しているのだが――
「クロウ? 顔色が悪いぞ?」
不意にかけられたジンの言葉に、一瞬だけ肩を跳ねさせたクロウが「ちょっとね」と口を開きかけた時、
「あ、【黒い意思】の存在に当たりがついた?」
小首を傾げるリエラからの思わぬ発言に、思わず「何でそれを」と口走りそうになったそれを飲み込みジンをチラリと見た。
怪訝な表情のジンと視線が交差する。記憶にある幼かった面影を残す好青年。その瞳に映る「俺も戦うぞ」と言う強い意志にクロウは小さく息を吐いた。
「何時までも子供扱いは駄目だよねぇ」
ポツリと呟いた言葉に「ん?」とジンが眉を寄せるがクロウは何でも無いと手を振って誤魔化した。
「【黒い意思】の正体……多分だけどジルベルト・モートンじゃないかな?」
思い切って口走ったその名前に、勿論リエラとジンはキョトンとし、何故か六郎も「
全く人の名前を覚えていない友人に、「だよね、だよね。そんな奴だよね」とクロウの溜息は止まらない。
「ジルベルト・モートン。叔父上の補佐官みたいな男なんだけど……青年はあのオケアヌスの神殿の上で遭ってるじゃない」
「おお! あん爺んことやな。似たような名前ばっかで覚えられんわい」
悪びれる様子もなくケラケラと笑う六郎を前に、明日同じ名前を出しても「誰そいつ?」と言うんだろうな、と襲い来る頭痛に片手で頭を抑えるクロウ。
「そう言えば前もそんな話してたわね。結局誰なの?」
「あん爺じゃ。コウシャクんとこの……偉そうにワシらん事呼び出した爺がおったやろ?」
六郎の説明に、腕を組んで考えていたリエラが、「あ!」と漸く思い出したように手のひらを叩いた。
クロウは知らなかったが、どうやら六郎やリエラは王国に潜伏していたジルベルトに遭遇した事があるようだ。ただ少し話がチグハグなようで、今も――
「あの老人なら六郎が首落としたんじゃないの?」
「おう。スパっち落としたぞ。やけ顔だけ一緒ん別人やな」
「え? なにそれ? 全然意味分かんないんだけど」
――ジルベルトを殺しただの、それは別人だのと二人とも話が噛み合っていない。
「多分、影武者じゃないかなぁ? 青年が殺したのはジルベルトの名前と顔だけを持つ別人」
とりあえず話が進まないので、ある程度の終着点をクロウが差し出すことに。影武者かどうかは分からないが、とにかくジルベルト・モートンと言う人物は生きている。そして六郎と面識があることも理解している。
大事なのはそれだけだ。
兎に角二人もジルベルト影武者説に「ふーん」「そんなもんやろな」と納得してくれているようなので、話を進めることに。
「ジルベルト・モートン。叔父上の補佐官なんだけど……一度経歴を調べてみたんだよねぇ。でも何も出なかった。叔父上のもとに来るまでの経歴がなにも」
真剣な表情のクロウにリエラと六郎も真面目な顔を返す。
「一度オケアヌスの神殿の上で見た後に気になったから調べたんだよ。でも出なかった。いや、正確にはちゃんと経歴はあるんだけど、突っ込んで調べたら全部嘘だったんだよねぇ」
「お主らん調べが不十分やった可能性もあるやろ」
小さく息を吐いた六郎に、「無いとは言えないけど……あれだけ調べて何も出ないほうがおかしいよ」とクロウが肩を竦める。
実際情報収集や裏工作をメインに活動する部隊を動かしても、何も探れなかったのだ。
「とりあえず全く見えない経歴に加えて……青年は覚えてないかな。ジルベルトがあの神殿の上で言った事」
クロウの視線を受けた六郎だが、覚えてないと言う具合に肩を竦めるだけで、隣でリエラが「何聞いてたのよ」と頬を膨らませている。
「ジルベルトは言ったんだよ。『オケアヌスの魔石と肉体を媒体に、私という存在を作った』って」
再び見せるクロウの真剣な表情に、リエラが成程と頷いている。
「存在を作る……つまりその前は思念体だったって言いたいわけね」
リエラの言葉にクロウが頷くだけで答えた。
「確かに怪しいわね。でも、なんで【黒い意思】がクロウの叔父さんの補佐官なんてしてるのかしら?」
頬に指を当てて虚空に視線を彷徨わせるリエラの意見は、至極もっともな疑問だろう。そしてそれこそがクロウにとっての本題だ。
「叔父上がアルタナ教を潰そうとしてるってのは話したよね?」
一応の確認で話しを振る。正直これも覚えていない可能性があるのだが……頷く二人にホッとしてしまい「よかった。これは覚えてた」と思わず口をついてしまった事を誰も責められはしないだろう――
「そのくらい覚えてるわよ!」
――ただ一人、超絶我儘女神を除いては。
口を尖らせるリエラに、「ごめんごめん」と手を合わせながらもクロウは続ける。
「あの時はボクらも嬢ちゃんと【女神庁】の関係なんか知らなかった。だから嬢ちゃん以外の女神がいた可能性と叔父上の目的を結びつけたじゃない?」
確認を取るクロウの目の前で「そうね」と頷くのはリエラだけだ。ジンはその時の話を聞いていないので、恐らく最初から迷子だろう。迷子のはずなのに話の腰を折らない空気の読めるジンをありがたく思う反面――
「知らん。覚えとらん」
――話を聞いてたはずなのに、つい半日くらい前の話なのに……既に覚えてないどころか空気も読まずに話の腰を折る六郎に「ジンの爪の垢でも飲め」と言いたくなるのを抑えるので必死だ。
あれだけ笑顔で「【リエラ教】を乗っ取ろうとしてる」だの何だの言ってリエラを焚き付けていた本人がこれである。
とは言えコイツに文句を言っても仕方がない。何故ならコイツはそういう奴なのだ。興味が無いことはとことん覚えない。そして腹立たしいが六郎が覚えてないだろうことは既に計算のうちだ……本音を言うと計算よりも少々離脱が早かったが。
腹立たしいが計算に入っている事なので、計算通りに話を進める――要は六郎の相槌はフル無視だ。何故ならもう間もなく六郎は話に興味を失くし休憩モードに入るだろうから。
「嬢ちゃん以外の女神の可能性……そして嬢ちゃん達を狙ってたって組織……」
あの時は「それは違うだろ」と思っていたが、今は確信をもってそれがユルゲンの差金だと言える。
一度大きく息を吐いて真剣な表情を作ったクロウが続ける
「叔父上の目的は……新たな女神の創造だ」
力強く言い切ったクロウ。
「なにそれ? やっぱり【リエラ教】を狙ってるんじゃない」
口を尖らせるリエラ。
そして置いてけぼりの六郎とジンはと言うと――「終わったら起こしちくれぃ」――とジンの肩を叩き部屋の隅に座り込む六郎。
「良いのか? 敵の目的と正体を聞かなくて?」
最初は置いてけぼりだった筈のジンだが、今は何となく話の概要を掴み始めているのだろう。故に六郎にも話を聞いたほうが良いと促すのだが
「構わん。相手ん道理が分かった所でワシが叩き斬る事には変わらん。そいだけ分かっとりゃ十分じゃろうて」
笑う六郎に「そういうものか……」とジンが微妙に納得しているが、それが叶うのは六郎だけだと後で教えておいた方が良いだろう。
正も邪もない。あるのは己と相手だけ。己の振るう剣に、目的や思想を一切乗せないなど、常人に勧められる境地ではない。
それはともすれば破滅しか招かない、狂人への一歩なのだから。
とは言え、今は話を前に進めねばなるまい。とクロウは再び口を開く。
「叔父上の目的が新たな女神の創造だとしたら、どこからその情報を得たと思う?」
クロウの言葉にリエラが「調べたら分かるんじゃない」と小首を傾げた。
「いや。調べても無理だよ」
そんなリエラに首を振ったクロウが更に続ける。
「ボクらも【女神の冠】を通して初めて知った事実だ。……つまり叔父上は【女神の冠】か、それに準ずるものから情報を得たと考えられる」
「それが【黒い意思】……って事?」
腕を組んで眉を寄せるリエラは、あまり納得がいっていなそうだ。それもそうだろう。世界を滅ぼそうとしていた根源が、新たな女神生成の方法を教えるだろうか。と問われれば「否」と答えるのが普通だ。
「嬢ちゃんの気持ちもわかるよ……でも、ジルベルト・モートンが【黒い意思】だという可能性は限りなく高い。そして【黒い意思】はかつて眷属を暴走させ【魔王】を作り上げた。つまり――」
大きく息を吐いたクロウの言葉。それに続く言葉に気がついたリエラが目を見開き
「つまり、【黒い意思】は新たな女神を狙ってるってわけ?」
ポツリと呟いた言葉にクロウがゆっくりと頷く。
「それって、あなたの叔父さんは……」
「分からない」
首を振るクロウの言葉に含まれているのは、本当に「分からない」という思いだ。
ユルゲンが目的を知っているのかも「分からない」。
ユルゲンという存在がクロウの知る者なのかも「分からない」。
ユルゲンが目的を知っていたとして、協力している理由も「分からない」。
何も分からない。だが、間違いなく敵は強大だということだけは分かる。それでも――
「ま、叩き潰すからどうでもいいわ」
あっけらかんと言い放つリエラに、クロウは「頼りにしてるよ」と笑いかけ、今は座り込んで目を瞑る六郎にもチラリと視線を向ける。
避けられぬ戦いの予感を感じながらも、そこまで悲観的にならないのは、間違いなくこの二人のお陰だろうと思いつつもそれを口にする事はやめておこう、とクロウは苦笑いをこぼした。
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