第124話 SFと書いてスーパーファンタジーって読めば大丈夫
※更新が遅くなり申し訳ないです。連日の猛暑はブルーワーカーには堪えまして……。皆様もご自愛ください。
登場人物
六郎とリエラ:主人公&ヒロイン。
ジンとクロウ:アトモス戦は殆ど何もしなかった二人。
☆☆☆
前回までのあらすじ
アトモスをいわしました。これにてアクセス権限復旧プログラムは終わりです! さあ謎解きの時間だよ
☆☆☆
『アクセス権限復旧プログラム――全てのシーケンスを終了しました』
空間に響く無機質な声――
大剣をジンへと返しに歩く六郎。
二つに分かたれたアトモスを杖で突いていたリエラ。
雑談中だったジンとクロウ。
――全員がその声へと意識を向け虚空を見上げた。
『【女神庁】へのアクセス権限を復旧いたします――お帰りなさい。――――――――』
響いた声に全員が疑問符を浮かべた瞬間、全員を光が包み込む――四人が目を覆うほどのまばゆい光が。
光が収まり四人の視界に映ったのは、金属と思しき床と壁だ。真っ白な壁と床、それと少し高い天井。踏みしめる感覚から金属に類する固い材質だとは思われるが、それ以上は分からない。
奥へと伸びる一本の廊下の脇には、廊下の長さに比して少ない扉らしき物と、その上に点灯する緑の魔導灯。
「……ここだ」
その光景にポツリと呟いたクロウが、壁をゆっくりと指でなぞる。
ギルバートの探索隊としてダンジョンに潜っていた頃、一度だけ辿り着いた下層と思しきフロア。
全てが真っ白な金属出できた床と壁は、紛れもなくクロウが迷い込んだあのフロアそのものだった。
「確かこの扉を触ると――」
呟いたクロウが、壁と同じ様な扉に触れると、「――プシュッ」と何かが抜ける様な音とともに、扉が開いた。
「なぁんかこらぁ!」
自動で開く扉にテンションマックスな六郎。フロア中に響く大声に、「ちょっと、シーッ!」とクロウが口の前で指を立てるが――
『イジョウナ コエ ヲ ケンチ シマシタ』
無機質な声とともに、金属で出来た球体が複数現れた。それはリエラがギルバートの宝物庫から拝借したあの『ガードボット』と呼んだ物と全く同じだ。
「でた! こいつらが――」
「多分大丈夫よ。権限が回復してるなら」
身構えるクロウを、リエラが手で制しながらガードボット達の前へと進み出る。
「アクセス権限者なんだけど、退いてもらえないかしら?」
口を開くリエラの頬を汗が伝う。大丈夫だとは言ったものの、自信はないのだろう。
暫く睨み合いを続けるガードボットとリエラ達――ちなみに六郎だけは「なんじゃこらぁ、自動で開くぞ?」と何度も扉を開閉してはテンション高く笑っている。
六郎を除き睨み合う両者。ガードボットのレンズが照準を合わせるように絞ったり開いたりを繰り返し
『アクセス ケンゲン ヲ ニンショウ シマシタ。オカエリナサイ』
と背を向けフロアの奥へと飛び立つ――
「待って! コントロール・ルームに案内して欲しいんだけど」
――飛び立つガードボットの背にリエラが声をかければ、再び振り返るガードボット達。
クロウもジンも『コントロール・ルーム』が何なのか分からないが、ここは黙っているべきだと判断したのか、顔を見合わせるだけで何も言わない。
……唯一六郎だけが漏らす「うーん、飽いたの」という自動ドアへの感動から冷めた声が響くだけだ。
暫く黙ったままだったガードボットであるが、一体だけがフヨフヨとリエラの前に――それを見た残りが全て飛び立った事から、どうやらこの一体が案内役として残ったと見て良いのだろう。
その証拠に、リエラを先導するようにゆっくりとフロアの奥へと進み始めたのだ。
無機質な白い空間を、ガードボットに先導されながら四人が進む。
奥へと続くだけだと思われた廊下は、他にも横に曲がる道があったりと、多くはないが幾つかの脇道も存在している。今もまたその脇道の一つを折れ曲がり、同じ様な廊下をガードボットに先導されながら進んでいく。
異様な光景にキョロキョロと辺りを見回すジンとクロウ。そしていつになく真剣な表情なリエラと、退屈そうに欠伸を噛み殺す六郎。
「一体何の施設なんだろうねぇ」
「【女神庁】と言っていたが……」
小声で会話を交わした二人が、同時に前を歩くリエラとガードボットに視線を向けた。リエラが
実際リエラも内心それどころではない。
ガードボットが現れてから、否……このフロアに足を踏み入れてから……違う。もっと前から――そう【女神庁】という言葉を聞いてから、頭痛が酷くなってきているのだ。
酷くなる頭痛と共に、去来するのは――ここを知っている――という確信めいた思い。
だがそれだけだ。
知ってはいる。この場所を。だが、それが何だったのか、何故知っているのか。それは知らない。
そうこれも確信めいた思い。分からない、忘れている、ではなく知らない。
この場所だけは知っている。この風景は知っている。だがそれ以外は知らない。あまりにも矛盾するような記憶の奔流に、リエラの頭痛は増し悪寒すらしてきた。
頭痛と悪寒が本能的に訴えてくる――この先に進むべきではない、と。
リエラとて馬鹿ではない。六郎と一緒に馬鹿なことをしてはいるが、怠惰ではあったものの千年の経験と、何より隣接する世界を覗き込んで得た知識が幾ばくかはあるのだ。
場所を知っているが、その目的も何も知らないという理由に、思い当たる節が一つある。
たった一つだけ。
それはあまりにも残酷で知りたくもない真実。
それでもこの先に進む以外はない。進みたくはないと思う反面、進まねば、知らねばならぬという思いもあるのだ。
より一層酷くなる頭痛にリエラが顔を顰めた瞬間、その頭に六郎の手が触れる。
「心配しなや。ワシが居るやねぇか」
笑う六郎の言葉の真意は分からない。リエラの不安や頭痛に気づいての発言だろうか。いや、六郎に限ってそれはない。とリエラは自嘲気味に笑って、
「アンタね……もうこの先に強敵なんて出ないわよ」
そして頬を膨らませた。そんなリエラに「なんじゃ? そうなんか。ツマラン」と六郎が溜息をついた。
リエラの予想通り、「何がいても叩き斬ってやる」という物理的な応援だった事に
「ホンっと女心が分からないんだから」
とブツブツと悪態をつくもものの、それでもブレない六郎の存在が今は有り難かったりする。この先に何が待っていようとも、この男なら……六郎なら何一つ変わらずにいてくれるだろうと。
幾つかの廊下を抜け、幾つかの部屋を横目に過ぎた四人の前に現れたのは、巨大な金属製の扉だ。
真ん中にスジが入っている事から両開きの扉なのだろうそれは、近づいても触れても開くことはない。その上に灯る真っ赤な魔導灯が示すように、何かしらのロックがかかっている事は間違いない。
『コントロール・ルーム ニ ツキマシタ アンナイ ヲ シュウリョウ シマス』
そんなロックを解除してくれるわけでもなく、無機質な音声だけを残して飛び去るガードボット。
「……で? これはどうやって開くの?」
それを見送りながら口を開いたクロウに、「ぶち破ればよかろう」と六郎が拳を握りしめ――
「待って」
――拳を握る六郎の裾をリエラが引っ張った。
「待って。多分開けられる」
大きく息を吐いたリエラが扉の横に見えるパネルに手を触れる――
『アクセス者認証中――――■■女■■■■■八。現在のアクセス権限所有者と認定。扉を開きます――』
――無機質な声の後に、『――プシュッ』と何かが抜ける音がして開く扉。開いた扉の先から流れてくるのは、少し冷たい空気。
扉の先に広がる真っ暗な空間に、「行くわよ」とリエラが一歩を踏み出せば、それに反応して一気に部屋全体が明るくなった。
光に照らされるのは、部屋の中央に鎮座する巨大な球体。天井から伸びる無数のコードに繋がれ、ドクドクとゆっくり脈打つ球体の向こう側には、大きなコンピュータが一つだけ。
ほぼ壁一面に広がるそれに、「あれがコンソールね」と歩きだすリエラ。
「もうオジサン何が何だか」
「奇遇だな俺もだ」
いきなり飛び込んでくる摩訶不思議な光景に、頭を抑えるのはクロウとジン。意外にも無反応な六郎は、一度『輪廻の輪』で似たように浮かぶモニター群をみた経験があるからだ。
加えてそのモニターに似たような景色を幾つも見たこともある。
ここも変わった光景だが、宙に浮かび続け、様々なシーンを切り取ったモニターの方が六郎からしたら驚きと言った所だろう。
コンソールに辿り着いたリエラが再びそれに手を翳す――起動音とともに立ち上がるのホログラムの画面だ。
浮き上がった画面に「うお」「なんだ?」とクロウとジンが構える中、モニターの中央で一つのマークがクルクルと回転している。回転を続ける太陽と月を模したマーク――アルタナ教と少しにているが、意匠が違うそれが画面の中央で裏表なくクルクルと回転を続けている。
暫く回転するマークを眺めていた四人の耳に――
『システム【女神の冠】へようこそ。何をお求めですか?』
響いてきたのは、『アクセス権限復旧プログラム』を告げていたあの声だ。
「……こ、これが【女神の冠】? こんな物どうやって……」
持って帰り方が分からない。そう言いたげなジンを無視してリエラがコンソールのキーボードを叩く。
空宙に浮くホログラムに表示されるのは、ジンやクロウでは解読できない文字――『ダンジョン文字』だ。
「な、なんて書いてあるんだ?」
ホログラムに映し出された文字を目で追うジンに、リエラが「そうね……」と顎に手を当てながら同じように文字を目で追っていく。
「【女神庁】の変遷。
気候変動への対策。
人口推移表
ダンジョン管理
あ、これはジンにとって朗報ね……【女神の冠】のインストール。
……文字化けしてるわ……【何とか】奪還の歴史
ここも文字化け。……【何とか】への対策。そして――」
読み上げていたリエラの声が一瞬止まり、大きく息を呑んだ。
「――人造女神計画について……」
固い言葉で放たれたそれを、四人全員が理解できなかった。
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