第85話 いつか水ん中でも戦ってみてぇの。だそうです。
登場人物
六郎:水の上を走り回る戦闘狂。グリーンバジリスクもビックリな主人公
リエラ:ヒロイン。目下の悩みは、倒した敵の魔石や素材が、湖底に消えること。ロクロー? 大丈夫でしょ。
ジン:実は水の上をちょっとだけ歩けた。今はその事をサクヤに報告したくてウズウズしている。
クロウ:六郎が認める器用なオジサン。ちょこっと教えただけの技術を自分のモノに。いつか裏切ると目されているのに、技術を教える六郎に気持ち悪さを感じている。その理由が、「そのほうが楽しそうだから」と言う事を聞いたら恐らくドン引きするかも。
☆☆☆
前回までのあらすじ
『原始のダンジョン』五層目に出現した水没都市(遺跡)六郎達を襲うサハギンだが、型破り六郎にモンスター達もドン引き。
分が悪いと仲間を呼んだのだが――
サハギン、騎馬を出すと、テンション上がって襲ってくる種族を知る
☆☆☆
「おお! 騎馬武者までおるんか」
楽しそうに笑う六郎。それを睨みつける馬上のサハギン。両者の視線が交差する中、
「ロクロー殿、気をつけろケルピーだ!」
氷の上で数体のサハギンを倒していたジンが、六郎に声を上げた。
ケルピーは水中、水上を自由自在に高速で移動するモンスターだ。加えて魔法も使用するという点で、脅威度はサハギンより上だ。
そんなケルピーに跨る
いくら六郎が水の上を走れると言っても、完全に相手のフィールドだ。今までは水中からの攻撃だけを気にしていたら良かったが、これからは水中だけでなく、水上からの攻撃も加わる。
「ロクロー殿!」
サハギンを斬り捨てたジンが再度警告の声を張り上げるが、当の六郎は――
「まるで武田の騎馬隊んごたるの!」
――突如として出現した騎馬隊に、目を輝かせていた。
六郎が戰場に立つ頃には、既に過去の存在となっていた戦国最強と名高い武田の騎馬隊。見た目こそ異形の者たちだが、その目は真っ直ぐ六郎を見据え、歴戦の猛者を思わせる闘気だ。
睨み合う六郎とケルピーライダーたち。最初に動いたのはケルピーだった。
ケルピーの周囲に浮かんだ水球。いくつものそれが、六郎目掛けて飛びかかる。
縦横無尽に飛び回る水球を、六郎が飛んで、跳ねて、身を捩って躱していく。
大きく飛んで、湖面を滑った六郎。一瞬出来た隙に、銛を片手に猛スピードで突進してくるケルピーライダー達。
整わない体勢、一糸乱れぬ高速の突進。
六郎の反応が一瞬だけ遅れる。
その一瞬で十分だった。既にケルピーライダーの持った銛の先端は六郎の鼻先まで――
六郎を貫いたかに見えたその一撃。
それを六郎は水面に滑り込むように躱す。
尻で水面を器用に滑った六郎が、ケルピーライダーの下を潜り抜け、「エエ連携じゃ」と笑う。
殺されかけている男の発言とは思えないそれに、ジンは思わず生唾を飲み込んだ。
「首ば落としちゃるけぇ早う来んか」
笑う六郎にケルピーライダー達が、飛び回る水球が、水上を水中を縦横無尽に移動しながら襲いかかる――
一際激しい戦闘音を聞きながら、クロウは面倒そうに頬を掻いている。
「出来たら退いてくれると嬉しいなぁ」
クロウの目の前には、六郎と同様のケルピーライダー達だ。
敵を倒しながら、ジリジリと神殿に近づいていたクロウだが、神殿までもう少しという所で、厄介な相手に掴またのだ。
「話……聞いてる?」
両手を上げてまるで降参のような格好のクロウに、ケルピーライダー達の顔は心なしかニヤついているように見えなくもない。
「いやぁ……ホント退いてくれないかな?」
クロウが小さくため息をつくが、ケルピーライダー達は聞く耳を持たぬように、クロウへ向けて突進――クロウまで銛の先端があと僅かと言う所で、ケルピーライダーの身体がバラバラになり、クロウの脇を肉片が飛び散っていく。
「だから退いてくれって言ったのに――」
クロウが指を鳴らすと、別のケルピーライダーの首が綺麗に宙を舞った。
「――君たちは死ななくて済むし、僕は無駄に疲れなくて済んだのに」
一瞬で仲間が数体バラバラになり、そして今一体の首が宙を舞った。ケルピーライダー達が警戒の体勢を取り周囲に水球を発生させるが、それは遅すぎた。
「残念。陸地まで辿り着いちゃったよ」
そう笑ったクロウが指を鳴らすと、ケルピーライダー達の周りに巨大な竜巻が発生する。
為す術もなく、それに飲み込まれ、弾け飛ぶ水球と切り刻まれたケルピーライダー達。上空まで打ち上げられた死体が音を立てて水面に打つかっては消えていく。
その光景を冷めた目で見ていたクロウが――
「ホント、魔法は陸の上に限るねぇ……水の上は発動に気を使うし、時間がかかるし……」
――ポツリと呟きながら、神殿から少し遠い位置でケルピーライダー相手に無手で立ち会っている六郎を振り返った。
「あー、やだやだ。こんな神経使う魔力操作しながら、あんなに暴れられるなんてねぇ?」
肩を竦めるクロウだが、その顔はどことなく嬉しそうでもある。
「多分青年なら、僕の不可視の刃にも気づくんだろうなぁ」
そう言いながら、今度は六郎を眺めているリエラに視線を移した。その視線に気がついたのか、振り向いたリエラが意味深に笑い再び六郎へと視線を戻す。
「もう一人も大概化け物だしねぇ」
自分の足場になっている氷と、見目麗しい
水中から高速で迫り上がってきたケルピーライダーの一突きを、六郎は胸の前で白刃取り。
合掌の形で受け止められた一撃を、驚いたような表情で見つめるケルピーライダー。
「突進が弱ぇの」
笑う六郎に、いや自分たちの突進が止められてしまったという事実に、周囲のケルピーライダーの足が文字通り止まった。
受け止めた銛を掴んだ六郎が、水中からケルピーライダーを引きずり出し、銛をぶん取りながら、馬ごと上空へと殴り飛ばす。
高々と舞い上がった仲間を、一瞬目で追ってしまったのがいけなかった。ケルピーライダーが六郎に視線を戻した時、六郎の姿はその目の前に――
「ワシを前に、余所見たぁ余裕やの」
六郎の手がぶれたかと思えば、ケルピーごとライダーの首が宙を舞った。銛の柄で無理やり千切った醜い切断面から、ゴボゴボと水に似た色の血が流れ落ちる。
首を千切った衝撃で曲がった銛を、六郎が投擲――
歪な形の銛が、音速を越える。
衝撃波で水面を割りながら別の一匹に飛来。
それに気づいたケルピーライダーが慌てて回避行動
躱したと思った一撃だが、衝撃波の影響か、ケルピーがグラつく。
その前に現れた六郎が、ライダーに飛びかかる。
首を右脇に固め左手で銛を抑えこんだ六郎が、ケルピーの首を蹴って側宙。
勢いのついた側宙に、ライダーの身体がついていかずに鈍い音だけを残して水中へと消えていった。
「さて、主で最後じゃ」
奪い取った銛を肩に不敵に笑い、手招きをする六郎。その殺気に一瞬だけ戸惑ったケルピーライダーだが、その身を丸め、突進の構えに――
「意気や良し」
その言葉が合図だったように、六郎へと向けて今日一番の速度で突っ込んでくるケルピーライダー。
突き出される銛と銛。
方や頬を掠め、方や馬の首を貫きライダーの胸まで辿り着いた穂先。
身体を貫かれて尚、勢いの止まらぬ突進で、六郎が水上で踏ん張った足を滑らせていく。
漸く止まったのは、リエラが凍らせた部分に足がかかった頃。
「よか攻撃じゃった――」
笑った六郎が、突き刺した銛を両手に持ち、ケルピーライダーを上へと刺し上げる。水上を浮いているケルピーだが、明らかに持ち上げられているかのように遥か上へ――そのまま六郎は一本背負いの様に、ケルピーごと上のサハギンを凍った湖面に叩きつけた。
分厚い氷にヒビが入り、そのヒビの間を水色の血が染め上げていく。
「中々エエ勝負やったの」
六郎の言葉に呼応するように、まだ残っていたサハギン達も、勇姿を称えるかのように、一匹、また一匹と水底へと帰っていく。
残ったのは、再び訪れた静寂と誰かが漏らした小さな溜息。そして六郎の「何じゃ? もう終わりか?」と言う脳天気な声。
暫く経っても穏やかな湖面に、全員の視線が集まる。周囲を見渡しても何かが襲ってくる気配どころか、生き物の気配すら消え去っているように感じられる静寂だ。
「……通っていいって事かしら?」
「だと思うよ。ほら、扉開いてるし」
クロウの声が示すように、神殿の大扉がいつの間にか開き、その先には昏い空間が続いている。
まるで巨大な生物の口の中のようだが、この先に進まねば帰れない。
静寂の中に四人の立てる足音と、「親玉は何かのぅ」という六郎の脳天気な声。四人が神殿に消えて間もなく、辺りは静寂に包まれ、再びフロアには滴り落ちる水の音だけが木霊していた。
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