第64話 こいつら呼び出されてばっかりだよね。
※コメントで「あらすじ」や「登場人物紹介」があると助かるとご要望がありましたので、登場人物おさらいと短いあらすじを入れてます。……こんな感じでいいのかな?
☆☆☆
登場人物(三章の主要な人達)
六郎:主人公。戦狂い。
リエラ:ヒロイン。女神だけどざんね――グフッ
ギルバート:商人。六郎達を呼びつけたのに無視されて癇癪の真っ最中。豚。
ジン:ミスリルランク冒険者。胸と腹を見せつける露出狂。
中年男性:やれやれ系オジサン。意味深な事ばかり言う奴。今の所現実では友達になりたくないNO1。
ジルベルト:影武者たくさんの爺。暗躍大好き。すぐ闇に紛れる。でも影武者はしゃしゃり出てくるのが好き。そしてコイツも意味深な――以下略
☆☆☆
前回までのあらすじ
王国をボコボコにした六郎とリエラは、噂を聞きつけた
☆☆☆
ギルドを出た三人は、その横を通る路地を更に奥へと進んでいく――途中何かに気がついたように立ち止まった六郎。
「何よ? どうかしたの?」
リエラの問に六郎は「いんや」と答えながらも、遥か遠くに見える防壁の上辺りに視線を飛ばしている。
立ち止まり間が空いてしまった二人に、ジンが気が付き振り返った瞬間、六郎は口角を上げただけで再びジンの元へと歩いていく。
「アンタよくこんな距離で気づくわね」
溜息をついたリエラに「そらぁ長年の勘じゃ」と笑う六郎。
リエラには全く分からなかったものの、どうやら防壁の上に六郎が興味を惹かれる様な相手がいたのだと理解した。
二人の会話に疑問符を浮かべ、チラリと振り返るだけのジンに「気にしなや」と六郎がヒラヒラ手をふる。
その所作で首を更に傾げたジンだが、先を急ぐ必要があるのだろう。それ以上は追求することなく、人通りの少なくなってきた路地を足早に進んでいく。
足早に抜けていく路地――あれだけ多かった人の姿は既に見えず、周りの風景も掘っ立て小屋のような見窄らしい建物が目立ち始めた。
「クラルヴァインの裏の姿……ってところかしら」
遠くに聞こえる喧騒を振り返りながら、リエラが口を開いた。
「ワシは嫌いやねぇがの」
笑う六郎が周囲から感じる視線に、少しだけ圧を飛ばす――リエラにも感じる敵意を持っていた視線が霧散していく中、「あまり刺激しないでくれよ」とジンが振り返りながら溜息をついた。
完全に掘っ立て小屋だけになった景色――路地の突き当たりにある他と何ら変わらない掘っ立て小屋の前でジンが立ち止まり、「フー」と大きく息を吐く。
今にも外れそうな扉をノックすること三回。
「……ジンです。例のお二人がお見えになりました」
少しだけ開いた扉の隙間から、男がひとり顔を覗かせる――「入れ」――短い言葉と扉の隙間だけを残して、男は再び小屋の中へ。
「――どうぞ」
六郎とリエラを促すように、ジンが扉を開く。
扉を潜った二人を待ち受けていたのは、想像より綺麗に整理された室内と、その真中に座る一人の少女。
和服としか思えない服を身にまとった、黒髪黒目の美しい少女。
そしてその少女を囲むように立つ複数の男たちと側仕えと思しき女性たち。
側仕えの女性たちは、市井の女性と見分けがつかないが、護衛と思しき男たちは個性的な格好だ。
全員がジンのような出で立ちで、上半身は半裸に近い服の上から、法被のようは上着を羽織っている。
「どことなく和の雰囲気を感じるの」
そんな家主達を前に、六郎は笑いながら自分の振り袖を見る。逆に家主達は六郎の姿を見て、あからさまにザワついている。
嬉しそうな六郎。ザワつく男たち。そのどれとも違うのは――
「そうね……」
――真剣な表情のリエラだ。
「それで? 滅んじゃった東の国の関係者が何の用かしら?」
リエラの言葉に、六郎が「ほう」と片眉を上げ男たちを眺めている。
「……東ん国云うたら、こん振袖があったっち国やな」
六郎の言葉にリエラが頷く。
「元々この都市国家連合の辺りにあった国よ……その名残で今も連合の人達の中には、その法被みたいの着てる人がいるでしょ?」
リエラが顎でしゃくる先、男たちが着ている法被を見た六郎が「確かにの」と頷いている。
実際襲ってきた中年男性も似たような服を羽織っていたし、街中ですれ違う人の中にも、そういった服を着ている人を何人も見ている。
なので男たちだけの出で立ちなら、そう珍しくはない。
とにかく男たちや側仕えだけなら、「東の国の関係者」と断定することは無かっただろう。だが、その真中にいる少女の姿は、隠しようがない。
黒い髪に黒い瞳。六郎の振袖を彷彿とさせる桜の意匠が凝らされた着物。
それを見事に着こなした少女が、少々不釣り合いな椅子に腰掛け真剣な表情で二人を見ているのだ。
「お呼び立てして申し訳ありません。サクヤと申します――」
頭を下げるサクヤと名乗る少女に、分かりやすく周囲が慌てだす。
「ワシは六郎」
「リエラよ」
名乗った二人に「ご丁寧にどうも」とサクヤが再び頭を下げた。
「さて、お二人にお越しいただいたのは、私達に協力して欲しいからです」
真剣な表情のサクヤが話を切り出した。
「まず、リエラ様の仰る通り、私達は亡国の関係者……いえ、私に至っては亡国の王家、その血筋を引いております」
その説明に「ま、でしょうね」と納得気味のリエラと「おうおう、ホンマもんの姫さんかいな」とカラカラ笑う六郎。
サクヤに対する態度が気に食わないのだろうか、護衛の男たちから僅かな怒気が漏れ出るが、それをサクヤが一睨みする事ですぐさま霧散していく。
「……私達は、祖国を復興させようと考えております」
居住まいを直し真剣な眼差しのサクヤに、リエラは大きく溜息をついた。言葉にせずとも「面倒事に巻き込むな」と言う雰囲気はサクヤにも、周りにも伝わったのだろう。
故に――
「お二人に、祖国再興のお願いをしている訳ではございません」
――慌てふためくように手を挙げ、周囲を牽制するサクヤ。
「じゃ、何をしろって云うのよ?」
猫を被ることのないリエラにを、六郎は珍しい物を見るような目で見ている。
「……お二人には、ジンに協力して失われた国宝の代わりを探すのを手伝って欲しいのです」
その言葉にリエラと六郎はジンに視線をやり、小首を傾げた。
「国宝の代わり?」
「はい。元々の国宝は失われて久しく、探し出すあてもないのです」
リエラの言葉にジンは黙ったまま、目を瞑り頷いただけで、代わりに答えたのはサクヤの方だった。どうやら主従関係がかなりハッキリしてしているのだろう。
主であるサクヤが話している間は、その会話に入れないとばかりに、目を伏せ続けるジンは何処か申し訳無さそうにも見える。
沈痛な面持ちで下を向くサクヤに、リエラと六郎は顔を見合わせる。
「ちなみに、失われた国宝って?」
「……【女神の衣】と呼ばれる特殊な服です」
サクヤの言葉に六郎は「女神ぃ?」とリエラを見ながら、その僧服を引っ張った。
「莫迦ね! アタシが今着てる服なわけないでしょ」
リエラの呆れた顔と苦笑いの六郎。そしてそんな二人のやり取りの意味が分からないサクヤやジン、そして護衛や側仕えがキョトンとした表情を見せている。
「ごめんなさい。話が逸れたわね……で、その【女神の衣】ってのはどんな服なのかしら?」
「……文献にしか残っていないのですが……私が着ている様な服で、文献によると女神様をその身に降臨させる事が出来るそうです」
サクヤの言葉に、内心リエラは「あちゃー。これヤバいやつじゃない」と溜息をついている。
間違いなく六郎が羽織っている振袖がその国宝だ。
もちろん六郎はそんな事など知らない。そしてリエラも今始めて六郎の羽織っているのが、自分も持つ【女神の秘宝】の一種だと知ったのだ。
神器だということは知っていたが、まさか完全和風の振袖が、自分の持つ【杖】を含めた四つある秘宝の一つだなどと思うはずがない。
「……一ついいかしら?」
「はい」
質問の内容を逡巡するリエラが、何度か深呼吸。そして――
「なぜ女神は、東の国の意匠の衣を?」
――紡ぎ出した質問は、身構えていたサクヤたちからしたら、拍子抜けするほどの内容だった。
実際は「もし【女神の衣】が見つかったら?」と聞くつもりだったのに、それを聞いてしまえば駄目な気がして、とっさに質問を切り替えたのだ。
「……【女神の衣】は着る物にとって一番相応しい形に姿を変えると言われています。初めは真っ白なワンピースだったそうですよ」
その言葉にリエラは漸く納得した。
元々ワンピースだったものが、東の国の王族に渡り、振袖に姿を変えた。そして代々少しずつ形や意匠を変えて受け継がれてきたのだろう。
だからこそ彼女たちは思っている。まさか失われた当時のまま、振袖状態のまま【女神の衣】が現存しているわけなどないと。
誰かの手に渡り、その人が必要だと感じた瞬間形を変えるのだ。それがどの様な形になるのかなど誰にも想像ができない。
「なるほど……形を変えるから見つけようがない。だから代わりの国宝を準備して、それを旗印に祖国の復興を――ってところかしら?」
リエラの言葉に「仰るとおりです」とサクヤが笑顔で頷いた。
「それで、その代わりの国宝は――」
「よう分からんが、妖術ば込められた振袖なら、ワシん羽織っとるコレもそうやねぇんか?」
まさかの自爆発言に、リエラが弾かれたように六郎を見た。
「アンタ――」
莫迦なの? その言葉は続かない。……分かっている。分かって言っているのだ。この男は、自分が羽織っているのが、件の国宝の可能性があると分かって言っている。
口角を上げた六郎の表情に、リエラはその一点だけは確信できる……が、その真意は計り知れない。
「仮にこん振袖が、主らん国宝やったらどうすんね?」
サクヤとジン以外は、あまり友好的とは言えない状況でこの発言。まるで目の前の男たちに喧嘩を吹っ掛ける発言――
「ちょっと、アンタまさか――」
「周りん連中はワシらん事に納得しとらんじゃろうが?」
笑う六郎が放つ殺気に、サクヤの護衛達が腰を落とし剣の柄に手をかけた。
「そいが、主らん応えっち事でエエんやな?」
膨れ上がる男達の殺気の中、六郎の嬉しそうな声が響き渡った――
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