第2話 ご利用は計画的に
どこまでも続く真っ白な空間とそれを埋め尽くすような無数のモニター。
床に継ぎ目はなく、壁もどこにあるのかわからない。
例えるとすると、真っ白なボールに取り込まれた……と言うところだろうか。
右も左も上も下も――どこを見ても白しか無く、その先がわからない。
そんな真っ白な空間に点在するモニターの縁は青白く光輝き、まるで白い空間が切り取られたようだ。
表からも裏からも同じ光景が見える不思議なモニターは、それぞれが様々なシーンを映し出している。
ある一つは砂漠で大きな岩を運ぶ人を
ある一つは電車の中でスマホを触る人を
ある一つは宙を行く車の中で談笑する人を
ここは今が点在せし時空の狭間。
三途
ステュクス
ギョッル
様々な川の名前で伝えられし、あの世とこの世を繋ぐ場所。
そして数多の世界をより集めた輪廻の輪とも言える。
そんな空間に一人の女が浮いている。
腰まで届く髪は黄金に輝き、双眸はサファイアのごとく美しい。
この世の美を全て集めたと言われても納得しうる顔。
唯一欠点を上げるとすると……少々スレンダーなところだろうか。
彼女はこの輪廻の輪を形作る、一つの世界を管理する女神。
そのスレンダーな肢体を真っ白な衣で覆い、女神は横たわるように浮きながら手に持ったタブレット、を睨みつけている。
「ゔーーー……なんでアタシってこんなに引きが悪いのよ……他の女神のところは入れ喰いなのに」
低い声で唸る女神。どうやら見た目と喋り方のギャップがある女神のようだ。
睨みつけていたダブレットを片手に、空中に身体を投げ出すように大の字になる女神。
「もう
大の字から今度は体育座りのように身体を丸め、ダブレットに集中し始めた。
「んー。やっぱ超大当たりは地球の日本人。更に言えば平成後期から令和にかけてか……」
タブレットに映るのは様々な人の顔と出身地の星や国、そして生きていた時代やプロフィールが表示されている。
その上位を占めるの人々のプロフィール欄、その中でも出身地などを示す部分はコピペかというほど全く同じなのだ。
「あ、一番上の超大当たりの人が消えちゃった――引きの強い神はいいわよね」
リアルタイムで更新される情報のそれは、女神が見ている今も人の入れ替わりが激しい。
情報が無くなるということは、つまり
どこかの神によって呼び出された。
天国や地獄といったあの世へと渡った。
同じ星で時を超えた時空の迷子になった。
のどれかという事になる。
ただ上位に表示されている人間たちは、殆ど世界を渡って転生することを選ぶ。
故に女神は『引きの強い神』という言葉をこぼしてしまったのだ。
今も女神の見ている前で情報はドンドン更新されていく。それでも上位陣の出身地などはほぼ固定というから恐ろしいものだが。
溜息をつきながら、女神はタブレットに映る情報を所在なさげに上下させている。
そんな女神がふと手を止めた――
「ゲ、またいるじゃん……ナーンジャーク星人。この前なけなしの石使って引いて来たやつと同じ星ってことよね」
女神は情報の最下位に表示されている男性を見て顔を歪め、タブレットの映像を切り替えた。
そこに映っていたのは一人の男性……潰れたカエルのように地面に這いつくばっているという特殊な状況下だが。
「重力に耐えられないとか意味分かんないわよ……転生時にボーナスも与えられない私が悪いんだけど」
片手で顔を覆いながらタブレットに映った映像を消す女神。
「はぁ……どうしよう。私の世界……せめて強そうな人が来てくれたらいいんだけどなー」
ブツブツ呟きながら、女神は再びタブレットを操作する――瞬間女神が両手でタブレットを掴み顔を思い切り近づけた。
「え? ナニコレ…………」
女神が目を見開く先、タブレットに映し出されたのは、カプセルトイに良く似たマシンが描かれた画面。
金ピカに光るカプセルトイのマシンを更に電飾が鮮やかに照らし出し、マシンの両隣では笑顔の天使と悪魔が手を振っている。
そしてマシンの上には――
『日本人限定ガチャ』
と虹色に輝く文字で表記されている。
「……初めて見たんだけど――あ、でもいつもの石の五倍もかかるじゃない!」
表示された文字を見た瞬間、「無理よ」と叫びながら五体投地の如く大の字になる女神。
大の字になり溜息をつく女神の視線の先には――横向きに立つ別の女神とその前で困惑している青年。先程タブレットに表示されていた青年と瓜二つだ。
重力の概念のないここでは、それぞれが管理する空間が上下左右様々な方向で混在している。
女神の視線の先の世界は、女神の管理する世界と垂直に交わっているのだろう。
気になった女神は大の字に寝転がったままそちらへと近づいていく――ある程度昇った所で、女神はまるで見えない壁に阻まれるように顔をひしゃげて、その上昇を止めた。
その視線の先、今まさに青年が異世界へと送り出されようとしている――
『それでは貴方の第二の人生の幸あらんことを――』
美しい笑顔を見せた壁の向こうの女神――それを見るこちらの女神の顔が見る間に歪んでいく。
「くっそ、アイツ……アタシと同じ底辺女神だったじゃないの」
壁をドンドンと叩くがもちろん境界を壊したりすることなど出来るはずもなく――
必死に壁を叩く女神の視線の先で、壁向こうの女神は勝ち誇った笑みを浮かべ、出現させたタブレットを操作する。
タブレットを消した壁の向こうの女神は、もう一度こちらの女神を見つめ「フッ」と嘲笑いそのままその姿を消してしまった。
「は? なにあの態度――」
『ピロン』
呆ける女神のタブレットに届いた通知音。
タブレットに表示されたメッセージアプリを開いた女神の顔が見る間に硬直していく――
女神の持つタブレットに表示されていたのは『頑張ってね。負け犬さん』というメッセージと、その後に付けられた馬鹿にしたような笑い顔のスタンプ。
「くっそあンの駄女神ぃぃぃぃ! ちょっと前までは『私達底辺の二人。ズッ友だよ』とかメッセージ送ってきてたくせにぃぃぃぃぃ」
真っ白な空間に響き渡る女神の絶叫。だがそれを聞いてくれるものなどいない。
一頻り暴れて叫びまくった女神。
今は疲れ果てたようにその身をダラリと宙へと投げ出しプカプカと浮いている。
そんな女神の横に浮くタブレットから『ピロン』という通知を知らせる音。
通知が鳴っても暫く反応しなかった女神であるが、諦めたようにタブレットを手に取る。
やる気のない半目の女神がタブレットを起動――瞬間、女神が再びタブレットを両手で掴みその顔を近づけた。
そこに記載されていたのは――
『生誕記念。貴方の世界は只今を持って生誕千年を迎えました。その頑張りを称え貴方にプレゼント』
「
タブレットを掲げる女神が狂喜乱舞。
人に見られたら恥ずか死ぬ舞いだが、底辺女神の事を気にするものなどこの世界の境界には誰もいない。
「さーて、どうしよっかなー。五回分か……」
タブレット表示されたカプセルトイマシンを行ったり来たりさせる女神。
一つは『通常ガチャ』と表示された銀色のカプセルトイマシン。
そしてもう一つは『日本人限定ガチャ』と書かれた金色のカプセルトイマシン。
画面を行き来させる女神は、タブレットを睨みつけたり、天を仰いでみたり、頭を抱えてみたりと忙しなく動いている。
暫く悩んでいた女神だが、ついに腹を決めたように一つの画面で手を止めた。
その画面は――
「……よし決めたわ。一発逆転! 五回分の石をつぎ込んで私は上流女神になる!」
叫んだ女神がタブレットに表示された『ガチャる』と言う虹色のボタンをタップ。
『ドゥルルルルルルル――』
女神の持つタブレットが輝き、女神が支配する境界内を明るく照らし出す――
「キターーーーー! これって超大当たりってことよね!」
期待する女神の視線の先、白い空間に光が降り注ぎそこに人影が現れた――
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