第23話 野山の虹

 ドワーフ、男女共ずんぐりむっくりのキン肉マン。

採掘と精錬、鍛冶を生業とする種族で力持ちの為、女性も採掘には加わる、

同族意識が強く、仲間内では陽気だが、対外的には打ち解けれず無愛想、

職人気質が強い、街中で見かける事は少ない。


 「ドワーフさん」声を掛けるトオルを無視して通り過ぎようとする。

「ガチャン、ガチャン」金属棒を打ち鳴らす、ドワーフの足が止まる、

打ち合わせていた金属棒を目の前に突き出すと、引っ手繰る様に受け取り

二本の棒を凝視する、こちらに目が向いた時さらに二本突き出す。

ワナワナと震える唇が動く前に「ここは往来、別の場所でお話を」

頷き、付いて来るのをクランに案内して部屋を借りる。

二人に成った途端、顔が迫る「こんな鉄どこで作る、そっちは見た事も無い」

「最初の二本はステンとアルミと称する物で、この世界には存在しない」

「そうなのか、確かここは異星人のクランだったな、納得だ」

「後の二本は鉄と鋼」「ああ、見るからに純度が良いのが判る」

「取引は別の者に紹介するが、私はこの国の鉱物、色々の金属の材料に成る石を

探そうとする者だ」「成程、鉱石を探す者の伝手が欲しいのか?」

「あちらの世界の鉱物の知識は有るが、こちらで通用するかもわからん」

「あんなもの見せられたら血が騒ぐ、交渉は十日後で頼む、里に帰り相談する」 

「なら、この棒もってけ、証拠がある方が良いだろう」

「我らではこの棒は作れんが、打つのを試してもいいか?」「好きにしろ」

「秘密だとか、隠すとかが普通だし、駆け引きせんのか?」

「交渉の時、異世界を見せて貰えるよう話をする」「そこまでか」

「鉱石見本や鉄見本、武器、道具持ち込めばよい、あ一寸待て」

少し待たされて不審げな様子に成るが「借りてきた、これを持ってけ」

「この袋は何だ?」「アイテムバッグだよ、荷物多いと大変だろう」

「馬車2台分は入るそうだ」「…、信用し過ぎだ、これ一個で一生食える」

「見たいだろう異世界、打ちたいだろう最高の剣、村が変るぞ、お前次第だ」

ーーー

 サユリはギルドに来ていた、現地四人組と採取に出かける為だ。

現地の4人は慣れた様子で、常時依頼の募集掲示板に向かい、数枚選んで剥がす

サユリは職員に尋ねる、「薬草の図鑑とか資料は有りませんか」

「これしかないですね」羊皮紙に書かれた粗雑な物だった。

紙を返しながら礼を述べて皆と塀の外に向かう、


 ここドラゴン・シティは街と森の間を数十m開けて有る。

街の外側は2m程の柵で囲って魔獣、猛獣の突然の侵入を防ぐ目的と

見晴らしが良い事で、侵入者の特定ができる様にしてある。

街の警備はドラゴン達だ、普段はドラゴニュート化して住民と同様の暮らしを

営んでいるが、緊急時は頼りに成る仲間なのだ。

 

 突然に出来た街である為、街自身は不具合も多い。

棚の外に出ると開けた空間以外は全て手つかずの大自然、鬱葱とした森、

森との境界付近を観ていた一人が「あそこ、ヒール草が有る」と指さす。

大きい木を切るとよくある事だが、陽当りが良くなり、落ち葉の腐葉土と

相俟って、日陰で細々と育っていた物が勢いを増す「この辺り一面ヒール草」

皆が一斉に取り始めるがサユリはスマホを取り出し「ガシャリ」と撮影

「これは何処に成分が有るの?」「成分って何ですか」聞き返されて

「葉とか、茎とか、根とか、材料に成る場所の事」

「一本丸ごとですが、根を残すと数日で生えてきます」

「花とか種は無いの、こんなに沢山あるのに?」

「夜咲いて、朝には地面に落ちると言われてて、見た事ありません」

「判った、ありがとう」と言ってボイスレコーダを切る。

「見てる物が映る、それは何ですか?」メンバーの問いに

帰って来てから説明する事にして作業を進めていく

 一辺が10キロもある街なので、周囲から始めたが、意外に時間が必要そうだ。

ヒール草、キュア草、スリーブ草、よもぎ、ゲンノショウコが見つかり、

依頼完了後、薬師と言われる方を訪ねた。

栄養ドリンクと緑茶のペットボトルを差し出す、栄養ドリンクの瓶を物珍げに

眺めているので開け方を教え飲むように言う。

警戒が強い様なので数本出して、目を瞑り一本選び呑むと、安心した様に飲んで

「何ともヒール剤の出来損ないか、しかし恐ろしく甘いのう」

ペットボトルも同様にして飲ませる「お茶なのか?、頭と口が爽やかになる」

開け閉めして「これは良いのう、入れて置くのに欲しいのう」

やっと、糸口が見つかった後は意外にオープンで、タイラーと名乗った

薬の作り方、保存の仕方、

を教えてもらい、所持していた容器を渡し、今後の交流を約束した。

「ホールドステート」と言う状態魔法で維持するとは…

酸化による劣化が遅い物に、不活性化の効果が出るのだろう、

細菌等に拠らぬものにはより効果がある。


 クランは基本的に個人に介入はしないが、メンバーを支援する事は厭わない。

薬剤関連は今後の移住にも関連する事でもある為、特に重要。

サユリは図鑑作りを続ける一方で、ヤマト内で製薬業を営なむ人材を捜している、

何故なら、もし日本国内でヒール剤を作れば、薬事法違反に成る。

薬として作るには承認審査が必要だからで、効果が有っても安全性の証明がいる。

今後、日本国内での魔法ででの治療行為も問題になるだろうし、課題の一つだ

憶測で有るが、地球人は他の世界の薬は飲めない、一族と異世界人は全て飲める、

たた、地球のお茶の効果が、異世界人には強く表れる等の事は起こる。


 廃業した工場が見つかった。

置き薬の会社の工場であるが、コロナで需要が一気に落ちて、廃業していた。

工場長や社長は高齢だし、息子達中年が主力で働いていた為、窮状にある、

話を持ち込むが、高齢の二人は日本の薬事法に拘り、話が進まない状態になり、

諦めかけた時、アキラを診てくれた医者が現れた、従業員の一人が呼んだようだ。

「お久しぶりです、確かアキラ君のお母さんですね」「ご無沙汰してます…」

挨拶もそこそこに経過を説明し、異世界で使用されてる薬草の使用の現状と

予測ではあるが、一族と異世界人に有る何かの身体的機能と、治療名を冠する

薬草の成分に、地球に無い物が含まれていて、それの効果が得られる為、

薬草の名の由来に成ったのではないか、同様の効果の魔法も有り、使用される。

それなら、均一の効果が有る物を提供したいと、相談しに来た事を話す。

「薬事法ですか」「日本ではダメでもここは異世界、最終的に龍司様の判断かと」

「ねえミズノ社長、貴方も含めてここに居るのは一族だ、全員で承認審査しましょ

一族の特徴の一つ、間違ってると思ったら保留にする、社長達が飲まねば保留」

その言葉で用意してきた数種類の物を継ぎ分けると、その場の者が次々試飲、

意外にも二人もすぐ試飲した。

二人は責任感での薬事法云々であって、現状異世界で使用されてるならと思い、

概ね納得もしているが万一を思い、命にかかわる事で踏ん切りがつかなかった、

織田医師と知人であり、その言葉で吹っ切れた。

 後に、ミズノ製薬ヒールドリンク、キュアドリンク、ゲンノショウコ下痢止、

よもぎ止血止等の薬剤が売り出され、異世界の常備薬に成る。

ーーー

 シティの周囲の薬草の分布が纏まる頃、ドワーフのドヴォル一行が戻った。

龍神国アラルの隣国で、ヘパト王国、ほぼドワーフの国、山岳で高い山も多い、

ゲートが解放されて間もなくで、無料で制限や監視もしていない。

ドラゴン・シティで見かけたドワーフが、別大陸の者とは驚きに値するが、

集団でゲートをくぐる豪胆さにも感心する。

 今回のアランの申し出が、それほど魅力的な話だったのだろう。

一族も宗二を始め商社と、取引の有る製鉄所から技術系の人を借り出していた。

持ってきた物を広げる、鉱石、ニッケル、クロム、金、銀、銅…地球産と同様

逆に言えば鉱物は何でも在ると言える。

「その鉄のインゴットの様な物は?」

「魔鉄と言う、性質は鉄と同様だが魔力を貯めれる」

「魔力は出し入れできるのか?」

「普通の者は日常魔法のライトや着火、温水、クリーン等、その日で消費する程度

しか能力が無いが、魔法系、特に攻撃魔法の能力の高い者は使わなくて余れば、

貯めて置いて必要な時利用できるし、同時に使えば自分の能力以上の事もできる」

魔鉄以外にも魔法金属は有るぞ、それにな、数種類の組み合わせで動かせたとの

ロストテクノロジーと言われる物も有ったらしいが、現状詳細不明で、

まさかここで魔動機関の話が出るとは、予想外であった。


 この後製鉄所の見学や鍋釜食器に、車やクレーン等を見た彼らは半狂乱状態、

自らの技術が大陸一であると言う自負が消し飛んだのだ、その技術の差は絶望的。

孰れ今後、彼ら生活基盤を損ねぬ様に思考模索が始まる事に成る。

そこは上の人が考える事、トオルとサユリ達の一行は国に帰るドワーフに同行し

鉱床を捜す仕事の始まりだ。

 ギルド証とドラゴン・ランド国民証、マジックバック、数日分の日本国の食材、

ミズノ製薬回復セットと金貨が哲二の言葉と共に渡された。

「生きて帰るる事、楽しんで来い、何か有ったら心で叫べ」

クラン設立後、初の長距離遠征隊は出かけた。

ーーー

ー野山の虹ー

 トオル アキラ父 山師

 サユリ アキラ母 薬草士

  四名 現地Ⅽ級冒険者

タイラー 薬師

  織田 医師

 ミズノ ミズノ製薬社長

ドヴォル 商人兼族幹部 ドワーフ国

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龍族の末裔 山野狸 @satuki2386

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