第11話 初めての部活①
「やっと来たのね。ほんと、来るのが遅いのよ」
茶道室と書かれた部屋に入って璃々にそうそう言われる。
今日は部活のためにここに来た。
初めての部活をするということで楽しみにしている…………わけではなく、実際は本気で今すぐに帰りたい。
面倒くさくて仕方がない。ここまで来たら適当な作文を書いて、部活をやめておいた方が楽だったかもしれないと思う。
だが、今更やめようと思っても遅い。ここまで来てしまったからだ。
それになぜやるのがゴミ拾いで、部員が2人しかいないのかもよくわからない。
先生の独断のせいだ。
璃々の機嫌は悪くなく、今のがジョークだということに気づく。
まあ、言葉は鋭いが。
「別に遅れてないからいいだろ。時間には間に合っている」
約束の正午のほんの少し前。
嘘はついていない。ちゃんと守っている。
逆に遅れてこなかったのは素晴らしいと思う。
いつもの俺なら1時間ぐらい遅刻してきてちょうど掃除が終わったころに謝りながら登場するところだ。
感謝してもらいたい。
「ギリギリじゃない。もっと意識高く持てないから成績も上がらないのよ。何事においても意識を高く持つことが重要なのよ」
「いかにも自称進学校の教師が言いそうなことだな。ていうか、璃々が意識高い理由がわからない。あんなに嫌がっていたのに」
「嫌がっていたと意識高いはつながらないわよ。私はこの学校じゃ、ほとんど欠点のない完璧で優秀な女の子なの。時間に余裕を持つのはそのためよ」
「あくまでも自分の立場のためにね…………そこまでやる必要あるのか」
「うっさいわね。あんたにはわかんないわよ…………あんただけには…………わかるわけない」
少しだけ暗い感じになってしまう。
どうやら地雷を掘ってしまったようだ。なにがいけなかったのかよくわからない。
本当に女心というものは難しいと自覚した。
そして、気まずい。
「邪魔するぞ」
そんな時、ちょうど部屋のドアが開いて加藤先生が入ってくる。
ベストタイミングだった。
今日に限ってはナイスと言わざるを得ない。
「どうした。喧嘩でもしているのか?」
「いや、そんなつもりないですよ。なんですか、先生!」
「そうか。じゃあ、全員集合したことだし、最初の仕事に入るとするか。ついてこい」
そういって先生が歩き出した。
俺たちもそれについていく。
その途中で小声で璃々が、
「とりあえず仕事はおおかたあんたにやってもらうつもりだから、そこのところはよろしくね」
「どういうことだ。全くもって意味がわからない」
「もちろん、私はか弱い女の子だからに決まってるでしょ。私の代わりにあんたがやればいいのよ」
「理不尽だ…………」
「ああ、それと言い忘れていたが、この掃除の目的は協力にある。もちろん2人は協力してしてもらうからな。どちらかがサボるとかはこの私が許さない」
「!?」
「ふ…………」
璃々の思惑は叶いそうにないらしい。
少しだるそうな顔をしているのが滑稽に思える。
笑っていると物凄い形相で睨まれた。
これ以上はやめておこう。
「わかっているのか、桐島」
「……え、なにがです?」
急に先生が俺目がけて言ってくる。
なにがなんだかわからず、困惑する。
「なに自分は大丈夫みたいな顔をしているんだ。君が一番心配なんだ。途中で帰ったりするなよ。ちゃんと天寺の手伝いをするんだぞ」
「…………」
「返事は?」
「…………はい」
「ふ…………」
璃々から俺がしたのと同じように鼻で笑われる。
仕返しのようだ。
「どうしてこうなるんだ…………」
ため息をつく。印象は大事だと俺は学んだ。
ここまで信用が違うものらしい。
本当は璃々の方が酷いのに。
少しでも印象は上げておくべきだった。
そんなことを考えてながら歩いていく。
普段生徒は入ることができないところを堂々と進んでいった。
途中でドアが見える。カギを使って開け、入ってみる。
すると、そこに広がっていたのは階段だった。
そこを降りると目的の場所についた。
加藤先生がその場で止まり、言う。
「ここだ。ここの掃除を君たちに任せる」
「うわぁ…………」
そこは倉庫だった。ほぼ全く使われていない倉庫。
見たらわかる。汚い。
もの凄く汚かった。ほこりが宙に舞っていて、少し臭い。
「この場所は元々大事な書類の隠し場所や物置き場として使っていたんだが、色々あって数年前から使われていない。少々汚いと思うが綺麗にしてもらいたい」
「本当に掃除するんですか…………?」
「ああ、もちろんだとも」
「これは…………結構時間かかりそうだな」
ほこりを取るので1,2時間かかりそう。
夕方に帰れるかわからない。
「ていうか、先生って仕事としてこんなの任されていたんですね」
璃々が言う。
「教師というのは大変なんだ。これでわかっただろう」
「生徒におしつけている時点で最低ってこともわかったですけど」
俺は皮肉交じりに言っておいた。
「別に私はおしつけてなどいない。ただ単に君たちの教育をしたくてやっているのだ!」
「もっともらしい言い訳ですね」
「それに、だ。掃除とか抜きにしても私はこのような機会を取るつもりでいた。君たちには色々と足りていないものがある。それを補うためにこの部活を作った」
続けて先生は言う。
「君たちにはもっと経験を積んで欲しい。そして人間として成長してほしいんだ。これは私の勝手な願いだ。でも、それだけ君たちには期待しているんだ。私が見込んだのだから間違いない」
「偏見過ぎません!?」
「ああ、もちろんだとも。私は生徒を独断と偏見で選んでひいきする教師なのでな」
「それ、教師として大丈夫なのかよ……」
「ふふ、もちろんやってはいけないことだ。教師とは本来、全員を公平に判断して教えるべき存在だ。それを破っているのだから教師としては最低と言わざるを得ないな」
笑いながら言う。
「それではな。あそこに掃除道具も入っている。あとは任せた」
「え、先生は行っちゃうんですか!?」
「そうだ。私がいても足でまといなだけだしな。協力してこの倉庫を片付けておいてくれ。もちろん終わったら報酬も用意しておこう」
「報酬って…………」
「ではな」
そういって先生は先に戻っていく。
「あの人…………結局私たちに全部押し付けて逃げて言ったわね」
「…………だな」
俺たち2人は深いため息をついて、掃除を開始する。
学校一の超絶天才美少女は幼馴染の俺にだけ冷酷なようです シア07 @sia1007
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