第10話 協力

「ゴミ拾いですか…………いったいどうしてそんなことに……」


 璃々も俺も困惑していた。

 ゴミ拾いをする部活なんて聞いたことがない。

 ていうか、部活にそんなことをしていいのだろうか。

 不思議に思う。


「簡単だ。社交的なことをすれば、君たちの精神も少しばかり成長するだろう。そうすれば、作文のようなものなんてすらすら書けるようになるかもしれない」


「ゴミ拾いにそんな効果ありますかね。それって面倒くさいゴミ拾いを生徒に任せたいだけじゃないんですか?」


「そ、そんなわけないだろう。私にだって色々とある。上の先生から掃除を頼まれたとか馬鹿馬鹿しい理由ではない!」


「…………それ言ってるようなもんだろ…………」


「先生…………信じてたのに」


「ち、違う。私はそんな人間ではない! というか、昇進に掃除ごときが関わるはずがなかろう!」


 焦りで声を荒げていた。

 自分でそれに気づいたようで、恥ずかしそうな様子を見せる。


「ごほん。取り乱したな。…………悪い」


 今までのことを全部リセットするがごとく、咳ばらいをした。

 そして、加藤先生がまた話し出す。


「…………たしかに私にも少しだけゲスな考えがあったことは認めよう」


「結局認めるのかよ!」


「まあ、それはそうとして。私がこれを選んだのには大きな理由がある。それは、協力できるという点だ」


「協力……ですか?」


 璃々は疑問そうに首をかしげている。


「ああ、掃除とは一種の共同作業だ。みなで一致団結し、ゴミを回収する。簡単だと思えるかもしれないが、人数が少ないのなら協力をしなければならない」



「つまるところ君たちにはぴったりだ。しかも学校ですぐに行える。単純に学校ということで経費も掛からなく、コスパがいい。まさに一石二鳥といえるだろう」


「あはは…………そうかもしれませんね!」


 璃々は最初は不満があったようだが、途中からイエスマンに変わった。

 先生を説得することができないと理解したのだろう。

 変に難癖をつけると先生からの評価が下がる可能性がある。

 だから、すぐに切り替えたのだ。


 頭が良すぎる。俺にはできない芸当だ。

 俺はつい、文句を言ってしまう。


「いや、それって単に先生が仕事と部活を一緒に行えるから一石二鳥ってことでしょ。俺たちに全く関係ない気がするんですけど…………」


「そ、その辺はもういい。とりあえず君たちは私が作り上げた部活に入ったんだ。拒否権はない」


「…………もはや生徒ハラスメント、訳してセイハラだな」


「おい、そんなこと周りの人に言いふらすなよ。面倒くさいことになるかもしれないかもしれないからな」


「…………それ大丈夫なのかよ」


「まあ、そんなわけだ。やることは決定している。明日は土曜日。つまり休みの日だ。だから、明日にやるぞ」


「だからって理由にはならないと思うんだが…………」


「………………私は忙しい。これから部活の名前や予算。それと廃部させた茶道部の件とか色々解決しなければならない」


 必死に意見をしてみる。

 しかし、先生には俺の話に聞く素振りすらない。

 止めるのは無理そうだ。


「ていうか、その茶道部の件って一体なんなんですか…………」


 さっきから気になっていたことだ。

 部室をどうやって手に入れたのか純粋に気になる。

 まあ、多分この先生のことだ。力技だろう。


「…………では、これで私は失礼させてもらう。また明日会おう。集合時間は正午ちょうどとする」


 加藤先生はそれだけを言い残して逃げるように部屋を出て行った。


「はぁ…………さらに面倒くさいことになったわね」


「そうだな。あの先生はもっとしっかりしているというか、割と先生らしい人だと思っていたが…………そうではなかったみたいだな」


「どこがよ。私は最初からわかってたわよ。人を見る目もあると思ってるから」


「自慢かよ」


「自慢よ。でもまあ、あの人は大丈夫でしょうね。少しだけ変なところもあるけど、それ以上に素質がある。先生だからって考案して丸1日で部活を建設するなんて普通は無理よ。行動力がありすぎるってことね。優秀だわ、加藤先生は……」


「へぇ……璃々は人のことを褒めるなんて珍しいな」


「普段の私はもっと人のことを褒めるわよ。まあ、もっともあんただけは絶対褒めたりなんかしないけどね」


「ふざけんな。俺だっていいところいっぱいあるだろ。ていうか、ほんとに人格変わりすぎだ!」


「いちいちうっさいわね。別にいいでしょ。猫を被るくらい。誰だってしてるじゃない」


「お前のは普通の人とは違うレベルなんだよな」


「どういう意味よ。私が異常者とでも言いたいわけ?」


「まあ…………言い方を変えればそうなるな」


「最低。女子にそんなこというなんてほんと酷い奴ね! あんたこそ一番掃除するべき存在なのよ!」


「おい、ちょっと待て。言いすぎだろ。俺にだって心はあるんだぞ!?」


「ならそう言われない心にすればいいじゃない。それだけのことでしょ」


「でも俺の言ってることも正論だろ」


「正論だからって人前で言っていいことと悪いことがあるでしょ。その区別をつけなさいよ」


「ぐ…………正論だ」


 俺は口論に負けた。

 自分から挑んでおいて、コテンパンにされた。完全に完璧に言い負かされた。


 璃々はやはり頭がいい。

 前の璃々とは大違いだ。口論なんかで負けたこと、一度もなかったのに。

 少しだけ寂しくなる。


「まあ、今日のところはこれで終わりにしてあげる。私、早く家に帰って勉強しなくちゃいけないし、もう帰るわ」


「…………俺も帰るか……また、明日な」


「ふん…………また明日ね」


 少し偉そうだが、璃々は優しく言った。

 そのまま出ていく。

 俺はその姿を見届けた後、自分自身も部屋を出る。


「ていうか、カギどうすんだよ。閉めなくてもいいのか、この部屋。……まあいっか。明日もまた来るらしいし。人も来ないだろうしな」


 俺はなにもせず、学校から帰って、速攻で寝た。

 眠気が酷かった。

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